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去年のクリスマス

去年のクリスマス

放課後の生徒会室で雑務を終えると、窓の外は完全な暗闇になっていた。
まだ夕方の六時位なのであろうけれど、この季節に夕陽を見れることは少ない。
僕はパソコンの電源を切り、エアコンのスイッチも切る。
鞄に文房具を詰め込んで、それからドアの前で振り返り、室内をもう一度確認すると部屋の電気も消して鍵をかけた。
通学路は学校周辺と違ってとても明るく、賑やかだ。
通りはイルミネーションで飾り立てられ、年末商戦に向かっている。
この時季は、お決まりの曲がどこでもランダムに流れる。
聞きなれた、クリスマスソング。
そして誰もが、必ず甦る思い出があるはずだ。
僕にだって。
そう、僕にだって、あるんだから。
大きなショウウィンドウの前まで来ると、胸がぎゅっと締め付けられるような痛みが走る。
ああ、この曲。この曲が流れる度に、僕は心が締め付けられる。

“去年のクリスマス 僕は君に想いを伝えた
でも君はすぐ次の日に その想いを手放した”

有名な曲。クリスマスには欠かせない歌。
「Wham   Last Christmas」
古い歌だけど、みんなが知っている。
別に僕の思い出と重ね合わせる訳ではないけれど・・・でもね。

去年のクリスマス、僕にとっても苦い思い出があった。

そのクリスマスの日、昼過ぎから剣菱邸でクリスマスのパーティー準備が行われていた。
と言っても、会場となるちょっとした広間を利用しての飾り付け。
料理は剣菱で用意されるから、本当にツリーと壁への飾り付けのみ。
ランダムに入っているクリスマスソングをかけながら、僕は脚立に乗って壁際のツリーの上部にモールと雪代わりの綿をバランス良く飾る。
悠理は真ん中辺りにオーナメントを取り付けていた。
近くで魅録がライトを広げていて、可憐と野梨子、そして美童がみんなのプレゼントをソファに並べていた。
それぞれの仕事をこなしていた時、僕がモールの端を誤って悠理の頭の上に落としてしまい、彼女はふざけて引っ張り出した。

「危ないから止めてくださいよ!ちょっと、早くその端をよこして」
「ヤダよ~!」

そうしてしばらく、上の僕と下の悠理とでモールの引っ張り合いしていたが、埒が明かないので、彼女を驚かせようと僕は脚立から飛び降りた。

「ぎゃっ!!」

案の定、彼女は驚いて背中を壁に沿うようにしながら座り込み、僕は彼女に覆い被さるように降りてしゃがんだ。

「こら!早く端をよこせ」

悪ふざけの延長で顔を近付けて脅すと、彼女は頬から耳まで赤くして僕を凝視している。
僕はそんな彼女をとても愛らしく思い、また閉じ込めてしまいたい気持ちになった。

僕だけの・・・悠理にしてしまいたいと、心から願った・・・

大きな目を更に見開いて僕を見つめる彼女に、また少し顔を近付ける。
周りのメンバーは誰も気付いていない。
天井まで届くような巨大なツリーは、本物のもみの木の枝葉のようにゆったりしていて、重なるようにいる僕達を完全に皆の目から隠していた。
僕は笑顔を取り払い、悠理を真剣に見つめる。
彼女もそれに気付き、一瞬だけ普段の瞳の色に戻すと、長い睫毛で塞いだ。
それを合図と受け取り、僕は片手を壁に、もう片手を彼女の小さな手に重ねて、そして唇も重ねた。
クリスマスソングはもう聴こえてこない。
初めて交わした口づけは、悠理がおやつに食べていたチョコレートの味がした。
甘くて、温かくて、忘れられない味・・・

後方で誰かが大きな音を立てて何かを落とした。
それと同時にクリスマスソングがまた耳に流れる。

“心を込めて君にプレゼントを贈った
「I Love You」ってメッセージを添えて
僕の想いを伝えたくて”

「Wham」は、そう歌っていたのを覚えている。

その後のパーティでは、普段と大きな変化はなかったけれど、僕は彼女に対して特別な繋がりを感じていた。
そしてもちろん、彼女もそうだと信じていた。
でも次の日も、その次の日も、彼女は普段と変わらない距離で接していた。
僕はそんな彼女を不思議に思い、どうにかして想いを訊きたかったけれど、彼女は完全に僕を(その事については)避けていた。
最初は信じられなかったけれど、月日は僕に彼女の答えを与えた。
きっと・・・僕の想いを受け取ることはできない、と言うことなのだ。
彼女の愛らしい表情も、想いを寄せるように見えた瞳も、もう僕は信じられない。
本当に、信じられない。信じない。
それなのに彼女ときたら、僕が距離を置こうとすると、無邪気になついてきてその意思を退ける。
一体どういうつもりなの?僕をからかっているの?
子供のような笑顔を向けられると、僕はまた彼女を信じてしまいそうになる。

通りのショウウィンドウの前で、僕はそうして過ごしてきた一年を振り返る。
彼女を信じそうになる自分を信じられない、そんな思いで首を何度か左右に振って見せる。
今年はメンバーとのクリスマスを避けて、ESP研究会の誰かと過ごそうと考える。
誰でもいい。
クリスマスが終わるまで、僕と時間を潰してくれる誰か。
その時だけの相手。
でも、そんな僕の意思を覆すように、携帯電話は相手の受信メロディを伝える。

“今年のクリスマスの件だけど”と、タイトル。

“可憐と美童は、それぞれの相手と過ごすんだって。
魅録は千秋さんと時宗のおっちゃんとスパに行くって。
野梨子はお茶会と重なったって。
ねぇ、清四郎は?予定あるの?
予定があるなら、あたし、父ちゃんと母ちゃんにどっか連れてってもらおうかと思ってんだけど・・・”と本文が続く。

僕の独り善がりかも知れないけれど・・・
僕にクリスマスの予定がなければ、僕と過ごしても良いってこと?
二人だけのクリスマスを送ろうってことなの?

イルミネーションで昼間のように明るいショウウィンドウは、うっすらと僕の姿を映し出してる。
そしてその顔は、嬉しそうに微笑んでいる。
周りを歩く人々は、そんな僕など気にも止めていない。
「Wham」はまだクリスマスソングの続きを歌っている。
「Last Christmas」を最後の最後まで聴くのは初めてだ。

“ああ今 僕は本物の愛を見つけたよ
だからもう 馬鹿は見ない”

去年のクリスマス、想いを伝えた彼は、彼女自身にそれを引き裂かれた。
だから彼は、今年こそ特別な誰か、他の女の子とクリスマスを過ごそうとしている。
でもどんなに彼女への想いを逸らそうとしても、特別な人は・・・
彼女しかいないって知るんだ。

メールで文字を追うよりも、最短で答えを伝えたい。
悠理の声が聴きたい。
僕は携帯電話を彼女へと繋ぐ。
三回目のコールで、彼女は電話に出た。

「もしもし、清四郎?メール読んだ?」
「読んだ。いいよ、僕はクリスマスはみんなと過ごすものだと思っていたから、特別な予定は入れないでいたんだ」
「そうだよね。あたしもそう思って予定を組んでいたのに。ま、しようがないけどさー」
「さて、どうします?二人でディナーにします?どこもレストランは予約でいっぱいだと思いますがね」
「レストランなんて、どうにでもなるよ。どこがいい?」
「そうだな・・・ねぇ、悠理、今から会える?せっかくだからいろいろ歩いて決めたいです」
「いいよ。どこに行けばいい?」

僕の声は弾む。
彼女の声も、何だか嬉しそうに聴こえる。
この一年は、僕のただの勘違いだったのだろうか?
悠理も、本当は機会を待っていただけなのだろうか?
あるいは・・・メンバー思いの彼女だもの、僕達によって、倶楽部の関係が崩れるのを恐れていたのかも知れない・・・
でもクリスマスの特別な日、突然与えられた二人だけの時間を悠理は僕と過ごすことを望んでいる。
全ては、僕の思い違いだった・・・?

「Wham」は最後にこう歌う。

“クリスマスは僕と一緒にいてくれるね
その日だけでも僕を愛して欲しい
僕にとって 君こそが特別な人なんだから”

恋を失って終わる歌ではなかった。
「Last Christmas」は、特別な、本望の人を知る歌だった。
だから僕は、その歌の通りに、クリスマスには悠理へ想いを告げようと誓った。





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