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2014年06月

outsider 5-3

outsider 5-3





グラスの中に新しいスコッチが注がれ、それと同時に魅録は煙草を揉み消す。
苛立ちを感じさせる行為ではない。
彼の中に、僕への告白に葛藤があるのだ。
しかし彼は、ゆっくりと口を開く。

「高校を卒業して大学に入って、皆がばらばらになってさ。
俺達ほとんど会う事がなかっただろ?
多分あの頃から、あいつの感情は狂い初めていたんじゃあないかな・・・」

狂う?

「俺達がばらばらになるなんて、あいつの中では考えられなかったんだ。
大学を卒業してさらに俺やお前の仕事が忙しくなり、美童が帰国し、野梨子と可憐がそれぞれのパートナーを見つけて。
もちろん、あいつ自身も両親の仕事を手伝って忙しくはしていたけれど、あの通りの性格だろ?
落ち込む上に、誰も頼る奴がいなかったんだろうな」
「かなり、荒れたんですか?」
「いや、健気に仕事を頑張っていたさ。でもな・・・精神的に参ってるって、誰もが感じた。
だから、何とかしてやらなきゃって思ったんだ。
俺だって仕事が忙しいけどよ、あいつを放っておけなかった」

魅録の言葉は、僕の心を突き刺した。

「俺は・・・ずっと前から、あいつと出会った頃から、特別な感情で見ていた。
だから、苦しんでいる姿を放ってはいられなかった。
“こいつ、このままだと本当にダメになる”俺はそう感じて、悠理に結婚を申し込んだ」

そこまで話すと、彼はスコッチを一口だけ口に含む。
舌の上で転がすようにしてからゆっくりと喉の奥に流し込んだ。

「結婚する事で、悠理が精神的に少しは楽になるかと思ったんだ。
束縛するんじゃなくて、時々傍にいてやるだけで、あいつが癒されるんじゃないかって。
でも・・・・・
結婚して一緒にいるって事は、今までのような友人関係ではない訳で・・・・・」
「気の毒に・・・」
「それが終わりの始まりだった」

彼の言葉は、どこか震えていた。

「悠理は、自分の事だけを真剣に考える事に慣れきっているんだ。
そのおかげで、他人の不在がもたらす痛みと言うのを、想像出来ないんだ。
こんなにもあいつの事を想っている俺が目の前にいるのに、あいつの中には、俺なんて存在しない」

冷たい表情で僕を見つめる。

「あいつが求めているのは、俺ではない他の誰かだ。
あいつが抱かれたいのは、他の誰かの腕だ。俺ではない・・・」

僕は黙って見つめ返す。

「結局のところ、悠理はスポイルされきっているんだ」

彼は声を荒らげたいのを抑えているかのようだ。

「でも、俺は悠理を愛している。例えあいつが、俺の何もかもを傷つけまわったとしても、俺はあいつを手放すつもりはない!」

深く長い溜息の後、彼は自分の両手を見つめた。
そこに彼女の気配を感じる事はない。

「結婚しても、救いのない日々が続いていた。あいつはいつも疲れきっていて、俺を見ようともしなかった。
俺が何かを訊ねても、口を閉ざしたままだった。
俺に抱かれても・・・・・義務的に行われるだけだった」

僕は魅録から決して視線を逸らさなかった。

「悠理があんな風になった原因は、倶楽部の連中がばらばらになったから。
でももっとずっと奥の所に真相があって、高校卒業と共にただ引き起こされただけに過ぎない」

彼は両手を強く握り締め、それから脱力したように両膝の上に置いた。

「子供でもつくれば、少しは変わったのかも知れないけどさ。でも・・・無理だ」

しばらく沈黙が続いた。
彼はソファに身体を投げ出し、じっと天井を見つめていた。
店内の照明が、彼のくすんでしまった髪の毛を映し出す。

「本当は相談なんかじゃあねぇんだ、清四郎」
「え?」
「聞きてぇ事があったんだ」

魅録は体勢を戻し、僕をじっと上目遣いで見つめる。

「・・・・・」
「この間、お前、悠理と・・・なんかあったのか?」
「いいえ、何もありませんよ」

僕は即答する。

「ある訳ないじゃないですか」

ある訳ない。


互いに惹かれ合っていた学生の頃から、僕達の間には何も起こってはいない。
互いの存在を意識し、互いが想い合っていると知りながら、僕は何も行動に移せなかった。
何故なら、彼女が僕と共にいる事で幸せになれると感じなかったからだ。
“二人でいられるのなら”何て何処かの世界の事で、現実では有り得ないと考えていたから。
そして何より、彼女もそうだと思っていたから!



あの日、結局僕達は肉体を交ぜ合わせる事はなかった。

あの時の彼女の感情の抑制をするのはとても不自然な事のように感じられたのだが、結局はそれで良かったのだと思う。
もしもっと状況を押し進めていたとしてら、僕達は進退窮まる感情の迷路に追い込まれた事だろう。
そして僕がそう感じている事を彼女も理解出来たと信じている。

何故僕との再会で、彼女の心に一条の光が射し込まれたのかは分からない。
あるいは僕との再会で、僕に対する想いに終止符を打つ事が出来たからなのかも知れない。



「そうか・・・・・」

魅録はジャケットの内ポケットからボールペンを取り出し、テーブルの上にある紙ナプキンに何かを書き込み始めた。
紙は湿り気を帯びていて、書き難そうだった。

「そのうち悠理に電話をしてやってくれ。
あんたが言うように、この間何もなかったのかも知れないけどよ、あいつにとってはいい刺激だったんだ。
今のあいつには、そういった刺激が必要だと思うんだ」

彼は僕に、二人が住む自宅の電話番号が書かれた紙ナプキンを渡した。

僕達は店を出ると、それぞれに別れた。
それぞれに・・・しなくてはいけない仕事が山ほどあるのだ。





僕はまだ彼女に電話をかけてはいない。
時々あのホテルのプールに行っても、彼女と出会うことは無かった。
僕の中にはまだ彼女と重ね合った肌の温もりや彼女の息遣いが鮮明に残っている。
それが時々、僕を痛いほど混乱させた。





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outsider 5-2

注:文章中に一部、お若い方には不適当な表現があります。
10代のお若い方やそのような表現が受け付けられない方はお引き取り下さい。読後の苦情も受けません。






outsider 5-2





学生の頃に仲間と行き付けていた店の前に立つ。
地下にあるその店のドアを開けると、ひんやりとした空気が漂っている。
まだ早い時間だからなのか店内の空気が澄んでいて、ブルー系のライトがより一層清潔感を感じさせる。
見慣れた男の姿を認めると、僕は軽く深呼吸をしてから前に進んだ。



「よお、久しぶりだな」

彼は疲れたようなスーツを着込み、スコッチのストレートを飲んでいた。

「そういう飲み方は身体に良くないですよ。ストレスですか?」

肩を竦めて苦笑すると、僕に同じものをオーダーする。

「仕事は、どうです?」
「まあまあだよ。そっちは?」
「まあまあ、ですね」

彼も僕と同様、彼の父親と同じ仕事をしている。

僕は何処かで痛みを覚えながら、彼に質問する。

「で、今夜は何の用ですか?」

すっと表情が変わる。一瞬、緊張を覚える。

「悠理の事なんだ」
「悠理が、どうしました?」
「いや、今始まった事じゃあないんだ。でもあいつ、この間お前と偶然会ったって言うからさ」
「・・・ええ」
「清四郎に相談してもいいのかなって」
「相談?」

それから魅録は、スコッチを一気に飲み干した。










悠理の甘い香りがする肌を貪るように求め、互いの、今までの想いをぶつけ合うように抱き合った。
僕は学生の頃から彼女とこうなる事を願っていたし、彼女だって同じはずだ。

それなのに、それが出来ずに何故僕達は離れてしまったのだろう。


彼女の掠れた喘ぎ声が脳裏に響く。
このまま彼女の全てを奪って、めちゃくちゃにしてしまいたい。
彼女を束縛できるのなら、何もかも失っていい・・・・・





「清四郎?」
「すまない」
「あたしと、したくないの?」
「いえ。でも、体が、反応しないんだ」
「あたしに、魅力ないから?」
「違う。悠理は充分に魅力的です」
「じゃあ、もっと別の方法で」


彼女は僕の下腹部へと愛撫しながら進むと、肉体の一部を口に含み舌で刺激を与えた。
強く吸い付くように唇を使い、舌で何度も転がす。
手が、足が、肉体の全てが彼女の与える行為に喜びを覚える。
僕は彼女のやわらかい髪を撫で、その首筋や細く華奢な肩に触れる。





そして、意識は覚醒へと向かう。





「どうして?」
「分からない」
「魅録と一緒になったから、だろ?」
「違う。魅録からあなたを奪いたい!出来るなら奪い取ってしまいたい。
でも、あなたに辛い思いをさせたくない」

ぼんやりとした視線を僕に向ける。

「悠理が大事だから、これ以上は出来ない」



彼女は僕のそれを離し、身体を離した。



「・・・・・意気地なし」










「あんたと会ってから、悠理がさ、少し元気になったような気がして」
「どこか具合が悪かったんですか?」
「いや、別に身体を壊していたと言うワケではないんだけどさ、まあ、余り元気とも言えない時期が続いていたからさ」

正直、僕は彼から悠理の情況を聴くのは堪えられなかった。

「こういう物の言い方では、どうも要領を得ないよな」

彼は口元に微笑を浮かべながら言う。

「でもどうもうまく順序立ててしゃべりにくいところがあってさ。
正確に言うと、あいつはかなり元気になってる。少なくともあんたに会ってからはずっと元気だ」

僕はスコッチを飲み干し、この間の彼女との出来事が原因でここに呼び出されたのではないと分かると、魅録に問う。

「あなた達夫婦の事を伺うのは失礼かも知れませんが、彼女に何かあったのですか?」

彼はスラックスのポケットから煙草を取り出し、テーブルに置いてあるこの店のライターで火をつけて吸った。
チリチリと煙草が音を立て、煙が細く立ち上った。





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outsider 5-1

注:文章中に一部、お若い方には不適当な表現があります。
10代のお若い方やそのような表現が受け付けられない方はお引き取り下さい。読後の苦情も受けません。







大事に育てあげられ、その結果取り返しのつかなくなるまでスポイルされた美しい少女の常として、
彼女は他人の気持ちを傷つけることが天才的に上手かった。





こう始まる小説の題名は何だっただろう。



僕は時々行くホテルのプールサイドのデッキチェアに座ると、この文章を思い出す。
そして同時に、あの時の、彼女と過ごした数時間を思い出す・・・・・





outsider 5-1





医師として父親の病院で働くようになって四年経つだろうか。
外科医として目まぐるしい日々を送りながらも、時々、本当に時々、僕はこのホテルのプールに泳ぎに来る。
ここで心行くまで泳ぐと、身体の隅々まで溜まっていた疲れが取れるからだ。



その日は久しぶりの休日で、やらなくてはいけない仕事を自宅に持ち帰りながら、自身はここに逃げ込んでしまった。
とにかくここで数時間を過ごし、それから自宅にこもって仕事をしようと思っていたのだ。
何度かプールを往復した後、タオルで身体を拭いながらデッキチェアに座り込む。
顔半分をタオルで覆い、ぼんやりとしたままプールの数人のスイマーを見ていた。

その中で一際美しいフォームで泳ぐ女性に目がいく。

彼女は海で泳ぐ魚のように、そうする事が自然であるかのように泳いでいる。
ツルツルとした水が、彼女の身体をうっすらと覆っている。

やがて彼女は僕の反対側へ泳ぎ行くと、そこからプールサイドへとあがった。
肩紐のないグレーのワンピース水着で、光沢の生地の雰囲気が本当に魚のようだ。
細い肢体が印象的である。



僕の視線に気付いたのか、振り返って驚く・・・・・。










「こんなところであなたに会えるなんて、思ってもみませんでした」

僕はコーヒーカップに目を落としたままの彼女に向かって言う。

「元気でした?あなたの結婚式以来じゃあないですか?」

それでも彼女は、ぼんやりとした感じでカップの柄を玩んでいる。

「悠理?」

ほんの少し声のトーンを上げ、僕は彼女の名前を呼ぶ。

「悠理」

「・・・・・え?」

「気分でも悪いのですか?ぼんやりして。顔色も悪いですよ」
「ううん・・・ちょっと疲れたかな。久しぶりに泳いだんだ」
「普段は?魅録と一緒に泳いだりしない?」
「うん。あいつ忙しいから。今日は本当に久しぶりに泳いだんだ。来たくなってさ」
「泳ぐ時はここに?」
「そう」
「僕も時々ここに来るんですよ。一度も会った事がありませんね」
「うん。でも今日会えた」
「会えましたね」

そう言って微笑むと、悠理は不安そうに僕を見てから微笑み返した。
それからゆっくりとコーヒーカップを口まで運び、唇をつけてからちょっと首を傾げてそれを受け皿へと戻す。
カップに附着した口紅をそっと左手の親指で拭う。

僕はその仕草に驚く。
こんな女性らしい仕草を、彼女がするのだろうか。



「結婚指輪・・・」
「ん?」
「魅録との結婚指輪は?可憐のお店で買ったでしょ?」
「ああ、あれね」

彼女は無表情に自分の左手の薬指を見つめる。
そこにそれが存在していない事を当たり前のように。

「なくしちゃったんだ」
「なくした?魅録に怒られたな?」

悠理は面倒臭そうに顔を顰めて肩を竦ませる。



「そんなコトよりさ、清四郎。このホテルで休憩していこう」










彼女の誘いに、何故応じてしまったのか自分でも分からない。

彼女は、僕の親友と結婚しているのに。



悠理はシャワーの後、バスローブを纏ってダブルベッドに座る僕の前に来る。

「清四郎も浴びてくる?」
「ええ・・・・・あの、悠理」
「何?」
「今、僕達が何をしようとしているか分かっているのか?」

スッと目を細め、僕を試すように窺う。


「ずっと、望んでいた、だろ?」


その言葉を合図に、僕は彼女をベッドに押し倒し、その甘い香りのする肌を貪った。





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