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2015年03月

三月の雪

生徒会室の窓から見える校門までの並木道を眺めていて驚いた。
ちらりちらりと舞う白いものが、まるで桜の花びらかと思ったからだ。
まだ蕾になったばかりの桜が花びらを散らせるのか、と一瞬迷った。

違う・・・雪?

そう、雪。
三月も半ばに近づこうとしているのに珍しい。
僕は思わず窓を開け、手を外へと伸ばした。
掌に雪がふわりと落ちる。
顔に近づけようとしたけれど、すぐにそれは融け、小さな滴に変わった。
ふうっとため息が出る。
視線を上げると、その先によく知った後ろ姿を見つけた。校門の近く。
彼女は、僕の親友と歩いている。
以前とは違い落ち着いた感じで、まっすぐな一本の線の上を歩くみたいに。
彼とどこへ行くのだろう。
残りわずかな高校生活で、彼としっかりした思い出作りをするのかも知れない。
後悔がないように。

昨日も、同じように彼女を見かけた。
街中で、通りを挟んだ向こう側を彼女は一人で歩いていた。
やわらかなシフォンショートヘアからシンプルなショートヘアに髪を切り、今までとは違い、自分が希望した進路へと向かう意思が感じられた。
僕は、声をかけずにその場を過ごした。
声をかけるにはまだ、胸が痛いと感じ取れたからだ。
彼女だけではない。
僕も含めて皆それぞれの進路へと進む。
僕は医大。魅録は防衛大。野梨子と可憐は聖プレジデント大へ。
美童はスウェーデンへ一時帰国し、向こうの大学へ進む予定だ。
そして悠理は、バンクーバーへ語学留学する。
彼女のお兄さんがカナダに滞在中だからだろう。
野梨子と可憐以外は、バラバラになる訳だ。

傍にいて当たり前だったことが、失うことでその存在を知らしめた。

窓から彼女を追っている内に、一瞬にして吹雪になる。
ざらざらとした雪が、校庭を、並木道を、そして彼女と親友を冬へと引き戻す。
けれど季節は、確実に僕達を別れへと連れて行くのだろう。


「悠理が、語学留学するなんて驚きました」
「たまたまね、希望してみたら、あたしみたいな成績でも受け入れてくれる学校が見つかったんだ。ま、入学は誰でもできる。でも卒業はどうだろうね」


彼女はそう言って苦笑した。
でも普段の瞳とは違い、希望に満ちた明るさが宿っていた。


「淋しくなりますね」


僕の言葉に、今度は瞳を曇らせる。


「いつでも会えるさ」


言葉とは裏腹に、そうではないであろう現実を、僕も彼女も知っていた。


「そうですね。いつでも、どんな時でも、今まで通り一緒です」
「そうさ」


不安な表情のまま、俯く。
けれど“大丈夫だよ”と言いながら顔を上げ、僕の両肩に彼女の両手が置かれた時、間近に見えた彼女の瞳と表情は、春の空のように晴れやかな温かみを含んでいた。
吸い込まれるほどに瞳は澄んでいて、その向こうには僕の不安げな顔が映っていた。
その顔は、悠理に恋をしていた。

僕は、悠理に恋をしていた。

僕の肩に置かれた彼女の手は僕自身を包み、僕を守っていた。
きっと今までも、僕が彼女を守っていたのではなく、僕が彼女に守られていたのであろう。
そのことに気づいた時、窓の外は吹雪を忘れたかのように空は晴れ渡り、夕方の陽射しに溢れていた。
先程まで並木道を歩いていた二人はすっかりどこかへ行ってしまっている。
僕は軽いため息を吐き、生徒会室の窓を閉める。
振り返ると、時は普段通りに刻まれている。
けれどもう、この場所にメンバーが揃うことはないであろう。


いつか長い時間が経った後、彼女を昨日のように通りで見かけたら、僕は何と言って声をかけるのであろう。
その時、今と変わらぬ想いであるならば、僕はどんな言葉で彼女に伝えるのだろうか。


部屋には、最後の陽射しが名残惜しそうに漂っていた。






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ホワイトデーのおかえしに

学校から家に戻った夕方、魅録から連絡があって待ち合わさせ場所に来てみれば、やっぱり。
先月のバレンタインデーの、野梨子へのおかえし。
あたしは一応“女子”としての意見を述べる。
あちらこちらへと歩く。
なかなかあたしの意見は通らなかったけど(選ぶのが奇抜過ぎるって)、アジアンショップでやっと二人が合致する。

銀製のブックマーク。

二枚の葉を象って、ページを挟むようになっている。
あたしも欲しいなって思うほど、素敵なデザイン。
読書好きの野梨子へぴったり。


「これだな」
「これだね~」


おしゃれにラッピングしてもらってお店を出る。
それからちょっとお茶しよ~ってなって、ショッピングモールの一角のコーヒーショップに入った。
あたしは紅茶とケーキのセット。
魅録はホットコーヒー。シナモンスティックがついてるやつ。
目の前にあたしがいるのに、魅録ったら野梨子へのプレゼントに満足してるみたいにニヤニヤして落ち着きない。


「いつあげるの?明日?それとも14日の土曜日?」
「そうだな~。やっぱ14かな。雰囲気出るだろ」
「ふうん」
「悠理は?今年のバレンタイン、誰にやった?俺もらってないぞ」
「あっは。バレンタインはチョコをもらうもんだろ」
「そっか。お前の場合はそうだった。おかえしは用意しないの?」
「するかよ。とんでもない量だもん」
「まぁな~」


そしてあたし達はそれぞれの飲み物を飲んでコーヒーショップを出た。
外はすっかり日が暮れていた。
帰り際、魅録は立ち止まってあたしを見る。


「今日は、サンキュ。これ、付き合ってくれたおかえし」


あたしの手を取って、その掌に小さな袋をのせた。
さっき、野梨子へのおかえしを買ったお店の袋。
魅録はにっこり微笑んであたしにじゃあなって手を振ると、背中を向けて帰っていった。
魅録の後ろ姿を見送った後、掌の袋の中をそっと覗いてみる。
そこにはストラップが入っていた。
取り出してよく見ると、一枚の葉を象ったシルバーのストラップ。
あたしは大きなため息を一つ吐く。
こんな、野梨子とお揃いみたいなやつ、使えるかよ。
ジーンズのポケットにねじ入れて、あたしはブラブラ、夜の街を歩き始めた。
しばらく歩いていると見なれた後ろ姿。
背が高くて広くて、ガッチリ落ち着いた感じの。
両手にはおっきな紙袋にびっしり何かが入ってる。
後ろからこっそり覗いてみれば、綺麗な包みがいっぱい。


「わぁ、ホワイトデーのおかえしがいっぱい詰まってる~」


清四郎はびっくりして振り返る。
あたしは片手をあげた。


「悠理。やれやれ、嫌なところを見られたな」
「ナンでさー。ホワイトデーだろ、これ。って、こんなにもらったの?」
「僕だってけっこうもてるんですよ。ま、ほとんどが義理ですけどね」
「中には本気もあっただろ?」
「まあね。でもいちいち断るの面倒だから、気持ちありがとうって、ほんのおかえしですよ」


清四郎はあたしにも紙袋を持つのを手伝ってくれと言わんばかりに、小さめのを一つ差し出した。
仕方なく受け取って、あたし達は並んで歩き始めた。


「今日は?誰かと約束でしたか?」
「うん。でも、もう終わったの」
「そう」
「魅録がね、野梨子にホワイトデーのおかえしするの、何がいいか選ぶの手伝ってくれって」
「ほう・・・それは大変でしたね」
「そうでもないよ。あたし役立たずだから」
「で、何買ったの?」
「ナイショ。14日以降、すぐ分かるさ」
「ふうん。でも意外でしたね。野梨子が魅録に本気だったとは」


メンバーの女子達で決めたんだ。
今年は義理チョコ止めようって。貰った方も義理返しだからね。
あたしは本気なヤツなんていないし、可憐は新しくできた彼氏と過ごすって、チョコじゃない何かをあげるって。
野梨子は何も言ってなかったけど、バレンタインの日に、部室のみんなの前で、魅録に。


「悠理は大丈夫なの?」
「ナニが?」
「魅録取られちゃって平気なの?」
「・・・・・別にぃ。一緒に遊んでただけだもん。これからも変わんないよ」
「そうかな。きっと、そう言う訳にはいかなくなると思いますよ。二人が付き合っちゃえばね」
「へーきだよ」


結局、清四郎の家まで紙袋を持たされた。
ヘンな話ばっかすっから、荷物が重たく感じられた。
まるであたしが、魅録を好きみたいじゃんか・・・


「違うの?」
「友達としてなら好きさ、もちろん。それは清四郎も美童もおんなじ」
「そうかな?僕は悠理にとって魅録は、僕と美童とは違う好きだと思ってる」
「なんでさ・・・」
「僕は悠理の事、何でも知ってるんです」


あたしはこれ以上、答えられなかった。


「荷物を持ってくれたおかえしに、僕の家で夕飯をごちそうしますよ。
悠理の大好きな“すき焼き”、いいでしょ」
「悪いけど、いらない」
「どうして?お腹空いたでしょ?」


今日はたくさんなんだって言って、紙袋を清四郎に押し付けた。
それから翻って、走り出した。ちょっとカッコイイ感じに。
けど・・・すぐに清四郎が後ろから追いかけて来るのが分かった。
あたしは清四郎に捕まらないように走る。
風を切って、外灯の少ない、暗い住宅街を立ち止まらないように走る。
とにかく、動きを止めないように走る。
そうじゃないと、動きが止まっちゃうと、涙が溢れそうになっちゃうから。


「捕まえた!」


とうとう清四郎に腕を捕まれる。
それでもムリヤリ走っていると、清四郎が肩まで捕まえて、腕を回した。
あたしは走っていられなくって止まってしまった。
汗が次々に額やこめかみに流れる。
同時に涙が溢れて、頬に流れる。
次から次へと、目から頬に流れ落ちた。
清四郎はびっくりしたようにあたしを見つめ、それからギュッと強く抱き締めた。


「今日は偉かったね、悠理。よく頑張った。偉いぞ」


その言葉に涙は更に溢れ出て、声まであげて泣いてしまった。
清四郎はあたしの顔を自分の胸に押し付けて、髪の毛をグシャグシャに撫で付ける。
そんなことしたら、余計に泣けちゃうよ。
だからあたしは、遠慮しないで大声出して泣いた。
その間清四郎は、ずっとあたしを抱き締めていた。
清四郎は・・・汗と普段の香水と、大人の男の匂いがした。


「今はただ泣いて、すっきりするまで泣いて。そうしたら次やるべき事が必ず分かってくるさ」
「うっ・・・くっ・・・そ、そう、かな」
「そうですよ。今は確かに辛いでしょうけれど、それは悠理にしか分からない辛さでしょうけれど、でも、必ず越えられる。僕はそう信じてる」


しばらくそうして清四郎に抱かれていると、何だか落ち着いて来る。
あったかくて、優しくて、いい匂い。
魅録とは違う、安心感があった。


「清四郎、あんがと」
「どういたしまして。お腹、空いてきたでしょ」
「ん~、まぁね」
「少しは落ち着いた?」
「う~ん」
「こういう時は無理してでも、ご飯をしっかり食べた方がいい」
「うん」
「僕の家に戻って、一緒にすき焼きを食べよう」
「うん」


本当にお腹が空いてくる、こんな時でも単純なあたし。
また走って逃げると思っているのか、清四郎はあたしの手をしっかり握っている。


「お腹いっぱいご飯を食べて、楽しい事を考えるといい」
「楽しい事?」
「うん。楽しい事や面白かった事や、笑っちゃう出来事とか」
「あはは。そうだね。そうしようと思うだけで、心が何か軽くなってきた」


あれ?


「そう言えば、ホワイトデーのおかえしは?」
「あ、家の門の所に置きっぱなしだった!」


急にあたしを引っ張るように走り出す。
思わず、走りながら吹き出した。
そしたら清四郎も吹き出して、二人ゲラゲラ笑いながら走っていた。
こうしていると、いろんな事がただの通り過ぎるだけの記憶になってしまえそう。

それに清四郎、ホワイトデーのおかえしをあれこれ選んでる清四郎の姿を想像するだけで笑っちゃうよ。





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~monologue~

洗面所に行くと、誰かがシャワーを浴びていた。
見ると洗濯籠には清四郎のバスタオル。
シャワーを浴びているのは、清四郎だ。
あたしは気にせずに歯磨きを始める。
あいつの裸なんて興味ないし、浴室から出そうになったらここから出ちゃえばいい。
鏡に向かって歯を磨いていると、清四郎の声が聞こえてきた。


“緑を抜けると深い青があって その先には行けない

振り返ると空 横には森 もう戻ることはできない”


あたしはびっくりして浴室の折れ戸に耳を寄せる。
名前を呼ぼうとして、でも蛇口を閉める音がして急いでそこから出た。
台所で口をすすいでいると、後ろから野梨子が声をかけてきた。


「悠理ったらこんな所で歯磨きですの?」
「うん。清四郎がシャワーを浴びていたから」


あら、と言ってやかんに水を淹れる。
乾燥を防ぐために、リビングの丸い石油ストーブの上に置くんだろう。
こう言う気遣いは、野梨子だけだから。
何となく野梨子に続いてリビングに入ると、清四郎がさっきのタオルを肩にかけてソファにだらりと座っていた。


「さっきドア越しに浴室覗いてたでしょ?」
「んげぇっ!」
「エッチ」
「ば、バカ言え!何かしゃべってっから、自分に話しかけてんのかと思ったんだい」
「しゃべる?僕が?」
「ひとりごと、だったのか」


清四郎の横に座った野梨子が、くすくすと口に手を当てて笑う。


「そう、ひとりごと、ですわ。清四郎はシャワーの時、いつもですもの」
「いつも?」
「ええ。幼い頃から菊正宗家には出入りしていたでしょ。悠理みたいに知らないで洗面所に入ってしまった時とか、今でもこうしてコテージに来た時とか。
そう言う時に、清四郎のひとりごとが聞こえてきますの」
「僕は何て言ってるんですか?」
「内緒ですわ」
「教えて下さいよ」


野梨子はまた上品に笑う。
清四郎も楽しそうにしている。
あたしは二人のやり取りを見るのが辛くなった。
清四郎がいつもの清四郎じゃなくて、どこか遠くの知らない人に見えた。
野梨子も、清四郎側の人間に思える。
あたしは自然を装って、リビングを出た。
お手入れ中の可憐がいる部屋に戻るのもイヤだったし、春と言っても夜はまだまだ寒い外には出たくなかったから、しかたなくランドリールームに入った。
ここはとってもあったかいし、アイロンがけ用の椅子があって意外とゆったりスペース。
窓辺には一人がけ用のソファまである。
あたしはソファに後ろ向きに乗って窓の外を眺める。
でも外は真っ暗で、自分の吐く息で窓は真っ白になった。

あたしは白くなった窓ガラスに、さっきの清四郎のひとりごとを指先で書いてみる。


“緑を抜けると深い青があって その先には行けない

振り返ると空 横には森 もう戻ることはできない”


自分でも驚いちゃったけど、ちゃんと覚えている。
あたしって、すごい。
でもその文字は、すぐに消えた。


「何してるの?」


びっくりして振り返ると清四郎が立っていた。


「な、ナンでもない」
「うそ。窓に何か書いてたでしょ」


あたしは焦って背中で窓ガラスを隠したけど、文字はすっかり消えていたことを思い出してパッと体をよけた。


「ね?ナンにもな~い」


清四郎はイタズラっぽく笑って、一人がけのちっちゃなソファに乗っているあたしの横にムリヤリ入り込んできた。
そして窓ガラスに向かってはぁーっと息を吐いた。
あたしの下手くそな字が、白く曇ったガラスに浮いた。


“緑を抜けると深い青があって その先には行けない

振り返ると空 横には森 もう戻ることはできない”


「詩?有名な言葉?」
「ううん」
「じゃあ、何」


あたしが返事に困っていると、清四郎が察して振り返る。
でもスゴく接近していたから、清四郎の顔が間近で、頬が熱くなるのを感じた。


「ひとりごと」
「うん」
「僕の」
「うん」
「そうか。こんなことを言ってたんだ。野梨子が、いつも僕が同じこと言ってると、さっき」
「ふうん。どういう意味だろう」
「うーん。結構ネガティヴ」


思わず笑ったら、体がふらついた。
けど、清四郎があたしの背中に腕を回して支えてくれた。


「意味なんかないんじゃない?」
「そうかな。もしかしたら、僕なりに不安を抱えてるのかもしれない」
「ずっと?小さい頃から?」
「ん・・・あるいは、子供の頃に覚えた詩とか歌とか、かな」


あたし達はしばらく並んで、文字が消えたガラス窓を見つめていた。
こうしていると、さっきの空しさはなくなった。
ランドリールームと清四郎の温もりが気持ちよかった。


「意味なんか分かんなくたっていいと思うよ」
「どうして?」
「きっとあれは、清四郎の素直な思いなんだ。そしてそれは、いろんな形で、みんな持ってるんだと思う」
「そう、そうですね。悠理の言う通りだと僕も思います」
「完璧な人間なんていないよ。完璧さを目指すのはいいけどさ」


清四郎はあたしに顔を更に近づけて、目を覗き込む。
今度は耳まで熱くなるのを感じる。


「今日の悠理は、先生みたいだ」


そう言った途端、二人で吹き出した。

リビングから、野梨子がお茶が入ったと呼ぶ声が聞こえた。





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