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sentimental no!no!

sentimental no!no!

“ああ、思い出した。やっとね。そうか、あいつに似てたんだ”

仕事が終わって自宅に戻り、シャワーの後のビール。
欠かせないよね。
毎晩のお楽しみをしている時、あたしはしばらく前からずっと悩んでいた事が解消された。
そう、この間、仕事で会った相手が誰かに似てるって思った。
話し方といい、相槌を打つタイミングといい、言葉のニュアンスといい・・・似ていた。
顔は似てない。けれど雰囲気がやっぱり似ていた。
優しそうにしていながら、距離を縮めようとするとちょっと突き放すような態度を取る。
それでいて、困った事があると必ず助けてくれる。
似ているんだよね、スゴく・・・

大学を卒業してから母親の助手みたいな事をしてる。
メンバー全員、大学を卒業してからそれぞれ、家業を継いだり親と同じ仕事に就いたりした。
あたしも、そう。って言うか、あたしみたいなのが他で働けるワケないもんね。
だから生ぬる~い感じで仕事を手伝い始めたら!思いっきりこき使われてる。
ビシバシ使われてるよ、全く。
でもそんな生活にも慣れ、仕事もちょっと楽しくなって来た。
大好きなイヴェントやテーマパークのイメージを、パンフレットやリーフレットに企画制作したりするんだ。
忙しい母親に代わって打ち合わせに行く事が多く、その後は豊作兄貴と段取りを組む。
兄貴となら心強いし、分からない事も質問できた。
そして今回・・・
近々できる剣菱のテーマパークのリーフレット制作にあたしは携わった。
いつもの流れで、広告部担当の者と打ち合わせするためにオフィスへ向かう。
ドアを開けてすぐに担当者を呼び出すと、別の人が現れた。

「前の担当者は転勤になって、今回は僕が担当する事になりました」

一応名刺交換をして。
でも野性の勘って言うのかな、ちょっとイヤな気分になった。
苦手な相手だなって感じて、同時に懐かしいような感じにも思えた。
それでも仕方ない、もう学生気分でなんていられないから、あたしは打ち合わせに集中した。
取り合えず大体の流れを組んで、数日後に現場に行く事でその日は終えた。
そして当日、あたし達は現場で落ち合い、企画準備室のスタッフと正式な打ち合わせを行った。
以前の担当者と違って、彼は自分の意見を全うなものとして通して行く。
そしてそれは、嫌味な感じではなく、皆がその意見に気持ち良く従えた。
その感じが、あたしにはとても懐かしく馴染みやすく、どこか畏れ多くもあり。
だから打ち合わせが終わったタクシーの中で、あたしは男に質問した。

「失礼だけど、前にどこかで会ったかな?」
「え?」
「仕事と関係なくて悪い。でも、何か、知ってるような気がするんだよね」
「いえ、初めてだと思いますけど。もちろん剣菱さんの事は社長令嬢ですから存じ上げていますけど、直接お会いしたのは今回が初めてですね」
「そっかー。きっと前にキミに似た人と仕事したんだな。会った事あるような気がしてさ」
「これ、男が女性に対して言ったんなら・・・」
「うん?」
「口説きに入ってますね~」
「ば、ばかっ!誰がそんな事するかよ!」
「あはは!」

結局会った事はなかった。
けれどこの会話で、あたし達は仕事がしやすい関係にはなった。
それからあたし達は、テーマパークのリーフレット完成まで毎日一緒に仕事をして行く事になった。
デザイン会社でデザイナーとコピーライターと共に、今度はラフで打ち合わせる。
何枚も違った角度でラフを作り上げ、完成度を高くして企画準備室に持って行かなくてはいけないからだ。
朝からずっと一緒で、移動はもちろん、休憩も食事も一緒にいなくてはならない。
今までなら、自分が率先して担当者に指示しながら仕事を進めていた。
上下関係がはっきりしていて、公私が交わる事など決してなかった。
けれど、けれど、広告部の担当者が異動して今の男になってから、あたしの歯車が目に見えて狂い始めていた。
先導するのはあたしではなくあの男。
企画も予定も、何もかも全て。
いけないのは、あたしがそれに歯向かう事ができず、歯向かう理由なんてなく・・・正直、立場は逆転していた。
これではいけないんだと思いながら、そうなる事を望んでいる自分がいるのが分かった。
あいつに従う事で得る安心感、安定感、満足感・・・どうしちゃったんだろう、あたし。
そんな私的な事で頭をイッパイにしてしまっていたら、現場に持って行かなくてはならないラフ案を、床一面にばら撒いてしまっていた。

「こらっ!準備室に持って行かなくてはならないラフだぞ!」

コツンと軽いゲンコツが額に飛んで来る。

「ごめん」

ふっと、脳裏に何かが浮かぶ。

「さ、拾って。CM四コマも描いてあるから、順番を間違わないように」
「うん」
「あ、ちょうどいい。会議室が空いてるから、ちょっと校正しましょうか。僕はまだじっくり目を通していなかったし」
「うん」

でも、話をしている内に、浮かんだ何かは消えてしまった。
ただ、“懐かし”く“感情的”な思いだけが残った。

「粗探しをするようで、ごめんなさい。でも後で校正ミスが見つかると面倒なのでね」

あたしを見て、気遣うように微笑んで見せる。

「ううん。校正は、たくさんの人でやった方がいいよ」
「そうですね。うん、大丈夫。このまま明日、現場に持って行けます」

そう言って、あたし達はまた明日の約束をしてその日の仕事を終えた。
そして帰宅後のお決まりビールの時、あたしは思い出した。
ずっと胸に突っかかっていた何か。
仕事中、脳裏に浮かんだ何か。
懐かしくて感情的な思いの理由・・・
広告部の新しい担当者は、あたしの昔の仲間の一人に似ているんだ。
雰囲気、言葉のニュアンス。
近付こうとしても、一線を引くような態度。
馴れ合いなんて、とてもとても。
でも、困った事があると必ず助けてくれる。

ああ、そうだ。あいつだった。あいつに似てたんだ。
もうずっと会っていないけど、元気にしているだろうか。
高等部卒業以来、大学も別で、数えるくらいしか会ってない。
こっちの病院に戻って来たのかも分からない。
メンバーとも、最近は連絡を取ってなかったな。
みんな、どうしてる?

あたしは今でも大親友と思っている、喧嘩友達にメールを一本入れておいた。

リーフレットも無事に本刷りに入り、本格的なイヴェント企画は兄貴に渡った。
後は納品だけ。
あたしが今回の件で広告部のあるオフィスに行く事はもうなかった。
と言っても、またすぐ企画ものが入れば行かなくてはならない。
だから、あの男に二度と会えない訳ではないけれど、ちょっとだけヘンな気分になった。
もちろん!あいつに惚れ込んだとか今すぐ会いたいとか、そんなんじゃないよ、全然!
ただ、ただ・・・
昼休みのランチも久しぶりに一人ぼっちで、ぽっかり胸に穴が空いた気分。
レストランの強化ガラスの向こうは、気が付けば、夏とは違う高く澄んだ空に変わっていた。
室内はエアコンがちょっと効き過ぎていると感じるのは、外の気温と湿度が低くなったからかも知れない。

早いな・・・

そう思って食後のコーヒーのおかわりを頼もうとした時、仕事用の携帯電話にメール受信のヴァイブ。
発信元は“広告部”。
ドキッとして、身体中の毛穴が痛くなった。
タイトルは打ち込まれていなくて、本文を確認するとすぐに送った相手が誰か分かった。

“リーフレット、無事に納品まで漕ぎ着けました。お疲れ様です。
それで急ですが、今夜打ち上げしませんか?
突然で申し訳ないのですが、僕は明日以降、別のオフィスへ異動のため時間が取れないんです。
剣菱さんには大変お世話になったし、ちゃんと挨拶もしないままでは失礼だと思いますし。
時間が取れないのなら無理にとは言いません。
お返事いただければ嬉しいですが”

あたしの手の中の携帯が小刻みに震えているのが分かる。
“別のオフィスへ異動のため時間が取れない”ってどう言う意味なのか、頭で理解していても心が受け入れられない。
あたしは、でも、素っ気ない返信をする。落ち着け、自分・・・

“お疲れ様です!異動なんてびっくりです。
無理にでも時間を取って!!今夜打ち上げしたいと思います。
それで、どこへ行けばいいのかな?”

“ありがとうございます。
それでは今夜の十九時に、剣菱さんのオフィスへ迎えに参ります。
お疲れ様です”

またちょっと、線を引かれたような気持ちになる。
あたしって結構、おセンチだな・・・
何だよ、今夜でサヨナラなんて、ちょっと急過ぎやしない?
今すぐにでも、飛んで行きたい気分だよ。
このちっちゃな携帯電話の向こうに、あいつがいてくれるなら。

夜になって広告部担当が、時間通りにあたしを迎えに来た。

「おしゃれでも何でもないショットバーでごめんなさい」

普段通りのニュアンスで、彼は言う。

「全然、全然。むしろお気遣いありがとう。でもホントびっくり。
異動なんて、また急にどうしてって感じ」
「それは僕も同じですよ。もう少しあのオフィスにいられると思ってたんです。
まあ、この間の転勤の後任者がまだ決まっていなかったから、それまで僕を入れてたんでしょ」
「キミがその担当だと思ってた。だからしばらくは、一緒に仕事できると思ってた。
せっかく慣れて来たのに、残念だね」
「ええ、まあ。ありがとうございました」

あたし達はカウンターで立ったまま、ウィスキーのロックで乾杯する。
仕事の話をしながら、何杯かグラスを空ける。
そうして、もう少ししたらお別れ。
“お疲れ様でした。またいつか、一緒に仕事ができるといいですね”そう言って。
けれどあたし達は、思った以上にウィスキーを飲んだ。
もう何杯目か分からないくらい。何の話をしているか、覚えていないくらい。
だんだん立っているのが苦痛になって、スツールのあるテーブル席へと移動した。
酔いはかなり回っているはずだけど、お互い、冷静さを保っているようにしていた。
いつになく優しくて、リードしてくれる。
会話の行方を探していても、必ず先へ進めてくれる。

あいつに似ている、とても。けど、違う。
顔が違う。髪型が違う。声が違う・・・
体格や雰囲気が似てるけど、全く違う人なんだ。

「・・・え?」

突然、仕事以外の話を持ち出されたような気がした。

「実は僕も、聖プレジデント学園出身なんです。高等部までは同じ学年にいたんですよ。
僕の事、覚えてます?」
「あ・・・そう、だったの。ごめん、知らない」
「ですよね。でも僕は剣菱さんを鮮明に覚えています。剣菱さんって言うか、生徒会の皆さん。
だから最初、どこかで会ったんじゃないかって言われた時、僕を覚えてくれていたのかなって嬉しかった」
「そうだったんだ。ごめん。あたしの知り合いにちょっとだけ似ているように思えたんだ。つい最近、その事に気付いて」

彼は遠慮がちに微笑んだ。

「あの頃とはずいぶん違って、てきぱきと仕事をこなされて。
大人の、悠理さん」
「あっは!落ちこぼれてたもんなぁ」
「いえいえ、そう言う意味じゃなくて」
「そう言う意味だっていいよ!でも、今回は本当に助かった。ありがとう!
いろんな場面でリードしてくれて。心強かった」
「僕も。剣菱さんだから、自信を持って進められたように思えます」

店の照明がほんのちょっとトーンダウンする。
酔いもあって、彼の表情が読み取れない。

「あたし、まだまだだから・・・」

優しい手が、テーブル越しから伸びてあたしの肩を叩く。

「あなたなら、自信を持って行けると思います」

違う、そうじゃない。そんな言葉が欲しいんじゃないんだ。
頭をよしよしして、“絶対大丈夫、僕が保証してやるよ”って言って・・・

頭の中が仲間の一人に集中して言葉が見つからないでいると、彼は困ったようにあたしを見つめる。

「そろそろ、行きましょうか」

あたし達は店を出て、通りで待つタクシーに乗った。
もうエアコンを必要としない車内で、あたしはまだ言葉を失っている。
隣に座る彼に、申し訳ない気持ちでいっぱい。
あたしは・・・彼を通してずっと片想いでいたあいつを探していた。

ごめん、キミをあいつの代わりにしちゃあ、いけないよね。

タクシーの中で、時々触れてしまう腕が、狂暴的な淋しさをあたしに与える。
どうしたらいいのか、全く分からないよ。
気の利いた別れの言葉も浮かばない。
そうこうしている内に、タクシーはあたしの家に前に着いた。
ドアが開くと、夜の冷たい風が車内に入る。
車を出ようとすると、優しい手がまた、あたしの腕をつかんだ。

「剣菱さん、お世話になりました。またいつか、一緒に仕事ができるといいです」
「こちらこそ、ありがとう。お疲れ様でした」
「最後に、握手して下さい」

優しくて大きな手が、あたしの手を包み込んだ。


自室に戻り、ベッドに思いきり体を投げる。
急に酔いがぐるぐる回り、朝までそのまま眠ってしまった。

朝、すっかり寝坊をしてしまう。
胸が苦しい理由を探す訳ではないけれど、仕事用の携帯電話には数本の着信。
それは広告部のオフィスからではなく、自分のオフィス。
仕事は一本落ち着いたから、午後からの出勤にしてもらった。

ダイニングへ行くと、珍しく豊作兄貴がテーブルに着いていた。

「おや、悠理。重役出勤?」
「うん。寝坊しちゃったから」
「そう。リーフレット片付いたからね。たまにはいいんじゃない」
「うん」
「来月末には会場も完成するから、レセプションパーティにはお前の友達も招いたら?もう何年も集まっていないだろう?」
「そうだね。でも、みんな忙しくしてるから、集まるかな」
「悠理の誘いだし昔からの仲間だもの、皆喜んで来るさ。僕も久しぶりに皆の顔を見たいよ。元気にしてるかな?」
「うん。きっと元気・・・あ」

あたしは自分のスマホを取りに部屋に戻る。
そう言えば、メールを入れていたんだ。返信が来てるかも知れない、そう思って。
バッグの中から探り取ると、着信と受信がいくつか入っていた。
どちらにも、喧嘩友達の名前がある。
あたしは相手の都合も考えないで大急ぎで電話を入れた。




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