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噂が呼ぶもの

噂が呼ぶもの

清四郎宅のリビングでメンバーがくつろいでいる時、顔色の優れない悠理が彼へ言った。

「清四郎、ちょっと気分が悪いんだ。迎えを呼んでくれる?」
「どうした?お腹でも痛いの?」
「ううん。なんか、吐き気がする。酷くはないんだけど」
「僕の部屋で横になるといい」
「汚すといけないから。迎えに来てもらううよ」
「いいから。今車に乗るのは良くないよ。薬を飲んで横になる方がいい」

近くにいた野梨子も言う。

「そうですわよ。清四郎の言う通り、お薬を飲んで横になると良いですわ。用意して持って行きますから、清四郎とお部屋へお行きになって」

清四郎は悠理の背を抱くようにして二階へ向かう。
他のメンバーも心配をしながら、これ以上いてはと帰り支度を始めた。

「私と清四郎がいるから大丈夫ですわ。魅録も心配でしょうけれど、大病院が後ろに控えておりますもの、心配の必要はありませんことよ」
「分かった。でも、もうちょっと落ち着いたら帰るよ。悠理の顔、見たらな」
「今お薬を持って様子を見てきますわ」
「了解」

悠理が清四郎の部屋に入ると、彼女は彼を気にすることなく服をするすると脱ぎ始めた。
幼馴染みで気遣い無用の間柄とあって、彼も気にすることなくベッドを整え、自分のジャージをクローゼットから出して彼女に差し出す。

「吐きそう?」
「ムカムカはするんだけど吐くまではいかない感じ」
「お腹の痛みとか下痢とかはない?」
「うん。それはないんだ」
「胃腸炎じゃないといいんだけど。変な物食べたりしなかった?」
「いつも通り」
「分かった。まずは薬を飲んで様子をみましょう。落ち着いたら迎えを呼んであげる」

彼の目の前でアンダーウェアになり、それから彼の大きなジャージに着替える。
顔色は確かに優れないが、しっかりした返答で体調の度合いが分かる。

「僕のは悠理には大き過ぎるけど、体を締め付けない方がいいからね」

彼女はうんと言ってベッドに入った。
頃合い良く野梨子が部屋に入ってくる。
ドアが半開きであるのが、二人の関係を示す。

「どうですの、悠理。」
「ちょっとだけムカムカ。でもさっきよりはいいかな。可憐の香水がキツかったのかも」
「あら、そうでしたかしら。私は気にならなかったですけど・・・つわりの方みたいですわね、悠理」

刹那、野梨子の冗談がその場の言葉を失わせる。

「ダイニングの棚にある薬箱から吐き気止めを持ってきましたの。これで間違いありませんわよね、清四郎」
「ええ、間違いありません」
「悠理、これを飲んで休んで。もう少ししたらまた来ますからね」

悠理が薬を飲むと、清四郎と野梨子は部屋を出ていった。
リビングに戻るとメンバーはまだ残っていた。

「悠理ってば、食べ過ぎたんじゃないの?」

可憐が言う。

「ちょっとムカムカするだけで、腹痛も下痢もないそうです」
「可憐の香水がキツいって言っていましたけど」
「え?今日はわたし着けてないわ。清四郎の家に行くだけだから、化粧だってファンデとリップだけよ」

「また何かに取り憑かれたとか・・・」

美童が思わず口許を押さえて言った。

「まさかの妊娠!?」

ふざけた可憐もそう言って、皆一瞬目を合わせた。

「取り憑かれた感じではありませんでしたね」

率直に清四郎が答える。

「妊娠だって、あの悠理があり得ないでしょ?」

その時まで黙っていた魅録が、様子を見てくると言ってリビングを出た。

「まさか、ね」

美童が肩を竦める。

「でも最近の悠理はちょっと違って見えたよ、僕には。綺麗になったって言うのかな、大人っぽくなったって言うのかな」
「魅録・・・?」

「さあさあ、ここは清四郎に任せて」

場を察して、野梨子が美童と可憐を連れて玄関へと向かう。

「では清四郎、後はお願い致しますわ。魅録も・・・」
「分かりました。悠理は多分もう落ち着いたでしょ」

清四郎は野梨子へ目で合図を送り、三人は帰っていった。
彼が自室へ向かうとドアは閉めてあり、ノックして返事を待つ。

「清四郎」

魅録が声をかける。
ドアを開けると、悠理はベッドの上で起き上がっており、二人は笑顔で清四郎を迎えた。

「みんなであたしの変なうわさをしてるって聞いたよ」
「まさかと思って、思わず本人に確認したさ。バンド仲間とかバイク仲間とか、思い当たることないかって」
「あっは!確かに男子君とは日々仲良くしてるけど、誰もあたしを女として遊んでないって」
「じゃあ、やっぱり変な物を食べたんですかね」
「そんなつもりはなかったけどな」
「どうせ食べ過ぎだろ?」
「薬で落ち着いたの、悠理」
「うん」
「俺と帰ろうか?送ってくぜ。バイクでも大丈夫だろ」
「いや、僕が迎えを頼みましょう。眠気が出てもいけないから」
「分かった。じゃあな、悠理。ゆっくりしていけ」
「うん。もう少ししたら帰るよ」

魅録はどこか安心したような表情で帰っていった。

皆が帰宅して、急に静かになる。
悠理はベッドに横になり、清四郎はそのベッドに寄りかかるように座った。

「眠いなら、寝ていいよ。遅くなりそうなら泊まっていっても構わない。
家に電話を入れておいてあげる」
「ううん。ちょっと眠ったら帰るよ。だって清四郎が寝れないもん」
「僕は一階で寝るから、大丈夫」
「そう?・・・でも、ちょっと・・・だけ・・・寝るかな・・・」

薬の作用で吐き気が治まったことが、彼女を眠りへと誘う。
清四郎はすっかり落ち着いた悠理の様子を見ていると、つられるように自分もベッドに寄りかかるようにして眠ってしまっていた。



誰かに肩を揺すられ、清四郎は目が覚めた。
振り向くと悠理がベッドから起き上がり、彼の肩を揺らしている。

「目が覚めたの?ああ、僕もいつの間にか眠っていたようだ」

彼女は何も言わず、肩に手を置いたまま、表情がない顔で彼を見つめている。

「吐き気は治まった?どう、起きれる?」
「・・・・・」
「悠理・・・?」

彼女はベッドから出ると、彼の目の前でその大きなジャージをするすると脱ぎ始めた。
さっきまでは気にもしなかった彼女への意識が、突然呼び起こされたように視線が向かう。
すでにアンダーウェアの彼女は、それすらも脱ごうと背中に腕を回す。
清四郎は静寂な部屋に響くように喉を鳴らしてしまい、思わず息を止める。
そして戻った理性で立ち上がり、彼女の動きを自分の手で止めた。

「ストップ。そこまでだ」

彼女を見ると、やはり表情が窺えない。

「寝ぼけてるんだな。薬の副作用だろうか」

小さくとも形の良い胸が上下に動いている。
平らな腹部とその下に、細く長い足が伸びていた。
再び失われていく理性をそのままに、彼は彼女に置いたままの手を腕から肩へと滑らせた。
うっすらと肌が色づき、そこから甘い匂いが放っている。
彼はもう少し近くでその匂いを感じたいと思う。
気持ちに嘘を吐くことができぬまま、彼は彼女の上気した肌へ、細い首筋と肩へ、鼻を寄せた。

そこから後は覚えていない。
彼女の後ろには自分のベッドがあり、混沌とする男と女の匂いがある。
快楽と苦痛があり、入り交じる二つはやがて快感へと導く。

途中、何処かで悠理の喘ぐ声が聞こえたような気がしたが、すぐに深い眠りがやって来た。



「ねぇ、清四郎。清四郎ってばっ!!」

肩を強く揺らされ、彼は目覚めた。

「え・・・」

気が付くと、さっきのように自分のベッドに寄りかかっている。
振り向けば悠理が困ったように微笑み、大き過ぎる彼のジャージの袖をブラブラさせていた。

「や、やあ、すっかり顔色が良くなって、悠理」
「良くも悪くも・・・清四郎ったら、あたしの名前を大きな声で叫ぶんだもん。びっくりして起きたんだから」
「そう?そう言えば、悠理の夢でも見たような」

鮮明過ぎる夢の後では、彼女に何と言えば良いのか分からない。
清四郎は眠る前と変わらない自身の下腹部に安心し、ゆっくり体を伸ばしてから立ち上がった。

「今何時?あたし、そろそろ帰ろっかな」

壁に掛けてある時計は、午後九時を指していた。

「多分夕食が用意されているだろうし、食べて、泊まっていけば?明日も休みでしょ」

今日は土曜日で、明日も休日。
しかし誰も自分を起こさないなんて、と彼は思う。
階下に、家族の気配が感じられない。
そう思った瞬間、彼のスマホが机の上でヴァイブする。
手にすれば、姉の和子からの着信だ。

「はい」

慌てて出ると、甲高い声が耳に刺さる。

「ちょっと!何回電話したと思ってんの?留守電聞いてるの?」
「あ、いや。ちょっと眠っていて、マナーモードに気が付かなくて」
「もう。今ね、ママと外で食べてるの。今夜はパパが病院を離れられないから。
清四郎は友達と会うって言ってたから、ついでにご飯もどこかで済ませちゃってくれる?」
「何時頃帰るの?」
「そうね、十時には帰れるんじゃないかしら」
「悠理がね、夕方からちょっと体調崩して今僕の部屋で休んでるんだけど、このまま泊めるから、お弁当か何か買ってきてくれ」
「あら、大丈夫なの?分かったわ」
「悪いね。悠理は落ち着いてきてるから」
「清四郎、帰るまで狼にならないでよ。あはは!」
「姉貴は古いね」

バカ、と言われて電話は切られた。

「あたし、泊まるの?」
「その方がかえって安心でしょ?悠理がいると言ったから、お前が好きな晩ご飯を姉貴が買ってきますよ」
「やった!」

ベッドの上で無邪気に体をバタつかせている。
具合はすっかり良くなっているようだ。

「姉貴がね、自分達が帰るまで、狼になってはいけないって」
「なーに?」

純粋な瞳が、彼の理性のどこかをまた狂わせる。

「きっと悠理の噂が、僕の調子を狂わせてるんだと思う」
「えー?」
「自分で泊まっていけと言いながら、今夜は理性を保てるかどうか。
悠理は僕を許してくれる?」

たくさんのクエスチョンマークを頭に浮かべたような彼女を、思わず抱き締めてしまいたくなる。

それは噂が呼んだものか、ずっと前から彼の心に潜んでいたものか。
今夜は彼女を眠らせられない、と彼はその時思った。





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