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冬の偶然

冬の偶然

美童の知人が主催するパーティの頭数でこのホテルに呼ばれた。
呼ばれたのは可憐と悠理と僕。
良くあるところの出会い系みたいなパーティ。
野梨子と魅録は付き合い始めて間もないため、そんなパーティには参加したくないと言う。
それはそうだ。僕だって参加したくなかった。
悠理だってイヤイヤの参加だ。
でも頭数で何とか頼むと言われると仕方ない。
大切な仲間だし、悠理は後で美味しい食べ物をごちそうしてもらうようだし、パーティくらい適当にスルーすれば良いと考え直せた。
当日になって会場であるホテルに到着すると案の定、悠理が来ない。
美童と可憐は会場に入ってしまったし、僕はとりあえず悠理を待つことにした。
ロビーで受付し(なぜか詳しい個人情報を記入させられた)、渡されたテーブルの番号札をジャケットの内ポケットにしまうと、コートやバッグをカウンターに預ける。
それでも悠理は来ない。
まだかまだかとホテルの入り口辺りで怪しい感じにうろうろしていると、やっと悠理が駆け込んできた。

「ごめ~ん!!」

冷たい空気をたっぷりコートに含むように彼女が近づくと、外の、冬の匂いが漂った。

「名輪さんに乗せてもらわなかったの?」

彼女の頬も鼻の頭も真っ赤で、ついでに手袋をしない小さな手も真っ赤だった。

「寄り道してたから。タクシーもつかまんなくて、走った方が早いと思って」
「お疲れさま。まずは受け付けしてしまった方がいいでしょ。美童達はもう会場だから」
「うん」

僕は悠理の腕を取って受け付けに向かう。
担当者に説明を受けてボールペンを手に取ると、彼女は困ったように顔をあげた。

「手が冷たくって書けないよ~」

彼女は両手にはぁ~っと息を吹きかけ、それから擦り合わせた。
確かに今日は昼過ぎ頃から急激に気温が下がった。
今にも冷たい雨が振りだしそうなほどの重たい雲が空一面を覆っていた。

「丁寧になんて書かなくてもいいんだから、さっと書いちゃいなさい」

そう、こんな所で書く個人情報なんて、本当に怪しいものだ。
何かに使われようものなら、美童に責任を取ってもらわなくては!

「ちょっとムリ~。まじムリ~」

まだ赤い両手を僕に見せるようにして、カタカタと震わせている。
その時、僕は思わず彼女の両手を自分のそれで包み込んでしまった。
確かに彼女の手は氷のように冷たく、これでは指先でボールペンを自由に操られないであろう。

「あったか~い。清四郎の手、ぽっかぽか」

受け付け担当者の目が多少気にはなったが、僕は彼女の指先が温まるまでそうしていた。

「清四郎、サンキュ!手があったかくなったから字が書けそう」

まだ少し冷たい彼女の手だったが、その言葉で両手を解放した。
今度はすらすらと記入をすると担当者からテーブルの番号札をもらい、嬉しそうに僕の腕を取る。

「時間まだある?ちょっとだけロビーでお茶しない?あったかくて甘いココアが飲みたいな」
「ちょっとくらい遅れてもいいんじゃない。体を温めないとコートも預けられないでしょ?」

僕の腕に絡まる彼女の手に触れると、あっという間にまた冷たくなっている。
僕がその手を握ると、悠理はまたあったかいと言って喜んだ。
こんな小さな事で嬉しそうにする彼女が無邪気に、可愛らしく思ってしまう。

「清四郎が指先に触ってくれるだけで体の芯まであったまりそう~」
「僕の手でもずいぶん役立つんですね」
「すっごく助かっちゃったもん!」

素直にそんなことを言われると、何だかこちらまで嬉しくなってしまう単純な僕。
興味のないパーティより、このまま悠理とどこかへ出かけてしまいたい。
例えきっかけはパーティだとしても、彼女への偶然の想いを大切にしたいから。

温かなココアが入ったカップを大切そうに両手で包みながら彼女が飲んでいる間に、僕はジャケットの内ポケットからテーブルの番号札とスマートフォンを出す。
美童へ電話をしながら、僕はクシャリとその番号札を掌で潰した。





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