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雨を理由に

雨を理由に

夏を思わせる細かい雨が降り注いでいる。
降りだした時も、降っている今も、音がなく生暖かい。
ベールのように滑らかで、ゆったりと幕を引くような感じ。

“急に行けなくなって、ごめん”

降り始めた時、それは太陽の陽射しを浴びながらキラキラしていて、まるで今日を歓迎するかのように思えたのに。

“野梨子にね、ちょっと頼まれ事。だから勉強会は明日。悪い”

サンルームのテーブルに、二人分の椅子。
今日はここで勉強を教わって、庭先で自家製ハムのサンドウィッチとアイスティのランチと決めていたのだ。
清四郎が来るまで、ここで待っていた。
だから音もなく降り始めた小糠雨にも気付けた。
小さな滴は、やはり音を立てずに強化ガラスの表面を滑り落ちる。

前からのあたしとの約束よりも、急な野梨子の用事の方が大切なんて。
どちらが清四郎にとって重要な人物か分かるな、あたしでも。

ちょっと皮肉ってみたくなる。

今日は特別だったんだよ。
清四郎に、心のニュアンスを伝えようと思ってさ。
でも・・・

しょうがない、と彼女は思う。
幼馴染みの野梨子に頼まれたのだから。

きっと、雨だから、だよね?
急に雨が降って、野梨子が用事を足すのに清四郎が必要になったんだ。
そうだ。今日の事は、雨のせいなんだよ。
雨が降らなければ、清四郎は来てくれたはず。
誰のせいでもない。雨のせいなんだ。

サンルームのガラスから空を見上げれば、うっすらとした雨雲の背に太陽の光が当たっている。
もうすぐ晴れるに違いない。
彼女はこの小糠雨が晴れるまで空を見上げていようと決めた。
何故なら、時間がたくさんあるから。
しばらくそうしていると、刹那、強めの風が吹く。
それまでまっすぐ降っていた雨は、サラサラと音を立てるようにして横になびく。
同時に風は、そのまま雨を連れ去るようにして止ませた。
やがて空は、午後の優しい陽射しを連れて来た。

プルル・・・とテーブルの上のスマートフォンが着信を告げる。
画面を見れば“清四郎”。
手に取って電話に出る。

“やあ、悠理。悪かったね。野梨子の用事が思ったより早く終わったんだ。
今から行っても大丈夫?”

え?ほんと?

“実は今朝ね、野梨子の家に回覧板を届けに行ったら、お弟子さんが体調を崩して倒れてね。
ほら、今日は彼女の家でお茶会があるでしょ?
それでてんやわんやしてしまって手伝う事になったんです。
もちろんお弟子さんは僕の病院に連れてきましたけど”

大丈夫なの?

“ええ。落ち着きましたから。
それに野梨子も今日の僕と悠理の約束を覚えていて、行きなさいと言ってくれてね。
遅らせて悪かったから、駅前のパン屋さんで悠理の大好きなドーナツを買って下さいと言われました”

わぁ、それ大好物なんだ。

“うん。だから、それを買って今から伺いますから、待っていて下さいね”

うん、うん、と彼女は返事をする。
そしてお昼のサンドウィッチについて彼へ伝える。

“ああ、悠理の家の自家製ハムね。僕の大好物。
お昼はもちろんまだですから、楽しみにして行きますよ”

そう言って、電話は切れた。

サンルームのガラス越しから空をまた見上げる。
さっきまでの雨が嘘のように晴れ渡っている。
雲ひとつない、青空。
夏は、もうそこまで来ている。

雨なんか理由にしなくっても・・・

と彼女は思う。
そう、雨なんか理由にしなくても彼は自分との約束を果たすべく、もうすぐこの場所へやって来るのだ。




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