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思うこと 信じること

思うこと 信じること

日曜日の午前中に悠理の自宅へ訪問した。
お昼前と言うのはちょっと気が引けるけど、最近の彼女を思えばやっぱり心配だし、少しでも元気を取り戻したなら外へ誘い出してランチも悪くない。
だから僕は、日曜日の午前中に悠理の部屋のドアをノックする。
互いが息を潜めたのが分かったが、声がかかるまで辛抱する。
程なくして、元気のない彼女がドアを静かに開けた。

「元気なさそうで、大丈夫?」
「うん、何だか調子良くないよ。だってさ、知ってるでしょ?」
「まぁね。でも二人が決めたことだから、僕達はそれに従うしかない」

ふうん、と彼女はため息を吐く。
僕は勝手に一人がけのソファに座り、足を放り出した。

「清四郎もらしくないじゃん。気になるんだろ?」
「もちろん。まだまだ二人はギクシャクするだろうし、メンバーは揃わないだろうし。揃ったとしても、気を使いますよね、やっぱり」
「うん」

悠理はベッドの端にちょこんと座る。
何だかいつもと逆みたいだ。
凄くしおらしくて、かわいそう。

僕の幼馴染みの野梨子と、悠理の大親友である魅録が短い恋人期間を得て、別れた。
互いの深い想いからきたすれ違いのようだが、意外にも頑なな魅録の決断が別れへと発展したようだ。
野梨子の懇願も叶わず、とても辛い別れ方だった。
魅録は平静を装うが、野梨子は心を閉ざしたままでいる。
そしてそれ以上に、悠理が心を痛めてしまっているのだ。
メンバーの中で誰よりも二人を祝福し、大切に見守っていたのだから仕方ない。

「悠理も辛いんだろうけれど、あの二人だって計り知れない悲しみの中にいるんです」
「うん」
「だからこそ、僕達だけでも元気でいましょうよ。心の中で二人がそれぞれに幸せになるように願いながら、ね」
「そりゃあ・・・」

悠理はベッドに上がり、そこで膝を抱えて座り込む。
何だかいつも以上に華奢に見える。
小さ過ぎて、コロンと転がりそうだ。

「そりゃあ、ね。そうしなくちゃって思ってるよ。でもさー、野梨子の凹み具合を見てよ。ムリだよ。かわいそうで見てらんないよ」
「確かにね。かなりの時間は必要かも知れないですね」
「ずっとあのままだったらどうしよー!」
「だからこそ、悠理は元気でなくてはならない訳ですよ。悠理まで凹んでいてはどうしようもないでしょ?周りの僕達が元気で明るくいれば、野梨子も自然と元気になれます」
「ふーん」

とうとう悠理は、両膝の間に小さな顔を埋めた。
かなり野梨子に感化されてしまっている。
僕は悠理に近付き、ベッド端に座る。
ちょっとだけ僕の方に、彼女の体が傾いた。

「まずは悠理が元気になること。それが大事、ね。悠理まで悲しみのどん底にいたら、野梨子も魅録も救えない。そうでしょ?」

悠理はちょっとだけ頭を動かす。
僕の話を聴いているのは良く分かるけど、具体的にどうすれば良いのか分かっていない。
それは、悠理にとってそうであろう。
だから僕は、彼女が少しでも良くなるように、とっておきの方法を思い出す。

「悠理、顔を上げてごらん」

最初、ちょっと考えている風だったが、やがてゆっくり顔を上げて僕を見つめる。

「悠理が元気になる良い方法を教えてあげる」

ぼんやりした瞳の奥に、強い力が込み上げて来るのが映る。
僕は催眠術師のようにかっこ良く、右手の人差し指と中指をまっすぐ伸ばして悠理の額にのせた。

「悠理、今度は目を瞑ってごらん。そう、そしてゆっくりした気持ちになって」

彼女は素直に従う。
長い睫毛が時々揺れる。

「いいね。そしたら、今の悠理が望むことをイメージしてみて」
「へ?」

そこで彼女は大きな目を見開いて僕を見た。

「あたしが望むことのイメージって?なんだ?」
「こら!目を開けちゃダメでしょ。ほら、目を瞑って、悠理が今こうなったらいいなって思うことがあるでしょ?それを心に思い浮かべるんです」
「ええ?例えばメシ食いたいとかケーキ食いたいとか?」
「そう。それで良いから頭の中にそれを浮かべて。美味しそうな食事とか、甘いお菓子とか。それをお腹一杯食べているイメージを持つんです」

うん、それなら分かる、と言って彼女は再び目を瞑る。

「最初は大まかな感じでも良いけど、慣れてきたら具体的に思うんです。何が食べたいとかどんな味が良いとか。それがどんどん具体化されたら、それがもう現実に起こるものとしてイメージする」

僕の言う意味が理解できているのか、無言で、そして真剣な表情になる。

「必ず、それは悠理が口にできるんだ。必ずね。そう強く信じると・・・ちょっとだけ気持ちが明るくならない?」

クスッと笑うと、目を閉じたまま彼女は言う。

「目を開けたら、それが目の前にあるってイメージしてる」
「うん。そうだね。例えなくてもあるって思う。それが大事なんだ」

何かを悟ったようにまた微笑む。
今度の微笑みは大人びた、美しい微笑みだった。

「清四郎が言う意味、分かったよ。あたしが野梨子と魅録が元気になるように願えば、そうなるってことでしょ?」
「その通り」
「元の友達関係やそれより後のイメージはちょっとあたしには無理だけど、二人が元気に笑う姿は想像できる」
「そう、凄いね。やっぱり悠理だ」
「力一杯そうなることを願えば、二人は笑顔を取り戻すんだね」
「そうだよ。悠理が強く願えば、それは現実になるんだ」
「清四郎。清四郎の指を通して、あたしはどんどんイメージが湧いてくるような気がする。そして、何だか言葉にはうまく表せないけど、分かるんだ。
これは、まだ起こらない真実を信じるってこと・・・」

凄いね、悠理は。
君は本当に特別な力を持っているって思うよ。
野性的って言うのか、本能的って言うのか。
僕の指を通して、悠理の力を強く感じる。

僕達はしばらく無言のまま、そうしている。
やがて指に何も伝わらなくなると、僕はそっと指を離した。
彼女もゆっくり目を開く。
僕と目が合うと、照れ臭そうに微笑んだ。
さっきの、大人びた微笑みや普段のとも違う微笑み。

「清四郎の力って、やっぱりスゴい。もう本当に、魅録達が笑顔でいるような気がする」
「僕じゃないよ。悠理の力なんだよ」
「そうかな。清四郎の指から魔法みたいにどんどん頭の中に光って届いた。だから清四郎が特別な力を送ってるって思った」
「じゃあきっと、僕と悠理の願いがひとつになって、強い力になったってことですよ」
「うん、うん。そうだよね。きっとそうだと思う」
「きっと、じゃなくて、絶対」
「そうだ」

僕達は見つめ合って微笑んだ。

きっと、じゃなくて、絶対。
野梨子と魅録が元気を取り戻すように。
新しい笑顔が、二人に与えられますように。

僕と悠理は、既に二人がそうなっていると信じて止まなかった。




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