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夏色の服

夏色の服

夏色の服







ああ、やっぱり悠理に良く似合いますね。





あの日、彼はそう言って素肌に纏った白いシャツの姿の彼女を見た。
その目は、その表情は、とても優しいものだった。
口元に柔らかな笑みを浮かべ、それから・・・・・


それから彼は、もう一度彼女を抱いた。


白いシャツの上から。


ベッドの軋む音や衣擦れの音、二人の甘い吐息、遠くに聞こえる波の音が彼女を満たした。





どうして白なの?





彼女は訊く。

目が覚めると小糠雨が降っていた。
細く開いた窓から、冷やりとした空気が入っている。
それと同時に、雨の匂いも。

ただ、二人のベッドだけは温かい。





白は、いつもあなた色に染まるでしょう?





彼女は良く分からないと言う風に眉間に皺を寄せ、唇を窄めた。
だから彼は彼女を腕の中に収め、その柔らかな髪に顔を埋め、彼女が理解出来るように話す。





例えば今は雨が降っているでしょう。
その時に悠理がこのシャツを着ると、このシャツは雨の色に染まる。
だって悠理は、雨が好きだから。



例えば春にあなたがこのシャツを着る。
そうするとこのシャツはピンク色に染まる。
だって悠理は桜の花が好きだから。



じゃあ今は夏だから、黄色?



そうですね、真夏の太陽のように黄色に染まる。
悠理の笑顔は、太陽のように輝いているから。



でも、海で泳ぐのも好き。



その時はマリン・ブルーに染まる。



秋は夕焼け色かな?



夕焼けは好きですか?



うん、好き。



じゃあ、きっと染まります。



冬は、この白なの?



悠理は雪が好きでしょう。



うん。



じゃあきっと、悠理の肌のように白い雪の色に染まりますよ。





二人はそう言いながら彼女が好きなもの全てを並べ、色に例えた。
彼女が笑い、彼はまた抱き締める。







でもある夏の日を堺に、そのシャツは色を染めるのを止めた。



それは、彼女が彼を引き離した時から。







そんないい加減な理由、納得できませんよ。





彼女の言う別れの理由が、彼には理解できないと言う。


語彙が乏しい彼女の説明では、彼を納得させる事は難しい。
でも、彼女は彼女が知る全ての言葉を使って説明する。





あたしと言う存在で、束縛したくないんだ。
だってたくさんの可能性があるだろう。
それを無駄にさせたくないんだ。





彼女は自分と言う枷で、彼を束縛したくなかった。
何故なら、彼にはもっと違う進むべき道があると知っていたから。






あの別れの日から、このシャツは白いまま。



どんなに大好きな春が来ても、夏が来ても。
他の色に染まる事はない。



違う。



これはあの日の夏の色。
希望と言う涙の色。



彼女は思う。



決して悲しみの色じゃない。
決して、ない。



だから彼女は、彼を想う度にこのシャツを抱き締める。



彼を励ますように。
彼を癒すように。



そうしてひっそりと仕舞う・・・










自分と言う枷で彼を束縛する事を恐れ、
彼と言う枷に囚われている。



本当は、彼に愛される事に怯えていた。



いつか、自分と言う存在で傷付くのを恐れていた。



彼女は思う。



ああ、あの時、彼の全てを受け入れる勇気があったのなら・・・



そして、願う。



もう一度春が廻り、あの夏が来る事を。



また、彼と過ごせる日々が来る事を。





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