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Be Selfish

Be Selfish

目の前の綺麗な花束。
大好きなスイーツ。
欲しかった、手に入りにくい年代物のレコード。

忘れるために自分から望んで機会を作った。
そうして得た出逢いなのに・・・
目の前の優しい笑顔に、どうゆう顔したらいいんだろう。
欲しい物を全て目の前にした今、本当に、心から欲するモノが何なのかが分かるなんて。

あたしが欲しいのは、形がなくって、香りもなくって。
だから目で見て触ったり、顔を近づけたりしても分かんなくて。
お金を出して買えるものでもなくて。
誰かさんの想いとかその人そのモノ!、なんてそんな贅沢は言わないよ。
そこまでは求めない。
だって、求めたって、手に入らないから。
どんなにお金を積んでも、あたしのモノにはならないから。

でも時々後悔するんだよね。
あたしの手もとには、何も残っていないんだもん。

誰かさんとの思い出を忘れるために、持っている全てを捨ててしまった。
メンバーと一緒の写真も、もらったプレゼントも・・・全て・・・想いすらも忘れるために・・・

けど、狂いそうになるほど心が求めるとき、あたしはあったかくて甘い、小さな出来事を思い出す。
それは本当に忘れちゃいそうなほど小さな思い出のはずなのに、痛みを和らげるように心に浮かんでくる。


あれは冬だ。
珍しく底冷えするほど寒くて、乾いたような雪がチラチラと降っていた。
あたしはメンバーと一緒に下校していた。
確か生徒会の定例会議の後で、外は暗くなり始めていた。
野梨子と可憐が先を歩いて、美味しいケーキを食べさせてくれる店を探していた。
その次に美童、隣に魅録、少し後ろに清四郎がいた。
清四郎は誰かと面倒くさそうな話の電話をしていて、それであたしが最後だった。
あたしはケーキよりもお腹がいっぱいになるハンバーガーが食べたくって、それで一番後ろからブーイングしていたんだっけ。
しばらくそうして歩いていて、路地に入って、ちょっとした住宅街に入って。
そしたら目の前の清四郎が急に立ち止まってしゃがみこんだんだ。
あたしはしゃがんだ清四郎の背中に思いっきりぶつかって、ド派手に転んでしまった。

「バッカヤロー!!イテイだろ!」
「悪い悪い」

アスファルトに軽く降り積もった雪がやたらと冷たく感じた。
けれどもすぐに立ち上がれなかったのは、清四郎が普段見せないようなニコニコした笑顔が外灯に照らし出されていたから。
その笑顔はあたしを覗き込んでいて、ナンだかいたずらっ子の男の子みたいだった。
あたしは、すっかり見とれてしまっていたんだ。

「ほら、これ。こんな所に珍しい物が見えたんですよ」

清四郎の大きくても綺麗な手が、何かを隠すように握られている。

「な、なに?」
「悠理の大好きな物」

あたしはしりもちをついたまま、両手を差し出す。

「なにか落ちてたの?」

清四郎はニコニコしたままあたしの両手に静かにその手を置く。
冷たかった手は、温かい清四郎の手が触れたおかげで一気に温まった。
でも、あたしの手のひらに固い何かが落とされると、清四郎の手が離れ、夜の冷たい空気が間に入り込んだ。

「なんだー?」

薄暗い外灯に照らし出されたのは、季節外れのドングリ。
雪の上でもつるつるの表面は乾いて光っているようだった。

「雪の上に落ちてました。きっと珍しいドングリを見つけた子供が、落としちゃったのかも知れませんね」
「うん・・・」

正直、清四郎の言う意味が理解できなくて、ぼうっとしていたんだと思う。
清四郎は今度は困ったように笑うと、あたしの腕を引き上げながら同時に立った。
バランスを失ってよろめくと、開いたままの両手からドングリが転がり落ちた。
あって思ったとき、あたし達の横を通り過ぎた車のタイヤが、更にどこかへドングリを飛ばした。
驚いて振り返ったあたしの肩に手を回し、清四郎の腕の中に収まるような形で立つと、清四郎の顔が近づいた。

「危ないから、諦めよう」
「うん・・・」

そうして・・・そうして・・・その後、どうしたんだっけ?
清四郎はあたしから離れ、ドングリは行方が分かんないまま置いてかれて、あたしはまた、みんなの後を黙って付いていったのかも知れない。


この小さな思い出と一緒に、あの時のドングリがせめて手もとにあったのなら、どんなに心強かっただろう。
あの後から清四郎への想いに至るまで、すっかり忘れていたくせに。
何気なく通り過ぎた出来事が、こんなに狂おしいほど愛しいなんて・・・



目の前の優しい笑顔の持ち主は、あたしのわがままを全部叶えてくれる。
清四郎の気持ち以外の欲しいもの、全て。

ごめんね。ありがと。
でもいらないよ。
本当は、清四郎以外、いらないんだ。


おっきな想いの行き場がなくて、あたしは涙を両手で拭う。
だって本当なら、女の子だったら嬉しくて仕方がないはず。
会う度に花束をプレゼントしてもらって、欲しい物を手に入れてもらって、好きな食べ物を用意してもらって。
次のデートも自分が思うままなら、こんなに嬉しいことないよ。
嫌いになんてならずとも、好意は絶対に持つはず。
なのにあたしったら、充たされれば充たされるだけ、全く別のモノが欲しいと心が叫ぶ。


どうか許して。
もうわがままなんて言わないから、この小さな思い出だけを支えに生きていくから、
せめて目の前の優しい笑顔の持ち主が、あたしがいなくなっても幸せになれますように・・・

それすらも、わがままな言い分なんだろうけれど。




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