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恋心の忘れ方

恋心の忘れ方 5(完結編)

放課後の生徒会室から明るい笑い声が聞こえてくる。
それは僕の幼馴染みである野梨子や、有閑倶楽部のメンバーの聞きなれた声。
僕以外、誰一人欠けてはいない。
ドアを開けると、皆の笑顔が僕を迎えた。


「おや、何か楽しいことでもあったんですか?」
「クリスマスパーティーの打ち合わせ」
「早過ぎはしませんか?」


気が付けば外は冬を思わせる風景。
日がすっかり短くなって、空は赤紫に染まり、草木が黒く影を落とす。
エアコンデショナーも暖房設定に今朝はなっていた。


「今年はイヴにそれぞれ予定があるから、少し早めに計画を立ててクリスマス当日は集まろうって」
「なるほど」


秋に、メンバーの中で正式にカップルが誕生した。
恋愛に忙しい美童と可憐も、各々相手が見つかったとか。
そして僕も、悠理とイヴとクリスマス当日の二日間を一緒に過ごす約束をしていた。


「じゃあ、魅録と野梨子、何かいい案があったら月曜日におしえてよ」
「了解!悠理もな」
「おう!じゃあね~♪」
「バイバイ」
「ごきげんよう。月曜日に」


僕が簡易給湯室からコーヒーカップを手に戻ると、魅録と野梨子が先に帰宅するところだった。
僕は目で二人に挨拶すると、似たような笑顔が返ってきた。
悠理も、同じように笑顔で手を振っている。
気持ちに落ち着きが戻ったのだろう。


「じゃあ悠理。わたしもそろそろ帰るわ」
「うん」
「僕も。今からデートなんだ」
「二人ともクリスマスまで持つんだろうな~、今の相手と」
「まさか、まさか。イヴの相手は一人に留まらないさ。悠理、時間は有効に使うものだよ」
「相変わらずだな、美童。可憐もそうなの?」
「いや~ね。美童と違うわ。わたしは世界でたった一人、運命の人と過ごすのよ。
今からその人と会うの♪」


意見の違う美童と可憐は、互いを主張しながら部屋を出て行った。


「やれやれ。賑やかな連中ですね」
「ホントだよね~♪でも二人には、幸せになってもらいたい。
もちろん魅録や野梨子にも」
「おや、僕の幸せは願いませんか?」
「あっは!清四郎は願わなくても自分の望み通りに掴むだろ」
「酷いですね。恋愛は、思うようになりませんよ、僕だって」
「そう?でも・・・」


悠理は言葉を途中で切り、テーブルを離れる。
外はすっかり夜の暗闇に包まれていた。
彼女は窓辺にもたれ、室内しか映っていないガラスの向こうを覗くように顔を近づける。


「でも、本当は忘れちゃいたかったってのが本音。
心の底からアイツらの幸せを願ってないなって、まだ。
心ん中を真っ新にして、そこから始めたいんだ。
想いを引きずるのも、大切にしまっておくのも理屈では分かったつもりだけど。
こうしてまだちょっとしんどいのも、間違った方法ではないって知ったけど」


悠理は僕を振り返り、哀しそうに微笑んだ。


「恋心の忘れ方を、知りたかった。忘れるだけの覚悟は、できてるから」


僕は悠理の隣に歩み寄り、壁に手を着く。
彼女の澄んだ両の茶色い瞳は僕を見上げている。


「叶わない恋を抱き続けるのは、誰でも辛いですよね。
いっその事忘れたいと思うのは当たり前でしょう。
でも、本当に好きで大切な人ならば、その人の幸せを自然に願うようになる。
もちろんそんな簡単な話じゃないし、時間もものすごくかかるけれども、最終的にはやはりそうです。
綺麗事と言われようが、恋愛経験なんてないくせにと責められようが、僕の場合はそうですねぇ」
「ぷっ。確かに恋愛には向いてないよ、清四郎。不器用そう、スゴく。
あたしもだけどさー。」


今度の彼女は楽しそうに微笑む。


「でもそれだけのことを言ってのけるってのは、清四郎も叶わない恋をしたことがあるってこと?」
「進行中と言うところでしょうか。
まだ分からないけれど、無理強いはしたくないんです。彼女を思えばこそ」
「ただ見てるだけ?」
「見守ってるんです。彼女自身も幸せになれるように。
今は、僕の手は必要ないから、彼女が自分の力で見出だせるまでそうしているんです」
「ふうん」
「そうする事でも、僕は嬉しいと思えるようになりました」
「今まで辛かった?」
「辛い・・・どうでしょうかね。僕の恋心は失った訳ではないから、そう辛くはないです。いや・・・」


僕はその事について真剣に考えてみる。


「僕の想い人は、今まさに困難を乗り越えようとしてるから、応援できる喜びがあるんで辛くないかな」
「!!!」


悠理は何かを察したように頬を染め、視線を逸らす。


「平和的結末」
「そう。平和的解決方法は、幸せな結末を迎える」


そろそろ帰ろっか、と悠理は言う。クリスマスパーティーの計画を練らないといけないし。


「僕たちのイヴの計画もね」
「家でやんない?父ちゃんが計画してるけど」
「ああ・・・まぁ、それでも悪くないか、な・・・」


ゲラゲラと腹を抱えて笑う姿が恨めしい。
仕方なく、僕も笑う。
でも、悠理が楽しく過ごせるのなら、それも悪くはないですかね。



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恋心の忘れ方 4

何度かママのお店を訪れた。
わたしがお手伝いしていると、決まって来店してくれたように思えてたの。
指のサイズを測るのも、リングのデザインや着けた雰囲気を見るのも、いつもわたしの指で試すから、ひょっとしてって思ったの。
ひょっとして・・・わたしへのプレゼントを決めているのかしらって、勘違いしていた。
来店時はいつも彼独りで、わたしを見つけると気さくに片手を上げた。
素敵な笑顔とカジュアルなスーツが似合っていて、それでいて品の良さを感じていたわ。
何度も何度も慎重に、指のサイズとデザインを見ていた。
“よし、これに決めたよ”って言った時、彼の頬がちょっとだけ紅くなった。
そしてわたしの手を取って、リングを見つめて、“とってもよく似合うよ”って。
だからわたし、“ありがとう”って思わず言ってしまったの・・・
綺麗にラッピングして、メッセージカードを用意して、彼は言ったわ。


「ここで彼女へのメッセージを書いてもいい?」
「もちろんですわ。そちらのテーブルでどうぞ。今、コーヒーをお持ちします」


給湯室でコーヒーを作って、トレーにカップを載せて、心踊らせて彼のもとに行った時、わたしの独り善がりは終わったと知った。
だってメッセージカードには、わたしではない彼女の名前が書いてあったから。
プレゼントを贈るのは、わたしではない他の誰かと知ったから。


「君のおかげで本当に助かったよ」
「いいえ、どういたしまして。どうぞお幸せに」


彼はいつものように、片手を上げて去って行った。
笑顔もまるで変わらない。
とても楽しそうに。とても幸せそうに。
明日から、ここには来ないと分かっているのに。
わたしと、もう会えないって知っているはずなのに・・・

彼とはママのお店でしか会ったことはない。
リング以外の話もしたことはない。
触れるのはいつも互いの指先で、それ以上の進展なんかもちろんなかった。
けれどとっても嬉しかった。
わたし自身、不思議とそれ以上を強く求めなかった。
ただママのお店で会えることが、とても幸せに感じたの。

心の中に、ぽっかり穴が空いた感じがした。
何を失った訳でもないのに。今までと全く違う日常が訪れる訳でもないのに。
けれど、もちろんだけど、涙は出なかった。
ちょっぴり切ないけれど、焦燥感も嫉妬心もなかった。
時間が経つと、彼と、会ったこともない彼女の嬉しそうな姿が想像できた。
幸せになって欲しいと、心から思えるようになれたの。

そうしたある日、悠理が突然お店に入って来た。
失恋記念に、アクセサリーを買いに来たって。
誰の為でなく、自分だけの、世界にひとつだけのオリジナル。


「タマ&フクじゃなくていいの?」
「うん。シンプルで、あたしだけに分かるヤツ」


さんざん迷って、細いシルバーの喜平ネックレスに、トップは悠理がデザインした葉を象ったもの。
銀細工をしているママの友人に頼んで、一週間で作ってもらった。


「意味は?」
「冬は・・・木の枝に葉っぱがないだろ。裸ん坊で寒そうだし、淋しいから」
「そう。今、あったかいホットチョコレートを作って来るわ」


ホットチョコレートが入ったカップを差し出すと、悠理は香りを楽しむように目を閉じて息を吸い込んだ。
その姿がびっくりするくらい大人っぽくて綺麗だった。


「ありがと。あったまった」


店内は充分に暖かいし、外だってそんなに寒くはないはず。
きっと・・・悠理の心が冷えきっているのね。


「おかわり持ってこようか?」
「ううん。もうたくさん」


それから悠理は、おもむろにトレーに置いてあったネックレスに手を伸ばし、華奢な首に回して留め金をかけた。
すっと時間が止まったように静まり、しっくりとネックレスが悠理の首に留まる。
やがて時間は思い出したように動き始め、周囲の音が戻った。


「ねぇ可憐、心の中に残されたままの想いを追い払うには、どうしたらいいと思う?」


わたしは驚きを表情に出さないようにして心を落ち着け、ショーケースの向こう側の壁を見つめた。
木目調の壁には海外の風景を写したカレンダーが貼ってあり、日付の部分には、ママが赤ペンで丸く印を描いている。
あの中には、確か彼が来店するかもしれない日を、わたしも記していたはず・・・

もう二度と会えない彼のために付けられた赤い印。


「時間が、心の中に残されたままの想いを包んでくれるの。
悠理を痛めつける、想いの回りにあるちくちくするとんがりも一緒に包んでくれるわ。
そして時間はゆっくりそれを削り取って綺麗にしてくれて、心の中にある引出しにしまってくれるの。
もちろんそうなるまでは時々思い出しちゃって、想いを引出しから取り出して、眺めては涙を流す。
でもその涙も時間が乾かしてくれる。
想いはしまってあるだけで、なくなってしまう訳ではないの。
ずっとずっと、心の中の引出しにあって、それは悠理だけが知っているのよ。
やがてその想いは熟して、“いとおしい記憶”になって、悠理を豊かに成長させてくれる。
そういう想いは、たくさんある方がいいの」


きっと、わたしも、そう。

悠理はわたしをまっすぐ見つめる。
その大きな茶色い瞳は、今までにないほど澄んでいた。


「心ん中に、残ったままでもいいんだね」
「ええ。いいのよ」


瞳から、一滴の涙が零れ落ちた。






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恋心の忘れ方 3

彼女からさっき別れを告げられた。
年上の、人妻。漆黒の瞳と、それに似た長い髪の毛が僕を夢中にさせた。
連絡をくれるのはいつも向こう。
会う場所と時間を決めるのも向こう。
ベッドに誘うのも、それから達するまでの時も、いつも向こうが決めていた。
それでもいいって、思ってた。
魅力的で、笑顔はチャーミングで、達する時は僕の名前を呼んでくれたから。
僕の誘いは無視をするくせに、僕が無視すると酷く嫉妬する。
思うようにならない彼女だったけど、なぜか心を奪われた。

どうして僕から離れちゃうんだろう。
僕の、何がいけなかったんだろう。


「美童、私疲れちゃったの。先が見えない恋愛は、ただ辛いだけだわ」


けっこう、本気だったんだ・・・
先を見えなくしてるのは彼女の方なんじゃないって思ったけど、何も言わずにさよならした。
どちらかが疑問を持ったら、恋はそこで終わるものだと知ってるから。

僕は夜の街を歩く。
本当はこの時間、彼女と過ごす予定でいたけどね。
街路樹に付けられた白や青のライトが、まるでクリスマスを思わせる。
まだハロウィンも迎えていないのにね。
きっと夜風が冷たいから・・・まるで冬のように寒く感じるからかもしれない。
通りを歩いていると、見慣れた女の子が目に入る。
さっき別れた彼女とは正反対の、女。
茶色の瞳と、それに似た色の癖のある髪の毛。短くってあちらこちらに跳ね上がってる。


「やっほ」


声をかけると、びっくりしたように振り向いた。


「美童」
「やあ、悠理。どうしてお店の前に突っ立てるの?誰かと待ち合わせ?」
「ううん。入ろうかどうしようかって迷ってただけ。もう帰る」
「じゃあ入ろうよ。ちょっとあったかいの飲みたいって思ってた。
ずいぶん寒くなったよね」
「でも・・・美童」
「僕?僕も今独りでブラブラしてたの。ちょうど良かったよ」


悠理は安心したように笑顔を向けた。
その笑顔が、僕の心を締め付ける。
だって悠理も僕と同じ、恋を失ったばかりだからさ。
奥のボックス席に向かい合って座ると、似合わないため息を彼女が吐く。


「どうしたの?」
「ん、だって、考えてみたら、さっき清四郎とコーヒー飲んだばかりだった」
「清四郎?珍しいね。説教でもされてたの?」
「ううん。最近、まとわりついてくるんだ。うっとうしいけどね」


そうこうしているうちに、ウェイターがやって来る。
僕は悠理のためにキャラメルマキアートと、自分のためにシナモンコーヒーを注文した。


「落ち込んでる時はね、甘いのがいい」
「落ち込んでる?あたしが?・・・そっか、美童も知ってんだ」
「分かってた、さ。僕だって長い付き合いだもん。悠理の気持ちは、メンバーみんなが分かってる。
それと同時に、魅録や野梨子の気持ちもね」
「ふうん・・・」


運ばれてきたそれぞれのカップは、温かい湯気がたっている。
悠理はそれを包み込むように両手で持ち、鼻先まで上げる。
香りを楽しむように目を瞑り、ゆっくりカップに唇をつけた。
その仕草全てが大人っぽくって驚いた。悠理も、立派な女性なんだって。
僕は感心しながら自分のカップにシナモンスティックを入れてクルクル回した。
二人して、それぞれのカップを空にする。
温かいものは温かいうちに、感謝して飲む。

それからしばらくして、悠理は口を開いた。


「ねぇ、美童はさ、例えば・・・なかなか捨てられない想いがあったら、どうやってやり過ごすの?」
「ふぇ?」
「あ、なんでもない。美童にそんな想いなんてないよね。世界中に恋人がいるもんね」
「悠理」
「消化しきれないんだよね、あたし。分かってあげてるつもりんなんだけどさー」


悠理は僕の視線を避けるように顔を背ける。
その顔が、さっき別れを告げられた彼女になぜか似て見えた。
僕の心は張り裂けそうになるほど痛んだ。
僕だったら・・・僕だったらこの気持ちをどう消化する?


「そう簡単に消化しないんじゃないかな」
「え?」


悠理は僕へと向き直る。


「失恋すると、多かれ少なかれ人はその想いを引きずって生きてる」
「うん」
「でも、引きずってても、前に進めないわけじゃない。最初はぎこちなくてもちょっとずつ慣れてくるさ」
「・・・・・」
「悠理の心を痛めつけるトゲトゲに包まれた想いも、引きずってるとそのうちすり減ってくる。
そしてだんだん表面は滑らかになって、スムースに歩けるようになる。
トゲトゲに鍛えられたせいか、前より早く、今度は走れるかもよ」
「美童」


僕は自分に言い聞かせるように悠理に告げる。


「魅録のことは辛いだろうけれど、引きずるのも一つの方法だと思う」


悠理は、大きくゆっくり頷く。


「間違ってないんだね」
「ああ」


澄んだ茶色の大きな瞳から、一滴の涙が零れ落ちた。






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恋心の忘れ方 2

清四郎と別れて、あたしは街をそぞろ歩く。
交差点は仕事を終えた会社員でごったがえしている。
そんな中、制服姿のあたしがいると、不良娘みたいだ。
大して変わんないだろうけど、ちょっと違和感。
けれど、まっすぐ家に帰りたい気分じゃないんだな、これが。
清四郎といても、何だか気を遣われているような、気を遣うような。
だからさっき、コーヒー飲んで別れた。
ウィンドウショッピングも悪くないかなって。でも・・・
この間まで魅録と歩いたこの街が、あたしの心を苦しめる。
一緒に見たカジュアルショップも雑貨店も、店のドアを開けることができなくて。
魅録とはもう来れないんだなって思うと。
当たり前の日常が失われるって、こう言うことなんだ。
通りの向こうのショップで、二人で揃えたバングルもチョーカーも、着けないままで終わっちゃうの?


“悠理、話したいことがあるんだ”


ほんの少し前の週末、魅録があたしを公園に呼び出した。
夏の暑さとは違う爽やかな陽射しが、芝生の上に注がれて気持ちが良い日だった。
ブラブラと遊歩道を歩いて、それから芝生の上に座って、もう一度魅録はそう言った。
言いにくそうに、普段とは違って目も合わせないで。
だからきっと、良い知らせではないって分かった。

野梨子と付き合うことになったから、って。


“そっか”
“でも悠理とは今まで通りで、なんにも変わんないよ”
“うん”
“ツーリングとかコンサートは難しいかもしんないけど、野梨子が良かったら行こうぜ”
“うん”


それから魅録は、良かった~って芝生に寝転んだ。
あたしは言葉が出なかった。
だって、なんて言っていいか分かんない。
魅録は野梨子が好きで、野梨子は魅録が好きで、そして付き合うことになった。
あたしは魅録が好きで、魅録はあたしを・・・今までのように友達としか思ってなくて、だからこのままで。

秋を感じる柔らかな陽射しが、芝生の上にあるあたしの手の甲に届く。
優しくって暖かくって、その感じがあたしを淋しくさせる。
涙は出なかったけど、心の中に深い深い底が見えないほどの穴が空いたみたいに痛かった。
そろそろ帰ろうと言う時になって、清四郎がやって来た。
野梨子に訊いたら、ここに二人がいるからって。
魅録となんか話してたけど、あたしには分からない内容だった。
わざわざここまで来る急ぎの話なのかなって頭のはしっこで思ったけど、そんなのどうでも良かった。今のあたしにはね。
しばらく話していて、それから魅録は帰って行った。あたしを残して。
その時からかな、清四郎があたしにまとわりつくようになったの。
あたしが淋しがるのを知っててそうしてるんだろうけど、正直ウザい。


「野梨子と約束があるんですって」
「ふうん」
「僕が送ろうか?」
「いいよ。ひとりで帰れるもん」
「そう?あ、でも、豊作さんから借りたい本があったんで、一緒に帰ります」
「兄貴いるかな・・・」
「借りることにはなっていたんで、行けば用意されてるんです」
「そっか。じゃあ帰ろうか」


ちょっとわざとらしい感があったけど、考えるのが面倒なので流した。
それに独りでいるとイヤなこと考えちゃいそうだし、いっかなって思った。


「清四郎知ってたの?魅録たちのこと」
「ちょっと前にね。二人から相談を受けていて」
「へぇ、付き合う相談?変なの」
「まあ、それとね。悠理や僕への配慮」
「配慮?」
「ええ。悠理が傷つかないようにね」
「そう、あたしが、傷つくの。清四郎も傷つくの?」
「僕は野梨子の保護者みたいなもんだから。付き合うのに許可が必要なようです」
「あっは。そっか」


週末の、珍しい時間に豊作兄貴が自室にいて、清四郎と話をしていた。
清四郎のさっきの話もまんざら嘘ではなかったワケだ。
そうして夕方になって、あたしの部屋に清四郎が入ってきた。
さっきまでの柔らかな秋の陽射しが、冷たい冬の気配を感じるような空気に変わる。
あたしはちょうど魅録とお揃いのバングルやチョーカーをテーブルに出している時で、驚いてフローリングにバングルを落としてしまった。
どうしましたって、清四郎は近づいてバングルを拾った。拾って、そしてあたしの手を取って、それを掌にそっと置いた。


「今は辛いだろうけれど、大切に取って置くといい。いつか、良い思い出になるから」

言っている意味が分かんなかった。
魅録との関係が壊されて、どうしていい思い出になるのか。どうして、そんなことを言うのか。



通りはキラキラした街灯が点いて淋しさを紛らしてくれる。


まだ帰りたくない。


だからあたしは、夜の街へと歩き始めた。






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恋心の忘れ方 1

夕焼け空の帰り道、さっきから悠理は僕の2メートル先を歩いている。
足早で、何だか僕から逃げているみたいだ。
けれどそうじゃない。だって僕がそっと速度を緩めると、彼女は背中で察してその速度も緩まる。


「ねぇ、もうちょっとゆっくり歩きません?スピードだけは悠理に敵わないの、知ってるでしょ」


彼女は振り向かないで答える。


「るっせーなー!足の速さはお前だろ?」
「そうでしたっけ?忘れちゃいましたね。走ってみます?」
「やだよ。疲れっちゃってるもん」
「ですよね。僕もです。だったらどこかでお茶でも?」


今度は答えない。
そんな時は大抵OKの意味で、僕たちは最初に見えたファーストフード店に入った。
窓辺のカウンター席で隣り合い、それぞれのトレーにはコーヒーカップしか置かれていない。
違うのは、悠理のトレーにシュガーとミルクが添えてある程度。


「元気もない。食欲もないと来たか」
「ふん!女の子の日だもん」
「あ、そう・・・ふうん。でも、他にも理由があるんじゃないの?なんてね」
「知ってるなら訊かないで。ウザいから」
「ごめん、ごめん」


先月末、悠理の大親友である魅録が僕の幼馴染みの野梨子と付き合い始めた。
始めると言うより、もう少し前から二人の気持ちは通じ合っていて、それがメンバーに明らかになったのが先月末。
皆は喜んで受け入れたが、そうじゃないのがひとり・・・


「まぁ、いい加減諦めたら?魅録だって、悠理が嫌いになって離れた訳じゃないでしょうに。今まで通りの友達であり、仲間だって言ってましたよ。
何も変わらない、今まで通り。ね?」
「・・・・・」
「そりゃあね、二人でコンサート行ったりツーリングしたりってのはできないでしょうけど」
「それができないってのは、今まで通りではないワケよ」
「うん。でもね、魅録たちの気持ちもくんであげてね」
「ふん」
「全部受け入れて」
「ちぇっ」
「分かってあげなさい」
「なんだよっ!その平和的解決。あたしはどうなるのさ?」


僕は温くなったコーヒーに口をつける。
美味しいとも言えないけれど、他にすることが見つからなかった。


「あたしだけ、我慢するの?」
「いや」
「あたしだけ、じっとしているの?」
「そうじゃないけど。ちょっとは大人になったら」


毎日繰り返される会話に、お互い嫌気がさしている。
けれど、分かってあげなきゃ。魅録たちの新たな関係について。
進歩のない僕たちの会話は迷宮入りするかのように閉ざされかける。
悠理が、口を開く。


「あたしの気持ちは、どうなるんだろう?」


僕は、知りたくなかった領域に足を踏み入れなくてはいけなくなった。
視線をあげると窓の向こうはすっかり日が暮れていて、鏡のように僕たちの姿が写し出されている。
悠理は・・・悲しそうな視線で僕を見つめていた。
“魅録たちの気持ちを分かってあげなよ”は、今の彼女にはキツ過ぎる、か。
確かに一方的過ぎるし、彼女の気持ちの行き場はない。
僕は窓ガラスの向こうの彼女に向かって話しかける。


「悠理は、どうしたいの?」


会話に進歩が見られる。こんな形で?


「魅録を、取り戻したい」
「うん」
「野梨子との関係も、壊したくない」
「悠理は、魅録が、その、好きなの?」


女は窓から視線を横の僕に移す。


「好き。野梨子から奪い取りたいくらい」
「へぇ・・・」


僕は窓ガラスから目を逸らせない。
悠理の言葉に、体はがうまいこと動けなかった。
しばらくして、悠理がへへっと笑う。

「冗談だよ、清四郎ちゃん。そこまで本気出してない」
「ふうん」


彼女はすっかり冷めたコーヒーを一息に飲み干すと、帰ろと言って席を立った。





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