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返事のかわりに

返事のかわりに

十以上ある運動部の中の数人が問題をおかして、あたしは運動部部長として反省会を開くことになった。
とは言っても、各部の顧問の先生と部長、生活指導の先生も会に参加してくれたし、生徒会長で親友でもある清四郎が反省会の指示を出してくれていたので助かった。
反省会は滞りなく進み、すっかり春めいて日が長くなっていたから、明るい内に終えることができた。
あたしはカバンを取りに生徒会室に戻ると、清四郎と野梨子が部屋で待っていてくれた。

「お疲れさま」

清四郎はテーブルで作業していたけど、あたしが入るなり、それを止めて立ち上がった。

「悠理、長い時間大変でしたわね」

野梨子も気遣ってくれる。
ちょうどコーヒーが入ったから持って来ますわ、と言って、簡易給湯室に入っていった。

「どうでした?上手くいった?」
「うん。清四郎が言ってくれたようにしたから、上手くいった」
「良かった。生活指導が入ると聞いて、ちょっと面倒だと思ったんですがね」
「ううん。本人達も充分反省していたから、大事に至らずに済んだ」
「運動部部長の進行も良かったんですよ」

いつになく優しい清四郎にちょっとドギマギして、あたしは清四郎の横を通りすぎた。

「でも無事に終わって良かったー!自分が指導されるんならいつものことだけど、そうじゃないからやりにくかった」
「相手の立場に立てたから、良い経験だったでしょ」

あたしの後にいるのが分かる。

「ん~。でも、もうコリゴリ。今度やったらブッ飛ばすって言っといたよ」
「あはは。それなら大丈夫でしょ。一番効き目がありそう」

「コーヒーが入りました」

振り返ると、トレーを持った野梨子が微笑んでいる。
トレーの上には、二人分のマグカップが載っている。

「私は今から父様と約束がありますから、おいとましますわね」
「待っていてくれて、ありがと」
「どういたしまして。清四郎にちゃんと送ってもらうんですのよ、悠理」
「まだ明るいもん。平気だい」
「ちゃんと送りますから、野梨子。安心して下さい」
「分かりましたわ。それでは、ごきげんよう」
「バイバ~イ」

野梨子はクリーム色の、まだ冬のコートを着込んで部屋を出て行った。
温かい内に飲もうと言って、清四郎はテーブルに着くとコーヒーを啜る。
あたしはマグカップを持って窓辺に行く。
さっきまで春の、澄んだよう青空が広がっていたのに、あっという間に空は怪しげな雲で覆われていた。
そして、そんな空を見上げていると、ゾクッと背中に震えるような寒さを覚えた。

「どうしました?」

清四郎が立ち上がって近付いて来る。

「空が、ちょっと怪しげ。雨でも降るのかな」

隣に立った清四郎は、同じ窓から空を見上げる。
顔が近すぎて、寒かったはずがパッと頬が熱くなる。
様子がおかしいあたしを、清四郎は振り返り、怪訝そうに見つめる。

「熱でもあるんじゃないか?」

形の良い大きな手が、あたしに伸びて額に触れる。

「あ、あるワケないじゃん!」
「んん~、そうでもなさそうですよ。さっき部屋に入って来た時、ちょっと顔色が悪かったんですよね」
「え・・・?」

なかなか離れない清四郎の手が、今度はあたしの頬に触れる。

「ちょっと熱っぽいかな。インフルエンザの予防接種はしましたよね、僕の病院で」
「うん。みんなと」
「じゃあ、かかっても軽く済むかな。まだまだインフルエンザは流行ってますから」

早く帰った方が良いと言って、清四郎はあたしにマスクをさせる。

「コートは?」
「着て来ない。だって車だったもん」
「そう言えば、僕も」

清四郎はロッカーから自分のマフラーを取り出すと、あたしの首根っこからマスクの上までグルグルに巻く。
でも、あったかくて良い香り。

「名輪さんを呼んだ方がいい」
「うん」

連絡すると、二十分で着くと言う。

「清四郎も乗っていって」
「ええ、お言葉に甘えて」

待っている間、清四郎が二人分のマグカップを片付ける。
そうしている内に、名輪から到着のメールが届く。

「着いたって。行こう」

カバンを持ってドアに向かおうとした時・・・
清四郎の腕があたしの肩を抱き、片腕にすっぽり納めると、もう片方でマフラーをずらして・・・マスク越しに唇が触れた・・・

「!!!」

余りにも突然のことで、あたしはカバンを床に落とし、固まってしまった。

「な、なんで?」
「理由は・・・今、悠理にはこうしてあげるのが一番かと思って」

少しずつ体が離れて行くのはちょっと淋しかったけど、体はどんどん熱くなるのが分かる。
これは、体調のせいではないな、きっと。

「インフルエンザなら、僕に移ったか」
「え?」
「行こう。名輪さんが待っている」
「うん」

二人急ぎ足で、校門前に停まっている車に乗り込む。
車の中では、会話らしい会話はほとんどなかった。
やがて、フロントガラスにパラパラと雨の滴が落ちる。

そして、あたしは、思う。
顔色なんて初めから悪くなくって、多分さっきの出来事は、この間の清四郎の答えなんだって。
そう。
この間、あたしは清四郎に言ったんだ。

「魅録より、美童より、清四郎が気になる」

ってね。そしたら、

「ありがとう。少し時間をくれたら、お返事します」

と言ってくれた。

清四郎の家の前で車が停まる。
あたしの言葉を待つように、清四郎は動かない。
だからあたしは、心に浮かんだ言葉を告げる。

「いいの?」
「いいよ」
「名輪。あたしちょっと清四郎の家に寄りたいから、また後で迎えに来てくれる?」

はい、お嬢様。と言って、あたしと清四郎を降ろして出発する。
何となく二人で車を見送ると、清四郎があたしの腕を取る。
振り返ると、にっこりと微笑んでいる。

「部屋で、ゆっくりして行くといい」
「うん。ねぇ、清四郎、本当にあたしでいいの?」
「もちろん。だから、こうしているんです」

さっきパラパラと振りだした雨はもう止んで、雲間から、今日最後のわずかな陽射しがあたし達を照らした。




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