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三月の雪

三月の雪

生徒会室の窓から見える校門までの並木道を眺めていて驚いた。
ちらりちらりと舞う白いものが、まるで桜の花びらかと思ったからだ。
まだ蕾になったばかりの桜が花びらを散らせるのか、と一瞬迷った。

違う・・・雪?

そう、雪。
三月も半ばに近づこうとしているのに珍しい。
僕は思わず窓を開け、手を外へと伸ばした。
掌に雪がふわりと落ちる。
顔に近づけようとしたけれど、すぐにそれは融け、小さな滴に変わった。
ふうっとため息が出る。
視線を上げると、その先によく知った後ろ姿を見つけた。校門の近く。
彼女は、僕の親友と歩いている。
以前とは違い落ち着いた感じで、まっすぐな一本の線の上を歩くみたいに。
彼とどこへ行くのだろう。
残りわずかな高校生活で、彼としっかりした思い出作りをするのかも知れない。
後悔がないように。

昨日も、同じように彼女を見かけた。
街中で、通りを挟んだ向こう側を彼女は一人で歩いていた。
やわらかなシフォンショートヘアからシンプルなショートヘアに髪を切り、今までとは違い、自分が希望した進路へと向かう意思が感じられた。
僕は、声をかけずにその場を過ごした。
声をかけるにはまだ、胸が痛いと感じ取れたからだ。
彼女だけではない。
僕も含めて皆それぞれの進路へと進む。
僕は医大。魅録は防衛大。野梨子と可憐は聖プレジデント大へ。
美童はスウェーデンへ一時帰国し、向こうの大学へ進む予定だ。
そして悠理は、バンクーバーへ語学留学する。
彼女のお兄さんがカナダに滞在中だからだろう。
野梨子と可憐以外は、バラバラになる訳だ。

傍にいて当たり前だったことが、失うことでその存在を知らしめた。

窓から彼女を追っている内に、一瞬にして吹雪になる。
ざらざらとした雪が、校庭を、並木道を、そして彼女と親友を冬へと引き戻す。
けれど季節は、確実に僕達を別れへと連れて行くのだろう。


「悠理が、語学留学するなんて驚きました」
「たまたまね、希望してみたら、あたしみたいな成績でも受け入れてくれる学校が見つかったんだ。ま、入学は誰でもできる。でも卒業はどうだろうね」


彼女はそう言って苦笑した。
でも普段の瞳とは違い、希望に満ちた明るさが宿っていた。


「淋しくなりますね」


僕の言葉に、今度は瞳を曇らせる。


「いつでも会えるさ」


言葉とは裏腹に、そうではないであろう現実を、僕も彼女も知っていた。


「そうですね。いつでも、どんな時でも、今まで通り一緒です」
「そうさ」


不安な表情のまま、俯く。
けれど“大丈夫だよ”と言いながら顔を上げ、僕の両肩に彼女の両手が置かれた時、間近に見えた彼女の瞳と表情は、春の空のように晴れやかな温かみを含んでいた。
吸い込まれるほどに瞳は澄んでいて、その向こうには僕の不安げな顔が映っていた。
その顔は、悠理に恋をしていた。

僕は、悠理に恋をしていた。

僕の肩に置かれた彼女の手は僕自身を包み、僕を守っていた。
きっと今までも、僕が彼女を守っていたのではなく、僕が彼女に守られていたのであろう。
そのことに気づいた時、窓の外は吹雪を忘れたかのように空は晴れ渡り、夕方の陽射しに溢れていた。
先程まで並木道を歩いていた二人はすっかりどこかへ行ってしまっている。
僕は軽いため息を吐き、生徒会室の窓を閉める。
振り返ると、時は普段通りに刻まれている。
けれどもう、この場所にメンバーが揃うことはないであろう。


いつか長い時間が経った後、彼女を昨日のように通りで見かけたら、僕は何と言って声をかけるのであろう。
その時、今と変わらぬ想いであるならば、僕はどんな言葉で彼女に伝えるのだろうか。


部屋には、最後の陽射しが名残惜しそうに漂っていた。






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