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夏空の飛行機雲

夏空の飛行機雲

生徒会役員となって早くも一学期を終えようとする七月半ば。
僕達は生徒会室の学期末清掃を繰り広げていた。
お決まりのように僕と野梨子が中心となって動いていたが、意外にも制服が汚れるのを嫌う可憐や美童、怠け者の悠理ですら良く働いてくれた。
魅録も野梨子の傍で力仕事をしている。
相反するような二人の姿だが、真っ直ぐで努力家の性格はとても似ていた。
大掃除も終盤に差しかかり、野梨子と可憐がジュース類の買い出しに出かけ、魅録は使用済みのファイルや資料を書庫へと運び、美童はデートの約束と言って下校した。
僕は自分が使った雑巾やバケツを綺麗に洗って隣の用具室へしまい部屋へと戻った。
開け放されたドアの向こう側には整理整頓されたスチールの棚や磨かれた床があり、清々しい空気が流れ込んでいる。
思わず深呼吸をして中に足を踏み入れた。

窓辺に、悠理が長い柄の箒を抱えたまま凭れていた。


「終わった?」


僕は声をかける。


「うん」


彼女は僕を振り返りもせずに佇んでいる。


「何を見ているんです?」


僕はまた声をかける。
すっかり磨かれた強化ガラスの窓は、大パノラマのように夏の空を映し出していた。


「何だと思う?」
「誰か下にいるの?」


彼女の隣に立って様子を見る。
けれど校舎の下にも向こうの校門にも知り合いのような生徒はいない。
何より彼女の目線は、下を向いてはいなかった。


「珍しい鳥でも飛んでますか?」
「ううん」
「向こうの桜並木に桜の花がまだ残ってる?」
「まさか、夏だろ」
「あの飛行機の乗客が、悠理に向かって手を振っているのが見えるとか?」
「あはは。いくら視力が良いからって、それはないよ。
でも、半分正解。さっきからどんどん長くなる飛行機雲を見てた」


なるほど、遠くに細長い線状の雲を引きながら飛行機が飛んでいるのが見える。
空は限りなく晴れて、どこまでも青く澄んでいる。
その中を飛行機は力強く水蒸気を発生させながら飛んでいた。


「最初ははっきりとした線だったのに、ゆらゆら消えてく。空に混じって」


彼女の口調は普段よりも力なく、振り向くとじっと消えゆく飛行機雲を淋しげに見つめていた。


「小さい頃、飛行機雲は別の飛行機の為の道しるべを作ってると思ってた」
「行き先を間違わないように?」
「うん。空で、迷子にならないように。だってあんなとこで迷子になったら大変だもの。
だから今でも、ああして消えちゃう飛行機雲を見てると、なんだか悲しくなっちゃうんだ」
「うん」
「大空で迷子になったら、誰が助けてくれるの?」


彼女は、何を不安に思っているのだろうと思う。
けれど、例え訊ねてみても、きっと彼女にも分からないのだろう。まだ・・・


「大丈夫さ。悠理は大空で迷子になんてならないよ。飛行機とおんなじ」
「・・・・・」
「飛行機に航空路があるように、悠理にも決められた道がちゃんとある」
「そうかな」


確信なんか、本当はない。
けれど彼女の不安を、僕は取り除いてあげたいと思う。


「悠理が迷う事がないように、僕が付いていてあげる。
魅録達だって、ずっと傍にいてくれるよ」
「うん」


うん、そうだよね。


彼女に、少しだけ笑顔が戻る。
茶色い大きな瞳に、光り輝くものが見えたような気がする。
だから僕は、思わずじっと見つめてしまう。
悠理は、恥じらうように目を逸らした。

不安を取り除いた訳ではないけれど、僕の気持ちは伝わっただろう、少しは。

僕は窓枠に両手をついて遠くの空を眺める。


「あの飛行機のずっと向こうに、入道雲が見える」
「どこ?」
「あそこ」


僕は手を伸ばし、人差し指で方向を示した。
彼女は僕の指に顔を近付けるようにしてその先に視線を移す。


「ほんとだ」
「ね」
「うん」


広大な青空の向こうに、聳えるようにある入道雲。
それは隠しようのない事実を物語っている。


「本格的な、夏だ」


僕の言葉に、彼女は振り向いた。





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