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2015年12月

恋の理由

最近の彼女はちょっと違う。
ちょっとって言うのは・・・普段と微妙に何かが違うと言う意味。
例えば、僕がからかったとして、いつもならそれにのって怒った振りをする。
冗談にはゲラゲラ笑い、皮肉には眉をひそめる。
つまり僕の言動にちゃんと反応してくれる。
けれど最近の彼女は、僕の言動をまともに、真正面に受け入れる。
例えば僕のからかいには、はにかむ。
冗談には微笑み、皮肉には肩を竦める・・・そんな感じ。

学期末の生徒会室の大掃除。
彼女はベランダでモップを抱えて遠くを見ている。
何かを熱心に見つめているのでなく、ぼんやり遠くを眺めている感じ。

「どうしたの?疲れたの?」

僕は訊ねる。

「ううん。遠くの空を眺めているだけ」
「遠くの空はどうなってるの?何か不思議なものでも飛んでるんですか?」
「あはは、まさかー。遠くの空、ちょっと向こうが赤くなってる感じ。だからもしかしたら雪でも降るのかなーって思ってたとこ」

彼女が望む視線は、ちょっとだけ希望を含んでいるように見える。
そしてその先には・・・

「どこ?」

僕はその先を探す。

「ほら、向こうの。ずっとあっちの方」

彼女は親切にも僕に顔を寄せるようにして空の向こうへ人差し指を掲げる。

「ああ、あそこ」
「ね、ちょっとだけ赤いでしょ?あっちの方で、雪が降るんだよ、きっと」
「雪が降る夜にはよく空が赤くなるって言うけれど、夕方から降るのかも知れませんね」
「どうして雪が降る夜は空が赤くなるの?」

僕達は姿勢を戻し、互いに向かい合う。

「実はロマンティックでも何でもないようですよ」
「うん?」
「雪雲は高度が低いので地上の光が反射されることと、降ってくる雪そのものも、地上の光を反射するんですよ。
だから大雪の夜に、外が明るいことって意外とあるようですよ」
「なーんだ」
「せっかくのところ、ごめんなさい」
「いいよ。だって清四郎だもん」
「あはは・・・」

調子狂うよね。そこで突っ込んでくれないと。

「ふ~ん」

僕は、ついため息を吐く。
彼女をこうしてしまったのは何なんだろう?

彼女はモップをベランダの壁に立て掛ける。
そして両手を手すりに置いて、はにかむようにして僕を振り返った。

「最近ね、こんな、ちょっとしたことが気になるんだ」
「どんな?」
「例えばさー、例えば、どうして空はどこまでも広くて、海は青いのかなぁとか」

僕がびっくりして見つめると、今度は照れくさそうにして目を逸らす。
ちょっとどころではなく、大分、彼女は変わってしまったのだ。

「証明するのが難しいことが気になる?」
「うん。そんな感じ」
「悠理はどうしていつもテストが赤点なのでしょう?」
「ばっ!それは、勉強しないから」
「遅刻するのは?」
「夜遊びするから寝坊するの!!そうじゃなくて~」
「じゃあ、どうして最近の悠理は素直なの?」
「・・・・・」

一瞬だけ目が合って、でもまたすぐに逸らされた。
そして顔から首まで真っ赤にしている。

「どうして僕のからかいや冗談を許すの?」

多分、原因は・・・

「綺麗なものを綺麗と素直に受け入れられる。悲しい時は共感し、一緒に涙を流す・・・
今の悠理ってそんな感じだよね、きっと」

それって、もしかしたら・・・不器用な僕だって推測できるぞ・・・

僕は悠理の肩に優しく触れ、両肩に自分の両手を置く。
そして真正面から彼女を見つめた。
彼女は目を泳がせるようにしながら僕を見ている。

「それって、悠理。もしかしたら、誰かに恋してるの?」

直で訊いたら、彼女はまた顔から首まで真っ赤にし、大きな目から涙をポロポロ流した。

「ば、ば、ばかぁ~っ!!」

僕の両手を払い、彼女は翻ってベランダから走り去る。
その衝撃で、さっき彼女が立て掛けたモップが倒れて僕の背中を直撃した。
去り際に、彼女は大声で“清四郎は何も分かっていない!”と叫んだのは、どういう意味だろう?

女の子って、ほんと、分からない。
これこそ証明できないことなんじゃないかな。

悠理が誰かに恋してる・・・

でもその事実が、僕の胸に鈍い痛みを与える。
これも証明できない痛み・・・?

今は、しょうがない。
冬休みの、二人の宿題にしましょうか。

さっそく明日から、悠理と取り組もうと決めた僕だった。





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クリスマスの次の日

二学期の期末テスト、五教科赤点だった悠理の補習授業を逃れさせるために、僕は冬休み初日の土曜日に彼女を家に呼び出した。
来週から年末までの数日間、学校でびっしり補習を行うようにと担任に仰せ付けられたのだ。
けれど月曜日の追試で赤点がなければ、授業への参加は免除になるらしい。
ところが悠理ときたら、追試も補習も僕の厚意も勘弁してくれと言う。
だから僕は、自宅で家族とささやかに行われたクリスマスパーティの“余った”ケーキで釣ってみた。
案の定、彼女は簡単に釣られた。

「じゃ、まずケーキから」

教科書をトートバッグから出すこともしないで、僕の部屋に入るなり、ベッドにどかりと座って悠理はそう言った。

「だめだめ。まずは数学から。一時間集中して勉強できたら(余った)ケーキにします」
「え~っ!そのために来たんじゃん!」

何だかんだ言いながらも僕に捕らえられた彼女は、ぎっちり一時間数学の勉強をさせられた。
基本から応用まで、頭の中に入れるだけ入れる。

「ふぇ~。もうダメ。ケーキ以外、なんにも入んない。清四郎~」
「はいはい。分かった、分かった。ただ今お持ち致します」
「頼むよ~。約束~」

勉強を教えてやっているのに何だか偉そうだなぁと思いながらも、僕はキッチンに降りてコーヒーを作ってケーキを切る。
実は本当は、イヴとクリスマスを彼氏と過ごした姉貴の分のケーキ。
残してあるよ、と今朝伝えたのだが、

「いらない。二日間続けて鳥とケーキを食べちゃったから、もうたくさん」

と姉貴に言われたのだった。
トレーに二人分のコーヒーと、悠理のために切ったケーキを載せて部屋に戻る。
そうして“余った”ケーキの理由について彼女に述べた。

「へ?まじ?和子ねーちゃんの分か」
「でも食べないって。親父も僕も一回食べれば充分だし、おふくろはダイエット中だから」
「でも、いらない。あればきっと食べるかもよ」
「食べないから。悠理が食べて下さいよ。そのために呼んだようなもんです」
「悪いよ・・・」
「そんなこと。それにこんなこと、ですよ。ケーキくらい、でしょう?どうせ誰も食べないし、余って捨てちゃうくらいなら、悠理に食べて欲しいくらい・・・余り物で悪いけど」

そう、こんな“余った”ケーキごときで、なんだ、悠理。
普段の彼女はどこへやら、辛気くさい感じでケーキを食べている。
なんだ、“余った”ケーキに釣られ、喜んで食べてくれると思ったのに。
喜んだ、彼女の顔が見たかったのに。

「美味しくない?駅前の老舗の洋菓子店で、昔っから、家では何かの記念日にはここでケーキを作ってもらうんですよ」
「美味しいよ、とっても。でも、そんな家族のためのケーキを。ごめんね」
「え・・・そんな・・・」

なんだー、って思ってしまう。
どうした?悠理。お前らしくない。
「どこにも足りないよーっ!」って言われたら、それ用に買っておいたシュークリームもちゃんと用意してたのに。
彼女は「いらない」って言って、後の勉強もしんみりとしていた。
結局ケーキの後二時間勉強して、魅録がバイクで迎えに来た。

「今日は帰る。悪いな清四郎」
「いいえ。お土産にシュークリームを持っていかない?魅録と後で食べればいい」
「ううん、本当にいらない」

ふうん・・・女の子ってワカンナイ。
バイバイって二人に手を振って、そして颯爽と行ってしまった。

きっと誰かのための残り物じゃなくって、ただの残り物だったら喜んで食べたのかも知れないな、なんて思う。
でもそんな、変なところで気にする彼女が好きだって思えるから、いいや。

しばらくして悠理からメールが届く。

“ケーキと勉強をありがとね。
また、あした。今日と同じ時間に行くから。
ケーキ、とっても美味しかったよ”

何となくさっきから、悠理が遠くの手の届かないところに行ってしまったように思えて淋しかった。実のところ・・・
でもこのメールで、そんなことあるワケないって確信する。
今日の僕って、ちょっと変だ。

もしかしたら、“恋する男子”になってしまったのかも!
でもねぇ、彼女との恋は、すんなり行かなそう。
ま、そこが楽しいところでもあるんだけどね。

明日、また悠理の笑顔に会えるなら、まずはそれが小さな幸せってとこですか。

僕は携帯電話をそっとテーブルの上に置いた。





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去年のクリスマス

放課後の生徒会室で雑務を終えると、窓の外は完全な暗闇になっていた。
まだ夕方の六時位なのであろうけれど、この季節に夕陽を見れることは少ない。
僕はパソコンの電源を切り、エアコンのスイッチも切る。
鞄に文房具を詰め込んで、それからドアの前で振り返り、室内をもう一度確認すると部屋の電気も消して鍵をかけた。
通学路は学校周辺と違ってとても明るく、賑やかだ。
通りはイルミネーションで飾り立てられ、年末商戦に向かっている。
この時季は、お決まりの曲がどこでもランダムに流れる。
聞きなれた、クリスマスソング。
そして誰もが、必ず甦る思い出があるはずだ。
僕にだって。
そう、僕にだって、あるんだから。
大きなショウウィンドウの前まで来ると、胸がぎゅっと締め付けられるような痛みが走る。
ああ、この曲。この曲が流れる度に、僕は心が締め付けられる。

“去年のクリスマス 僕は君に想いを伝えた
でも君はすぐ次の日に その想いを手放した”

有名な曲。クリスマスには欠かせない歌。
「Wham   Last Christmas」
古い歌だけど、みんなが知っている。
別に僕の思い出と重ね合わせる訳ではないけれど・・・でもね。

去年のクリスマス、僕にとっても苦い思い出があった。

そのクリスマスの日、昼過ぎから剣菱邸でクリスマスのパーティー準備が行われていた。
と言っても、会場となるちょっとした広間を利用しての飾り付け。
料理は剣菱で用意されるから、本当にツリーと壁への飾り付けのみ。
ランダムに入っているクリスマスソングをかけながら、僕は脚立に乗って壁際のツリーの上部にモールと雪代わりの綿をバランス良く飾る。
悠理は真ん中辺りにオーナメントを取り付けていた。
近くで魅録がライトを広げていて、可憐と野梨子、そして美童がみんなのプレゼントをソファに並べていた。
それぞれの仕事をこなしていた時、僕がモールの端を誤って悠理の頭の上に落としてしまい、彼女はふざけて引っ張り出した。

「危ないから止めてくださいよ!ちょっと、早くその端をよこして」
「ヤダよ~!」

そうしてしばらく、上の僕と下の悠理とでモールの引っ張り合いしていたが、埒が明かないので、彼女を驚かせようと僕は脚立から飛び降りた。

「ぎゃっ!!」

案の定、彼女は驚いて背中を壁に沿うようにしながら座り込み、僕は彼女に覆い被さるように降りてしゃがんだ。

「こら!早く端をよこせ」

悪ふざけの延長で顔を近付けて脅すと、彼女は頬から耳まで赤くして僕を凝視している。
僕はそんな彼女をとても愛らしく思い、また閉じ込めてしまいたい気持ちになった。

僕だけの・・・悠理にしてしまいたいと、心から願った・・・

大きな目を更に見開いて僕を見つめる彼女に、また少し顔を近付ける。
周りのメンバーは誰も気付いていない。
天井まで届くような巨大なツリーは、本物のもみの木の枝葉のようにゆったりしていて、重なるようにいる僕達を完全に皆の目から隠していた。
僕は笑顔を取り払い、悠理を真剣に見つめる。
彼女もそれに気付き、一瞬だけ普段の瞳の色に戻すと、長い睫毛で塞いだ。
それを合図と受け取り、僕は片手を壁に、もう片手を彼女の小さな手に重ねて、そして唇も重ねた。
クリスマスソングはもう聴こえてこない。
初めて交わした口づけは、悠理がおやつに食べていたチョコレートの味がした。
甘くて、温かくて、忘れられない味・・・

後方で誰かが大きな音を立てて何かを落とした。
それと同時にクリスマスソングがまた耳に流れる。

“心を込めて君にプレゼントを贈った
「I Love You」ってメッセージを添えて
僕の想いを伝えたくて”

「Wham」は、そう歌っていたのを覚えている。

その後のパーティでは、普段と大きな変化はなかったけれど、僕は彼女に対して特別な繋がりを感じていた。
そしてもちろん、彼女もそうだと信じていた。
でも次の日も、その次の日も、彼女は普段と変わらない距離で接していた。
僕はそんな彼女を不思議に思い、どうにかして想いを訊きたかったけれど、彼女は完全に僕を(その事については)避けていた。
最初は信じられなかったけれど、月日は僕に彼女の答えを与えた。
きっと・・・僕の想いを受け取ることはできない、と言うことなのだ。
彼女の愛らしい表情も、想いを寄せるように見えた瞳も、もう僕は信じられない。
本当に、信じられない。信じない。
それなのに彼女ときたら、僕が距離を置こうとすると、無邪気になついてきてその意思を退ける。
一体どういうつもりなの?僕をからかっているの?
子供のような笑顔を向けられると、僕はまた彼女を信じてしまいそうになる。

通りのショウウィンドウの前で、僕はそうして過ごしてきた一年を振り返る。
彼女を信じそうになる自分を信じられない、そんな思いで首を何度か左右に振って見せる。
今年はメンバーとのクリスマスを避けて、ESP研究会の誰かと過ごそうと考える。
誰でもいい。
クリスマスが終わるまで、僕と時間を潰してくれる誰か。
その時だけの相手。
でも、そんな僕の意思を覆すように、携帯電話は相手の受信メロディを伝える。

“今年のクリスマスの件だけど”と、タイトル。

“可憐と美童は、それぞれの相手と過ごすんだって。
魅録は千秋さんと時宗のおっちゃんとスパに行くって。
野梨子はお茶会と重なったって。
ねぇ、清四郎は?予定あるの?
予定があるなら、あたし、父ちゃんと母ちゃんにどっか連れてってもらおうかと思ってんだけど・・・”と本文が続く。

僕の独り善がりかも知れないけれど・・・
僕にクリスマスの予定がなければ、僕と過ごしても良いってこと?
二人だけのクリスマスを送ろうってことなの?

イルミネーションで昼間のように明るいショウウィンドウは、うっすらと僕の姿を映し出してる。
そしてその顔は、嬉しそうに微笑んでいる。
周りを歩く人々は、そんな僕など気にも止めていない。
「Wham」はまだクリスマスソングの続きを歌っている。
「Last Christmas」を最後の最後まで聴くのは初めてだ。

“ああ今 僕は本物の愛を見つけたよ
だからもう 馬鹿は見ない”

去年のクリスマス、想いを伝えた彼は、彼女自身にそれを引き裂かれた。
だから彼は、今年こそ特別な誰か、他の女の子とクリスマスを過ごそうとしている。
でもどんなに彼女への想いを逸らそうとしても、特別な人は・・・
彼女しかいないって知るんだ。

メールで文字を追うよりも、最短で答えを伝えたい。
悠理の声が聴きたい。
僕は携帯電話を彼女へと繋ぐ。
三回目のコールで、彼女は電話に出た。

「もしもし、清四郎?メール読んだ?」
「読んだ。いいよ、僕はクリスマスはみんなと過ごすものだと思っていたから、特別な予定は入れないでいたんだ」
「そうだよね。あたしもそう思って予定を組んでいたのに。ま、しようがないけどさー」
「さて、どうします?二人でディナーにします?どこもレストランは予約でいっぱいだと思いますがね」
「レストランなんて、どうにでもなるよ。どこがいい?」
「そうだな・・・ねぇ、悠理、今から会える?せっかくだからいろいろ歩いて決めたいです」
「いいよ。どこに行けばいい?」

僕の声は弾む。
彼女の声も、何だか嬉しそうに聴こえる。
この一年は、僕のただの勘違いだったのだろうか?
悠理も、本当は機会を待っていただけなのだろうか?
あるいは・・・メンバー思いの彼女だもの、僕達によって、倶楽部の関係が崩れるのを恐れていたのかも知れない・・・
でもクリスマスの特別な日、突然与えられた二人だけの時間を悠理は僕と過ごすことを望んでいる。
全ては、僕の思い違いだった・・・?

「Wham」は最後にこう歌う。

“クリスマスは僕と一緒にいてくれるね
その日だけでも僕を愛して欲しい
僕にとって 君こそが特別な人なんだから”

恋を失って終わる歌ではなかった。
「Last Christmas」は、特別な、本望の人を知る歌だった。
だから僕は、その歌の通りに、クリスマスには悠理へ想いを告げようと誓った。





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イヴの小さな出来事

塞がっている両手を工夫してドアレヴァーを下げ、足でドアを押し開ける。
室内は仄かなスタンドライトの明かりと、アロマの香り。
悠理はベッド近くまで静かに歩み寄り、野梨子の名を呼んだ。
浅い眠りだったのか、野梨子はゆっくり瞼を上げた。

「悠理」
「どう?調子」
「大分良くなりましたわ。清四郎が持ってきていた薬と、悠理の気遣いで」

そう言って悠理に微笑みかける。

「ほら、これ。食べる?」
「まあ、何ですの?ほんのり美味しそうな匂い」
「ミルク粥を作ってきた。黒砂糖を少し入れて、甘くてウマイよ」
「悠理が作りましたの?」
「うん、可憐に教わった。オートミールで簡単に作れた。インスタントラーメンより簡単だった。後、ハーブティ」
「食べたいですわ。お腹が空いているくらいだから、風邪が治りかけているんですのね」

悠理から木製のトレーを受け取ると、それをブランケットの上に置いた。

「トレーもお皿もお匙も木製で、可愛らしいですこと。温まりますわ」
「うん。これで山小屋だったらサイコーだぁ」
「絵本の世界みたい」

そして野梨子は、何度も美味しい美味しいと言ってミルク粥を全部食べ、ハーブティを食後に飲んだ。
近くに椅子を寄せて座っていた悠理は、ずっとニコニコしている。

「野梨子が元気になって良かった~!」
「ええ、悠理のおかげ。でもまさか、クリスマスイヴにこんな事になるなんて。ちょっと風邪気味ではありましたけど・・・」

冬休みを利用して、剣菱が所有する郊外の別荘でメンバーとクリスマスを祝いに来ていた。
パーティの準備や買い物の担当を決めて活動をしようとした矢先、野梨子が急に熱を出した。
清四郎が風邪と判断し、持参していた風邪薬を飲ませ、寝室のベッドで休ませた。
熱がまた少し上がったが、解熱剤で熱と体の痛みが収まり、ぐっすり眠ったことで落ち着いたようだった。

「パーティはどうでしたの?楽しかった?」
「うん・・・でもみんな、野梨子がいないからイマイチ盛り上がらないねって。やっぱ全員揃わないとダメだ」
「まあ。でも、私は二階のお部屋にいますもの。揃っているようなものですわ」
「でもさー、違うんだよ。野梨子のミートパイも食べられなかったし、ツマンナイヨ」
「悠理、ありがとう。とっても嬉しいですわ」
「本当の気持ち。みんなそう思ってる」
「すごく幸せ」
「うん。それに野梨子がいないと、あたしの仕事が増えちゃって大変だったぞ」

悠理はトレーを近くのテーブルに下げ、リラックスしたように椅子に座り直した。

「あら、それは何故?」
「結局あたしも買い出しだけじゃなくて掃除や後片付けや、全部、ぜぇ~んぶ手伝わされたんだから~」
「おほほ。それはお気の毒様。でも可憐は助かったと思いますわよ」
「男って、あれで雑なんだよ!言うこと聞かないし邪魔はするし」
「あれでって?誰のことですの?魅録?美童?それとも・・・」

野梨子が幼馴染みの名前を口にしようとして、けれどもそれを言わなくても、きっと話してくれると思った。
悠理は今、耳まで赤くして唇を尖らせている。
彼女の話は多少前後が違っていても、明確に想像ができた。

いつもなら、野梨子が綺麗に掃除してくれるフローリングやバスルームを悠理が担当させられた。
たまたまバスルームのドアのラッチが壊れかけていて魅録に見てもらったが、道具が充分でないため直すのは諦めた。
乱暴にドアを扱うと鍵が勝手にかかってしまうため、次の利用者が使えないと言うのに、美童以外、魅録や清四郎が使用した後は鍵がかかっていることが多かった。

「清四郎って意外と乱暴だな!何回もドアは優しく閉めろって言ってんのに、また鍵が勝手にかかってる。魅録なら分かるけどさー」
「どういう意味だよ。でも男ってそうだよ、悠理。言われた時だけ、注意するの。すぐに忘れちゃうんだから」

鍵がかかってしまったドアを直しながら、魅録は言う。

「清四郎だってああ見えてけっこう雑なとこ多いよ。品行方正な振りした、ただの男だよ」

けれどその魅録の言葉が、悠理の胸を貫いたのを、話に耳を傾けていた野梨子には分かった。

それに、こんなこともあった。
料理だけはムリだと言い張った悠理と魅録に代わって、美童が包丁を持ったが、不注意から指を切ってしまった。
もう包丁は怖くて持てないと言う美童の更なる代わりに、料理担当は可憐と清四郎になった。
こだわり過ぎて時間がかかる清四郎にメンバーのブーイングが飛んだが、悠理に味見を頼むとびっくりするくらい美味しい。
きのこのシチューも、ローストビーフも。

「うま~い!清四郎、天才だよっ!可憐や野梨子の手料理もうまいけど、清四郎のは男のこだわりって感じがするよ」
「そうでしょう。美味しいでしょう」

いつになく嬉しそうな清四郎を見て、悠理はおかしくなる。
そんな清四郎は、料理の手を止めて悠理を見つめる。

「デザートのケーキも焼いちゃおうかな。可憐に代わって」
「あはは。それはムリだよ!可憐は気合い入れてたもん。それにさっきまで、料理なんて、胃に入れちゃえばおんなじでしょって言ってたの、誰だよ!」
「悠理、男って、単純なの。可愛いんですよ。女の子に褒められると、やる気スイッチが入っちゃう」
「女の子・・・?」
「そう、女の子。悠理は女の子でしょ、ちゃんとした。野梨子に代わって、充分な働きをしました」
「そ、それは、清四郎がちゃんとしないで雑にばっかするから!ゴミだって、燃えるのも燃えないのも一緒だったぞ!」
「ま、それだけ悠理が神経使って頑張ってるって証拠です。良かったじゃないですか。花嫁修業ができて」
「ば、ばかやろーっ!!!」

ほほほ、と野梨子は笑う。
悠理の、困ったようでいて嬉しそうに話す姿が微笑ましい。
今回の自分の風邪が引き金に、空回りばかりしていた親友達がちょっと進展しそうで嬉しくなる。
互いが、もっと意識してくれれば良いのだけれど。
まあ、これからも見守り続けなければ・・・そう野梨子は思う。

悠理の話が終わる頃、部屋のドアがノックされる。
どうぞ、と伝えると、魅録が顔を出した。

「どうだ?調子」
「悠理のおかげで大分良くなりましたわ。明日には熱も完全に下がりそうです」
「そりゃあ、良かった。悠理、頑張ったもんな」

部屋へ入り、二人の傍に立つ。
魅録の言葉に、悠理はにっこり微笑んだ。

「うん!」

それから手にしていた物を、彼は野梨子へ差し出した。

「まあ、これ、素敵!」

見ればそれは、小さなクリスマスツリー。
スイッチを入れれば、内側からライトアップされる。

「わぁ、キレイだな~。魅録が作ったの?」
「ああ。カワイイだろ」
「ええ、とっても」
「少しでも野梨子に、クリスマス気分を味わって欲しくてね」
「嬉しいですわ、魅録」

悠理は二人を察して席を立つ。

「じゃ、ちょっとこのトレー、片付けてくるね」

ドア越しに、野梨子は言う。

「ありがとう、悠理。素敵なイヴを、本当に」
「うん。おやすみ、野梨子。メリークリスマス」
「メリークリスマス。おやすみなさい」

悠理は、静かにドアを閉めた。


階下のキッチンに戻ると、清四郎がダイニングのカウンターの前に立っている。

「お疲れさま」
「清四郎・・・」
「野梨子は、落ち着きましたか?」
「うん。あたしが作ったミルク粥を美味しいって、全部食べてくれた。
少しお話しして、今は魅録と話してる」
「そうですか、良かった。今ね、悠理のためにコーヒーを作っていたんです」
「ありがと」
「悠理も今回は頑張りましたね」
「魅録にも褒められた。でも、いつも頑張ってるんだけどなぁ~」
「あはは!それは失礼。いつも以上に頑張りました」
「うん!楽しかったね。野梨子、明日には熱も下がりそうって。帰る前に、ちょっとクリスマスっぽいことまたやろうよ!」
「良いですね。僕が朝からケーキを焼きましょう」
「今度こそ?」
「ええ。今度こそ」

清四郎は悠理へ、マグカップいっぱいのコーヒーを注いで手渡した。

「ありがと。いい香り~。コーヒーを淹れるのもうまいんだ、清四郎」
「悠理って、褒め上手なんですね。そういう女性を妻にすると、男は出世しますよ」
「え・・・?や、やだ~。照れるじゃんか」
「ほら、男って、女性に褒められるとやる気モードになりますからね」
「清四郎も?」
「もちろん、僕も。カワイイもんでしょ?」
「うん。カワイイ」
「好きになった?」
「あはは!ずっと前から好きだよ」

互いが発してしまった言葉に、思わず照れて視線を逸らす。
清四郎はカウンター横の小さな窓のカフェカーテンを引き、ガラスに顔を寄せる。

「おや、雪のようですよ」
「え?ほんと?」

悠理も近寄って一緒に窓に顔を寄せた。

「ほんとだ~、雪・・・ねぇ、積もるかな」
「どうでしょうね。積もるまではないかもね」

二人で雪が舞う夜空を眺める。
ガラス越しの冷気が伝わるが、互いを感じる温もりの方が強い。

「ハッピークリスマス、悠理」

清四郎を振り向くと、すぐ近くに笑顔が見える。
悠理は嬉しくなってそれに答える。

「ハッピークリスマス!清四郎、ありがと」

そして二人は同時に願う。

来年は・・・二人でクリスマスを迎えられますように、と・・・





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