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風のおくりもの

風のおくりもの

日曜日の午後の陽射しは初夏を思わせるほど強い。
駐車場のアスファルトはコールタールの匂いが放ち、反射する陽射しはまだ白い素肌を痛めた。
剣菱悠理は今日、出逢って間もない友人の松竹梅魅録とフリーマーケットに参加していた。
詳しく言えば、彼の先輩が主催するフリーマーケットの販売を手伝っていた。
新しく開店したばかりのスーパーマーケットの駐車場は込み合い、その一画で行われているのだから車の排気も酷かった。


「これ全部売り切るの?」
「できたらな。でもムリだろ?いらないもんは、どんなに安くたって売れないもん」
「どーすんの?」
「後は、どこかのリサイクルショップに持ってくか、捨てるしかないのかな」
「売れるだけ、売る!」
「そ。売れるだけ売ろ」


とにかく二人は、買い物客で賑わう駐車場で大声を出して売り込んだ。
自分達以外にもフリーマーケットに参加して商品を販売している者がいるのだから、余計に賑わい、活気が溢れている。
思った以上に彼等が売り込んでいる商品の売れ行きは良かった。
Tシャツやジーンズ等の古着、ビーズや革製の手作りアクセサリーがどの年齢層にも人気だった。
悠理が描く個性的なPOPが、購買意欲を高めたのかも知れない。
気が付くと目の前のシートに並んでいた商品はなくなりつつあり、買い物客もかなり落ち着いてきたようだ。
そよ風が気持ち良く汗を乾かし、このまま夏になるんじゃないかと思わせる。


「悠理、お疲れ!今ジュース買って来てやるから、休憩したら片付けようぜ」
「うん。あたしコーラがいいな」
「オッケー!」


先輩から預かったジュース代を握り、魅録はスーパーマーケットに入って行った。
一人になると、どっと疲れが感じられる。
まだやっていない宿題を思い出すと、更なる疲れを感じさせた。
焦点を合わせるように遠くの桜並木を見ていると、自分の名前を呼ぶ声に驚いてそちらを振り向いた。


「やっぱり。こんな所で何してるの?」


声の主は同じクラスの学級委員長で、幼稚舎の頃からの腐れ縁である菊正宗清四郎だった。


「別に」
「別にって。これフリーマーケットでしょ?」
「ちょっと手伝ってるだけ。先生に言いたかったら言えば」
「そんなつもりはないけど」


幼稚舎からずっと一緒で、でも馬が合わない。
清四郎と、彼の幼馴染みの女子とは、特に。


「お前こそなんでここにいるんだ?」
「向こうでお花見したその帰り。家族と来たんだけど、みんなはスーパーで買い物するって」


そう、スーパーの駐車場の向かい側には公園があり、その奥には桜並木があってそちららも花見客で賑わっている。


「ふうん」
「剣菱さんはお花見した?」
「ううん」
「後で行こうよ」
「いつ?誰と?」
「今日、この後。僕と」
「ダメ。行けない」
「どうして?」


だって・・・と言おうとした時、魅録が戻ってジュースを彼女に手渡した。


「何か買って行ってよ」
「うん」


けれど二人の間のシートには、地味なデザインのアクセサリーや、シミが気になるバンダナのようなのしかもうなかった。
気の毒に思った悠理は、革ひもに鍵の形が付いたネックレスへ四つ葉のクローバーのチャームを通して清四郎に手渡した。


「これで100円。彼女にどうぞ」
「ん?」


清四郎はびっくりしたように悠理を見て、それからシートに座り込んでる彼女と視線を合わせるようにしゃがんだ。
二人はちょっとだけ見つめ合った。
清四郎は何かを言いたそうに口を開け、その目を悠理に重ねて微笑んだ。
初めて見るその少年の微笑みに悠理は何かを胸で感じ取ったが、それが何かは分からなかった。


「はい、100円」


清四郎はアクセサリーを受けとると、今度は100円玉を彼女に手渡した。


「ありがと」


ふっと静けさが二人を包み込む。
買い物客の賑わいも、風の匂いも、隣にいるはずの魅録の気配も消えた。


「僕にはまだ、彼女がいないんだ。だからこのアクセサリーは、今日の二人の記念に、君が持っていて欲しいな」


そう言うと清四郎は悠理の首に、鍵と四つ葉のクローバーのチャームが付いた革ひもを掛けた。
目の前に清四郎の存在を感じながら、頭の中はさっきの彼の微笑み・・・悠理を見つめる揺れる瞳、何かを語ろうとする口元がぐるぐると甦る・・・
周りの音が戻って、悠理がはっとするように視線を上げた時には、清四郎の姿はなかった。
どんなに目で人込みを追っても、彼の姿は見つからなかった。


「・・・・・」
「今の、誰?」


魅録が不思議そうに悠理の顔を覗き込む。


「ん・・・同じクラスのヤツ」
「仲いいの?」
「まさか。ほとんど知らないよ」
「ふうん」


魅録も、悠理の視線の先を見る。
けれどどこにも清四郎の姿はない。

風が、音を立てずに桜の香りを運んで来る。
やがて桜の花びらをひらりひらりと雪のように散らせた。





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