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2016年06月

その手があるなら

今回の作品はメンタルヘルス的な要素があります。
そのようなお話が苦手な方はお引き取り下さい。
読後の苦情は受け付けません。





あたしは今、事情があってある施設に入所している。
理由は分からない。
自覚症状なんてそんなにないのに家族が、「一時的なんだから、休むような気持ちで入っておいで」と言った。
豊作兄貴が言うには、「いわゆる思春期のあれだよ」って。
「思春期のあれ」ってなんだよ!って思う。
ここに来るまではすごくイヤな気持ちだったけど、入所してみれば結構いい感じの場所。
田舎だけど緑がいっぱいで空気がおいしくて、のんびりしてる。
施設の食事もまぁまぁだし、おやつには時々ケーキも出る。
入所者だって何も特別な人はいない。
同じくらいの子がけっこういて、まるで部活の合宿みたいだ。
ロビーでおしゃべりを楽しんでいる子もいれば、図書室で本を一日中読んでる子、体育館で体操をする子、部屋で自由に過ごす子もいる。
外出こそ許可が必要だけれど、後は一日、どのように過ごしてもあまり問題はない。
起床、就寝、食事時間を最低限守れば大丈夫。
みんな、あまり不満なんかないように思える。
あたしも・・・ここに来て一週間経つけど・・・まぁ、不足する物はないかな・・・必要な物は親に連絡すれば届けてくれるしね。
ただ、まだちょっと人に慣れないかな。
だから人が集まる時間は苦手。
食事時間やスタッフのお話を聞くために集まらなきゃいけない時は憂鬱。
時間をずらしてもらったり、理由を言って部屋にいたりする。
だってムリして行くと、呼吸が苦しくなったり体が動かなくなったりするから・・・
部屋は個室でゆったりしているけれど、一日中部屋にいるのも息苦しいから、あたしは広々とした施設内や庭を散歩するのを日課にしている。

今日は入所から最初の日曜日、清四郎と野梨子が遊びに来てくれた。
雨の匂いがする午後で、今にも雨を降らせそうな雨雲が空を覆っていたから、あたしは施設内を散歩していた。
その時にスタッフに呼ばれたんだ。



二人はまるで両親のように心配そうな顔であたしを見ている。
野梨子なんて真っ青で、どっちが体調を崩してるんだか分かんない感じ。
スタッフに部屋での面会にするかと訊かれたけど、ちょうど喉も渇いていたから食堂に通してもらった。

「水分だけは、食事時間以外でも取っていいんだ」

でもノンカフェインの飲み物。
お薬を必要としている人もいるからね。

「思ったより元気そう。悪くない感じ」
「どこも悪くないよ!自分ではどこもさ」
「そうですわね。ちょっとだけ無理されたんだと思いますわ」
「別にムリなんて」
「ほら、苦手なテスト勉強とか家庭科の実技の補習とか」
「アホか。そんなんでこんなトコ入るか!」
「あはは。まぁね。でもそんな日々の生活が“きっかけ”になってしまったんでしょ」

困ったような野梨子が、厨房のカウンターへ向かう。
オーダーしていたハーブティができたから。

「“きっかけ”って?」
「悠理本人や僕ら周りの人間も気が付かない内に、ちょっと内面の部分が疲れ過ぎていたんだと思います。少しずつ蓄積した疲れが、テストやら補習やらをきっかけにドーンと来たってこと」
「それで、ここ?」
「いやね、端から見ていても疲労が増していましたよ。だって学校を休むほどだったでしょ?」
「ふ~ん」

野梨子がハーブティの入ったカップをテーブルに並べる。
三人分。
あたしのと、向かって二人分。

「どんな感じだったの?」
「清四郎、お止めになったら?」

野梨子が清四郎の質問を咎める。
二人は夫婦のようなやり取りをしている。
似たような顔付きで、顔を見合わせたりしている。

「今はまだ話したくない。先生にも詳しい感じは言ってないもん」
「そう。いいですよ、別に。薬は?」
「清四郎ったら・・・」
「一応、出てる。名前は分かんない。不安を取り除くやつって言ってた。まだ飲んでないけど」
「飲まなくて、大丈夫ですの?」
「無理して飲まなくてもいいって、先生が言ってた。必要に思ったら飲みなさいって。少しは楽になるけど、それを飲んだからと言って治るもんでもないって」
「そうですの。難しいんですのね」
「悠理が嫌なら止めましょう。でも同じような質問を医者にも訊かれたでしょ?」
「うん」
「でも気分が乗らないなら言わなくていいよ」

それから会話が途切れて、三人は無言でハーブティを飲んだ。

「そうですわ。今度、魅録達も来るって言ってましたわ」
「魅録・・・」
「一番に心配してますのよ。本当は今日も来たがってたんですけど、初めての場所ですし、悠理の症状もまだちゃんと伝わっていなかったから。だから私達が最初にお見舞いに来ましたの」
「僕だって一番に悠理を心配してますよ」
「あら、それなら私だって。誰にも負けませんわ」

少しだけ張り詰めていた空気が和む。
その時、施設のスタッフが近付いた。

「悠理さんの現在の症状をお伝えしたいと思います。どなた一人、先生からの説明を聴いていただきたいのですが。悠理さんのお家の方からは許可をいただいていますので」

清四郎と野梨子がまた顔を見合わせる。

「野梨子が聴いておいで。僕は悠理といるから」
「良いんですの?清四郎、とても気にかけていらっしゃってよ」
「僕は悠理本人と話がしたいから。野梨子、お願いできますか?」
「良いですわ。では、失礼しますわね、悠理」

あたしは、うん、と言おうとして言葉が詰まるのが分かる。
ちょっとだけ胸が苦しくなって脇の下に嫌な汗をかく。

「大丈夫?」

野梨子の背中を見送っているかと思っていた清四郎が、あたしを心配そうに見つめていた。

「平気」
「部屋に戻る?」
「大丈夫、ありがとう」

あたしはちょっとだけ清四郎を見て、目を逸らした。
清四郎の目を見るのに抵抗を感じるから。
何か、見透かされているような気がするから。
けれど清四郎には、今、傍にいて欲しいと思う。
何か訊かれても、答えられそうな気がする。
まるでそれを察するように、清四郎はテーブルの上に放置したままだったあたしの右手に軽く触れ、自分の掌に載せた。

「僕がこうしても嫌な気がしない?」
「うん」
「じゃあ、こうしていよう。いくつか質問しても大丈夫?」
「うん」
「答えたくない質問には答えなくてもいい」
「分かった」

それから言ったようにいくつか質問される。
クラスはどうとか、人混みはどうとか、メンバーといるのはどうとか・・・
その間清四郎は、あたしの手を軽く握ったり、振ってみたりしていた。

「とにかく今は、人がイヤ。メンバーや家族なら何とかだけど、できれば独りでいたいんだ」
「分かるよ。そういう時ってあるよね」
「だからクラスに行くのは苦痛。信じてもらえないかも知れないけど、親しげにクラスメイトが触れてくるのもイヤ」
「そうか。僕がこうしてるのは?」
「清四郎はいいよ」
「良かった。じゃあもう少しこうしていよう」
「うん。清四郎がこうしていると、何だか安心する」
「じゃあ、帰るまでこうしていよう」
「うん。実はね、ここにいる連中もイヤ。個人がイヤなんじゃなくて、会いたくないんだ」
「では食事とか入浴とかはどうしてるの?」
「頑張れる時は同じ時間を過ごすよ。話とかはしないけど。ダメな時は時間をずらしてもらう」
「リハビリテーションやオリエンテーションは?」
「基本は参加しない。ワガママって言われるかも知れないけど、自分の部屋でリハビリしたりオリエンテーションの報告を受けたりしてる」
「部屋は個室?」
「うん。あたしはね。他にも個室の子もいれば、そうじゃない子も。でも部屋にはトイレやシャワーはない。ドアには鍵もない」
「なるほど。密室は作れないんだね」

食堂の窓から心地好い風が通り抜ける。
テーブルにはバラバラに数人が座っている。
これくらいなら、大丈夫。

「軽くパニックを起こしているみたいだね」
「パニック・・・」
「パニック症。けれど悠理は自分でその場を逃れたり、調子を調えられる時はきちんと対処してるみたいだから安心だ」
「そう・・・」
「例えば、会いたくない時に誰かが目の前に現れて、悠理が逃げられない時はどうするの?」
「手元に本とか雑誌があればそれを見る。なければ周りの風景を見る」
「それら全てを見尽くしたり、あるいはなかったら悠理はどうする?」
「自分の手を見る。両手を見て、その形を見て、皺の様子や爪の形も見る」
「そう、すごい」
「指紋まで見れるから、逃げ道はある」
「その方法で正しいと思います。その内、また元に戻れます。必ず」
「そうかな?あたし・・・どうしちゃったの?」

また少し息苦しくなる。
心臓がドキドキして、喉がなるような気持ちになる。
それに気付いてか、清四郎が今度は両手であたしの手を包み込んだ。
優しくて、温かい。

「僕達の年代に起こりやすい症状なんだ。ただ悠理の場合、それが強く出てるだけで」
「治る?」
「もちろん。いつとは言えないけれど、個人差があるからね。必ず治ります。悠理なら薬も必要なさそうだし、ここにも長くいる必要はないと思います」
「でも先生は薬を処方した」
「だって医者だもの。悠理の気持ちが楽になるように処方しただけ。対処療法とはまたちょっと違ったのでしょ。あるいは薬で不安を取り除いてから行おうとしているのかも知れない」
「分かんない」
「分かんなくていいよ、悠理は。けれどいつか、不安と向き合って対処して行かなくてはいけない。ただ悠理は自分から、自分でできる方法で既に行っている。凄いことなんです。素晴らしいことなんです」
「うん」

清四郎が言うから、絶対そうなんだ。
あたしはもう少ししたらまた前のようになれる。

「そう、前のように。いや、それ以上に成長した悠理になれる」

あたしの心の中が分かるの?清四郎。
でもちっともイヤじゃない。嬉しいよ、清四郎。

「僕や野梨子達よりもね、ずっと成長できる。だから今、誰よりも苦しんでいるんです」
「得したんだね、あたし」
「あはは。そうだ、悠理は誰よりも得してるんだ」
「良かったんだ」
「ええ、もちろん。とても良い経験をしたんです」

ぎゅっとあたしの手を両手で握る。
どんどん気持ちが楽になる。

「清四郎に手を握られているとスゴく楽な気持ちなれる。始めからこうしてもらっていれば、ここに来なくても良かったのに」
「まぁ、これも経験として捉えれば。皆が経験できるものでもない。それに僕の手が必要と言うのなら、いつでも使って下さい。また学校に来るようになれば、業間や放課後でもこうしてあげる」
「ほんと?じゃあ、指切りで約束」
「ええ、約束」

解放された右手の小指を立てる。
清四郎も立てる。
それからゆっくり指を絡ませ、互いに強くしていって、縦に何度か振ってから離した。
あたし達の手は、その後も離れたままだった。

「あら、何のお約束?」

野梨子が先生の部屋から戻って来た。

「いつでも、どんな時でも悠理を助けると約束したんです」
「まあ!悠理、良かったですわね」

楽しげに清四郎の隣に座る。
みんなのハーブティは、忘れ去られたようにそこにあった。

「それに朗報ですわ、悠理」
「なに?」
「お医者様が、悠理が好きな時に退所しても良いとおっしゃっていました」
「ほんと?」
「本当ですわ。ねぇ、清四郎、良かったですこと」
「僕は悠理に会った時からもう大丈夫って思ってましたよ」
「あら、まぁ、そうですの?そうでしたかしら?」
「そうですよ」

野梨子は鈴が転がるように笑う。
二人のやり取りは、本当に夫婦みたいだ。
あたしと魅録ではこうはいかない。
漫才みたいだもの。

野梨子は、自分のことのように喜んでくれている。
嬉しいよ、ありがとね。

「悠理の退所日が決まったら、僕に連絡して下さいよ、必ず」
「退所は一人でも平気さ」
「おや、僕の手は必要じゃないんですか?」
「大切だからそんなに簡単に使わないよ」
「だから悠理、頑張らなくたっていいんですよ。こう言う時は甘えるんです」
「いつも悠理に厳しい清四郎が、そんなことを。ねぇ悠理」

清四郎が笑う。
雨雲は空のどこかになくなって、午後の陽射しが三人のテーブルに届く。
木々の間で蜩がけたたましく鳴き始める。
そしてまた、心地好い風が通り抜ける。

もう人混みも喧騒も大丈夫。
清四郎がいてくれるから、大丈夫。

あたしがみんなの所に帰る頃、夏真っ盛りなんだろうな。
そう思うだけで、心は軽くなった。



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思うこと 信じること

日曜日の午前中に悠理の自宅へ訪問した。
お昼前と言うのはちょっと気が引けるけど、最近の彼女を思えばやっぱり心配だし、少しでも元気を取り戻したなら外へ誘い出してランチも悪くない。
だから僕は、日曜日の午前中に悠理の部屋のドアをノックする。
互いが息を潜めたのが分かったが、声がかかるまで辛抱する。
程なくして、元気のない彼女がドアを静かに開けた。

「元気なさそうで、大丈夫?」
「うん、何だか調子良くないよ。だってさ、知ってるでしょ?」
「まぁね。でも二人が決めたことだから、僕達はそれに従うしかない」

ふうん、と彼女はため息を吐く。
僕は勝手に一人がけのソファに座り、足を放り出した。

「清四郎もらしくないじゃん。気になるんだろ?」
「もちろん。まだまだ二人はギクシャクするだろうし、メンバーは揃わないだろうし。揃ったとしても、気を使いますよね、やっぱり」
「うん」

悠理はベッドの端にちょこんと座る。
何だかいつもと逆みたいだ。
凄くしおらしくて、かわいそう。

僕の幼馴染みの野梨子と、悠理の大親友である魅録が短い恋人期間を得て、別れた。
互いの深い想いからきたすれ違いのようだが、意外にも頑なな魅録の決断が別れへと発展したようだ。
野梨子の懇願も叶わず、とても辛い別れ方だった。
魅録は平静を装うが、野梨子は心を閉ざしたままでいる。
そしてそれ以上に、悠理が心を痛めてしまっているのだ。
メンバーの中で誰よりも二人を祝福し、大切に見守っていたのだから仕方ない。

「悠理も辛いんだろうけれど、あの二人だって計り知れない悲しみの中にいるんです」
「うん」
「だからこそ、僕達だけでも元気でいましょうよ。心の中で二人がそれぞれに幸せになるように願いながら、ね」
「そりゃあ・・・」

悠理はベッドに上がり、そこで膝を抱えて座り込む。
何だかいつも以上に華奢に見える。
小さ過ぎて、コロンと転がりそうだ。

「そりゃあ、ね。そうしなくちゃって思ってるよ。でもさー、野梨子の凹み具合を見てよ。ムリだよ。かわいそうで見てらんないよ」
「確かにね。かなりの時間は必要かも知れないですね」
「ずっとあのままだったらどうしよー!」
「だからこそ、悠理は元気でなくてはならない訳ですよ。悠理まで凹んでいてはどうしようもないでしょ?周りの僕達が元気で明るくいれば、野梨子も自然と元気になれます」
「ふーん」

とうとう悠理は、両膝の間に小さな顔を埋めた。
かなり野梨子に感化されてしまっている。
僕は悠理に近付き、ベッド端に座る。
ちょっとだけ僕の方に、彼女の体が傾いた。

「まずは悠理が元気になること。それが大事、ね。悠理まで悲しみのどん底にいたら、野梨子も魅録も救えない。そうでしょ?」

悠理はちょっとだけ頭を動かす。
僕の話を聴いているのは良く分かるけど、具体的にどうすれば良いのか分かっていない。
それは、悠理にとってそうであろう。
だから僕は、彼女が少しでも良くなるように、とっておきの方法を思い出す。

「悠理、顔を上げてごらん」

最初、ちょっと考えている風だったが、やがてゆっくり顔を上げて僕を見つめる。

「悠理が元気になる良い方法を教えてあげる」

ぼんやりした瞳の奥に、強い力が込み上げて来るのが映る。
僕は催眠術師のようにかっこ良く、右手の人差し指と中指をまっすぐ伸ばして悠理の額にのせた。

「悠理、今度は目を瞑ってごらん。そう、そしてゆっくりした気持ちになって」

彼女は素直に従う。
長い睫毛が時々揺れる。

「いいね。そしたら、今の悠理が望むことをイメージしてみて」
「へ?」

そこで彼女は大きな目を見開いて僕を見た。

「あたしが望むことのイメージって?なんだ?」
「こら!目を開けちゃダメでしょ。ほら、目を瞑って、悠理が今こうなったらいいなって思うことがあるでしょ?それを心に思い浮かべるんです」
「ええ?例えばメシ食いたいとかケーキ食いたいとか?」
「そう。それで良いから頭の中にそれを浮かべて。美味しそうな食事とか、甘いお菓子とか。それをお腹一杯食べているイメージを持つんです」

うん、それなら分かる、と言って彼女は再び目を瞑る。

「最初は大まかな感じでも良いけど、慣れてきたら具体的に思うんです。何が食べたいとかどんな味が良いとか。それがどんどん具体化されたら、それがもう現実に起こるものとしてイメージする」

僕の言う意味が理解できているのか、無言で、そして真剣な表情になる。

「必ず、それは悠理が口にできるんだ。必ずね。そう強く信じると・・・ちょっとだけ気持ちが明るくならない?」

クスッと笑うと、目を閉じたまま彼女は言う。

「目を開けたら、それが目の前にあるってイメージしてる」
「うん。そうだね。例えなくてもあるって思う。それが大事なんだ」

何かを悟ったようにまた微笑む。
今度の微笑みは大人びた、美しい微笑みだった。

「清四郎が言う意味、分かったよ。あたしが野梨子と魅録が元気になるように願えば、そうなるってことでしょ?」
「その通り」
「元の友達関係やそれより後のイメージはちょっとあたしには無理だけど、二人が元気に笑う姿は想像できる」
「そう、凄いね。やっぱり悠理だ」
「力一杯そうなることを願えば、二人は笑顔を取り戻すんだね」
「そうだよ。悠理が強く願えば、それは現実になるんだ」
「清四郎。清四郎の指を通して、あたしはどんどんイメージが湧いてくるような気がする。そして、何だか言葉にはうまく表せないけど、分かるんだ。
これは、まだ起こらない真実を信じるってこと・・・」

凄いね、悠理は。
君は本当に特別な力を持っているって思うよ。
野性的って言うのか、本能的って言うのか。
僕の指を通して、悠理の力を強く感じる。

僕達はしばらく無言のまま、そうしている。
やがて指に何も伝わらなくなると、僕はそっと指を離した。
彼女もゆっくり目を開く。
僕と目が合うと、照れ臭そうに微笑んだ。
さっきの、大人びた微笑みや普段のとも違う微笑み。

「清四郎の力って、やっぱりスゴい。もう本当に、魅録達が笑顔でいるような気がする」
「僕じゃないよ。悠理の力なんだよ」
「そうかな。清四郎の指から魔法みたいにどんどん頭の中に光って届いた。だから清四郎が特別な力を送ってるって思った」
「じゃあきっと、僕と悠理の願いがひとつになって、強い力になったってことですよ」
「うん、うん。そうだよね。きっとそうだと思う」
「きっと、じゃなくて、絶対」
「そうだ」

僕達は見つめ合って微笑んだ。

きっと、じゃなくて、絶対。
野梨子と魅録が元気を取り戻すように。
新しい笑顔が、二人に与えられますように。

僕と悠理は、既に二人がそうなっていると信じて止まなかった。




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