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silent night

silent night

僕が目を覚ましたのは真夜中を充分に過ぎた時だった。
巨大な暖炉型のファンヒーター前のソファに、寄りかかるようにして眠っていたのだ。
ぼんやりと記憶を辿る。
ここは剣菱邸で、有閑倶楽部のメンバーと一緒にクリスマスパーティをしていた・・・
それで?
自分はソファの前でブランケットをかけて横になっている。
ゆっくり頭を回すと、部屋の電気は落とされていて、パーティの華やかさはすっかり消え、全て綺麗に片付いている。
窓辺近くのこれも巨大なツリーは、ライトをランダムに輝かせている。これは、眠る前と同じだ。
メンバーは、そう、覚えている。
門限が厳しい野梨子が一番先にタクシーで帰宅した。
次に美童と可憐。美童の家の車が迎えに来た。これも覚えている。
そして、それから・・・


「起きた?」


突然声をかけられる。


「ん、起きた。いつから寝てた?」
「可憐と美童を見送りに行って戻ったら、このソファに寄りかかって寝てた」
「そっか」
「うん。今ちょうど、紅茶を作ってもらって持って来たとこ。お目覚めに飲む?」
「ああ。ありがと」


悠理はコーヒーテーブルの上に紅茶セットを一式載せたトレーを置く。
ポットから湯気が立つ紅茶をカップに注いで手渡した。


「どのくらい寝てた?」
「たいして。一時間くらいかな。さっきあたしの部屋で魅録を寝かして来て、そして・・・」
「魅録?悠理の部屋?」
「うん。ゲスト用の部屋もあるけど、慣れた部屋がいいって」
「ふうん」


なるほど、これで彼等の関係が何となく分かった。
中等部三年からの僕達の仲だけど、彼等はもっと深い付き合いなのだろう。
いやらしい意味ではなく。
彼女は自分用のマグカップに紅茶を注いで僕の隣に座り込んだ。


「せっかくだから泊まっていきなよ。部屋はたくさんあるから」
「そうさせてもうらうよ」
「うん」


どうせ明日から冬休みなんだ。朝もゆっくりしていられる。
彼女はマグカップの紅茶を一口飲み、それから僕を振り向いた。


「こうして清四郎といるの、不思議な気持ちがする」
「何故?」
「だってあたし達、とっても仲がワルかったじゃん」
「そう?仲が悪いのは僕とじゃなくて野梨子とだろ?」
「まぁ、そうだけど、挨拶だってしなかったし」
「しないのは悠理の方で、僕はしてたんじゃないかな」
「そうだったかなー。ま、野梨子とは犬猿の仲だった」
「そうだったね。でも仲間になれたのは、あっと言う間だった。
お互い、誤解していた面もあったんだろうね。本当は分かり合いたかった」


悠理は返事をしなかった。
内面的な事については、まだ難しいのかも知れない。


「けど、ずっとみんなで仲良しでいたい」


しばらくして、彼女はポツンと言う。


「いられるさ」
「そうかなぁ。大学はバラバラじゃない?魅録は防衛大かもって言ってたし。
清四郎は医大だろ?」
「どうかな。分からない」
「分からない?清四郎と魅録は、ちゃんと将来が決まってると思ってた」
「まだ分からないよ。それに・・・」
「それに?」
「怖いんだ。先について考えるの」
「怖い?清四郎が?」
「ああ。僕だって、怖いよ。うん、怖いって言うか、不安って言うか」


悠理はびっくりしたように僕を見上げる。


「驚いた。でも何が不安なの?」
「分からない」
「・・・・・ふうん。でも、何となく分かるような気がするよ。
あたしも、今のこの生活がいつかなくなっちゃうんじゃないかなって思うと、不安だもん。
きっとそれに似てるんじゃないかな」
「多分、そうだと思う」


きっと、その通りなんだと思う。
将来について不安に思い始めたのは、つい最近の事だから。


「メンバーには内緒。笑われそうだから」
「あはは。そんなこと、ないよぉ」
「悠理が一番笑いそうだ。もう笑ってるし」


彼女はマグカップを床に置いて、両手で口を押さえ込んで笑いを我慢した。


「口止め料、ちょうだい」


口を押さえ込んでいた両手をまっすぐ僕に伸ばす。
その白い、小さな葉のような手を見て僕は思い出す。


「いいよ」


僕の言う事がうまく飲み込めないように、きょとんとした表情を向ける。
僕はチノパンツのポケットから、クリスマス用にラッピングした小さな箱をその両手の上に置いた。


「メリークリスマス」
「プレゼント?あたしに?」
「うん。プレゼント交換とは別に、悠理の為に用意してきたんだ。
今日はありがとうって思って」
「開けていい?」
「もちろん」


彼女にしては珍しく、丁寧にラッピングを解く。
小箱の中にはヴィロードのクッションに置かれた、葉を象った銀のブローチが入っている。


「とっても綺麗」
「着けてあげる」


僕は小箱からブローチを取り出し、彼女の華奢な胸元に着けた。


「似合う?」
「うん。この間、たまたま通りかかった銀細工の店で見つけたんだ。
この葉を見て、悠理を思い出した」
「ありがと」
「どういたしまして。悠理に似合うと思ってたから、気に入ってもらえて良かった」
「ほんとに、ほんとに、ありがと。ずっと大切にするよ」
「うん」


壁の振り子時計が午前二時を告げる。


「そろそろ眠いね」
「僕も悠理の部屋で寝られる?」
「へ?ムリだよ。だって魅録がソファを占領してるし、ベッドはあたしんだもん」
「あはは。それでは無理だね。じゃあ、ゲスト用ベッドでお願いします」


僕達は立ち上がり、ドアへと向かう。
彼女の背中には、僕の内面的な想いが伝わっているとは考えられない。
まだ・・・
部屋を出ると、廊下は少しだけひやりとした。
通りかかった使用人に、僕の部屋を案内するように彼女は言う。


「清四郎、ありがとね。おやすみ」


ゲストルームまで、悠理は一緒に来てくれた。


「うん、おやすみ」


僕は部屋のドアを開ける。
中はホッとするように暖かい。きっと僕が寝ている間に用意してくれていたのだろう。
振り返った時、ドアの前に悠理はいなかった。
魅録がいる部屋に、彼女は眠りに戻ったのだ。

高等部一年、初めてのメンバーとのクリスマス。
まだ伝わらない想い。まだ伝えられない想い。
伝えてはいけない、想い。
彼女と親友を失うには、僕にはまだ勇気がなかった。





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