FC2ブログ

2016年11月

冬の偶然

美童の知人が主催するパーティの頭数でこのホテルに呼ばれた。
呼ばれたのは可憐と悠理と僕。
良くあるところの出会い系みたいなパーティ。
野梨子と魅録は付き合い始めて間もないため、そんなパーティには参加したくないと言う。
それはそうだ。僕だって参加したくなかった。
悠理だってイヤイヤの参加だ。
でも頭数で何とか頼むと言われると仕方ない。
大切な仲間だし、悠理は後で美味しい食べ物をごちそうしてもらうようだし、パーティくらい適当にスルーすれば良いと考え直せた。
当日になって会場であるホテルに到着すると案の定、悠理が来ない。
美童と可憐は会場に入ってしまったし、僕はとりあえず悠理を待つことにした。
ロビーで受付し(なぜか詳しい個人情報を記入させられた)、渡されたテーブルの番号札をジャケットの内ポケットにしまうと、コートやバッグをカウンターに預ける。
それでも悠理は来ない。
まだかまだかとホテルの入り口辺りで怪しい感じにうろうろしていると、やっと悠理が駆け込んできた。

「ごめ~ん!!」

冷たい空気をたっぷりコートに含むように彼女が近づくと、外の、冬の匂いが漂った。

「名輪さんに乗せてもらわなかったの?」

彼女の頬も鼻の頭も真っ赤で、ついでに手袋をしない小さな手も真っ赤だった。

「寄り道してたから。タクシーもつかまんなくて、走った方が早いと思って」
「お疲れさま。まずは受け付けしてしまった方がいいでしょ。美童達はもう会場だから」
「うん」

僕は悠理の腕を取って受け付けに向かう。
担当者に説明を受けてボールペンを手に取ると、彼女は困ったように顔をあげた。

「手が冷たくって書けないよ~」

彼女は両手にはぁ~っと息を吹きかけ、それから擦り合わせた。
確かに今日は昼過ぎ頃から急激に気温が下がった。
今にも冷たい雨が振りだしそうなほどの重たい雲が空一面を覆っていた。

「丁寧になんて書かなくてもいいんだから、さっと書いちゃいなさい」

そう、こんな所で書く個人情報なんて、本当に怪しいものだ。
何かに使われようものなら、美童に責任を取ってもらわなくては!

「ちょっとムリ~。まじムリ~」

まだ赤い両手を僕に見せるようにして、カタカタと震わせている。
その時、僕は思わず彼女の両手を自分のそれで包み込んでしまった。
確かに彼女の手は氷のように冷たく、これでは指先でボールペンを自由に操られないであろう。

「あったか~い。清四郎の手、ぽっかぽか」

受け付け担当者の目が多少気にはなったが、僕は彼女の指先が温まるまでそうしていた。

「清四郎、サンキュ!手があったかくなったから字が書けそう」

まだ少し冷たい彼女の手だったが、その言葉で両手を解放した。
今度はすらすらと記入をすると担当者からテーブルの番号札をもらい、嬉しそうに僕の腕を取る。

「時間まだある?ちょっとだけロビーでお茶しない?あったかくて甘いココアが飲みたいな」
「ちょっとくらい遅れてもいいんじゃない。体を温めないとコートも預けられないでしょ?」

僕の腕に絡まる彼女の手に触れると、あっという間にまた冷たくなっている。
僕がその手を握ると、悠理はまたあったかいと言って喜んだ。
こんな小さな事で嬉しそうにする彼女が無邪気に、可愛らしく思ってしまう。

「清四郎が指先に触ってくれるだけで体の芯まであったまりそう~」
「僕の手でもずいぶん役立つんですね」
「すっごく助かっちゃったもん!」

素直にそんなことを言われると、何だかこちらまで嬉しくなってしまう単純な僕。
興味のないパーティより、このまま悠理とどこかへ出かけてしまいたい。
例えきっかけはパーティだとしても、彼女への偶然の想いを大切にしたいから。

温かなココアが入ったカップを大切そうに両手で包みながら彼女が飲んでいる間に、僕はジャケットの内ポケットからテーブルの番号札とスマートフォンを出す。
美童へ電話をしながら、僕はクシャリとその番号札を掌で潰した。





拍手・ランキングへのクリックをありがとうございます!
ランキングへ参加しています。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村


二次小説ランキングへ
スポンサーサイト

きみの瞳に映るのは

日曜日の午後の事だ。
僕は少し早い期末テストの勉強会の為に剣菱家を訪れた。
せっかくの日曜日とテストにはまだ時間があるとあって、悠理からは大反対の抗議を受けたが、正直今から始めたって遅いくらいと思っている。
まずは小学校の教科書から開かないといけないくらいなんだから。
彼女の部屋のドアをノックすると、は~いと暢気な声が聞こえて、それからゆっくりドアを開けた。

「お邪魔します。おや、もう机に向かって。雨でも降るんじゃないかしら」
「え~。雨が降るなんて、お天気で言ってないもん」

分かってないな、と思ったけど、そこはスルーした。
説明が面倒だし、それに彼女は勉強なんかしてるのではなくて、アルバムのような小冊子を見ていたからだった。

「勉強かと思った」
「まさかー!」

そこでやっと彼女は僕を振り返る。
頬がちょっと紅潮して、目が潤んでいるように見える。

「じゃあ何をしているの?写真?」
「う、ん」

隠す訳ではないけれど、冊子を開いたまま伏せて、僕には見せたくない感じ。

「それ、見せて下さいよ」
「だぁめぇ~」
「どうしてぇ?」
「だって、見てもつまんないよ、きっと」
「そんな事ありませんよ。悠理の写真とかメンバーのなら面白いです」

僕がちょっと手を伸ばすと、その冊子に彼女の手が先に置かれた。
相変わらず、スピードだけは敵わない。

「分かった。変な写真でしょ?」
「いや、普通」
「じゃあ、いいじゃないですか」
「ダメダメ。つまんないから」
「ふうん」

変じゃなくても、気になる。
こうなると、とことん見たくなる。
だから僕は、彼女の後方を目を見開きながら指差した。

「あ・・・悠理の後ろに何か見える・・・」
「ぇぇええっ!!!」

一瞬の内に真っ青になって僕の首にしがみつく。
身体中ガタガタ震えているのが伝わって来る。
ちょっと申し訳ない気持ちになりながら、僕は冊子に手を伸ばし、表紙をめくった。

「んん?あれ?」

最初のページから、彼女が笑顔で写っている。
広い高原のような場所で、笑顔の後ろには青い空と白い雲、それは美しい写真。

「本当に普通の綺麗な写真、ですね」
「へ?」

僕の声にびっくりしたように、彼女は首に腕を回したままで振り返る。
途中、首筋に彼女の温かな息が触れた。

「え?何?ちょっ・・・」

今度は僕を突き放すようにして真正面を向く。

「騙したなぁ!?」
「だって見たかったですもん。言った通り、普通の写真。でも・・・」

そう、でも、悠理がとても綺麗に撮れてる。
笑顔があまりにも美しくて、彼女じゃないみたいだ。
目線はしっかりレンズを向いていて、カメラを向けている相手に微笑んでいるみたい。
僕がそう伝えると、違うんだと答える。

「カメラマンは魅録?」
「うう・・・ん」
「じゃあ誰?」
「誰って・・・清四郎の知らない人」
「バンド仲間?バイク?魅録の友達?」
「関係ないから、いいじゃん」
「気になるじゃないですか、だって」
「なんで?」
「ふざけた顔の悠理しか知らないもの。こんなに綺麗な笑顔を見せるなんて、誰にって思うでしょ、普通」

あはは、って、力なく笑う悠理が小さく見える。

「去年の今頃に撮ったの。近くの広域公園だよ。天気がとってもよくって暖かい日曜日だった。ちょっとおしゃれして行った日で、遊歩道を散歩していたの」

最初は風景写真を相手は撮っていた。
色づき始めた木々の葉がとても美しく、まるで今日と言う日を歓迎されたかのように心が弾んだそう。
その日に選んだ服装がその光景に溶け込むように自然だと言って、相手は悠理を中心に撮り始めた。
恥ずかしいから嫌だと彼女は言ったけれど、動きに合わせてシャッターを切るものだから後は自由に撮らせていたと言う。

「すごく良く撮れている写真だけ選んでプリントしてくれて、こうしてアルバムにして」

悠理は観念したように薄型の小冊子、アルバムのページをめくって見せる。
時々拗ねたようにした表情もあるけれど、それすらも普段と違って大人びている。
けれどその多くは本当に綺麗な笑顔の彼女。

「だって、綺麗だよって言ってくれたから」
「分かるよ」

それから彼女は言葉を失ったように口元を覆い、泣いているかのように目を伏せた。

「この写真撮ったの、魅録でしょ」

しばらくそのままの状態だったけれど、ゆっくりと頷く。

「魅録があたしを綺麗だと言ってくれたの。でも、違ってた」
「悠理は綺麗だよ」
「そうじゃなくて、あたしが言ってるのは、綺麗だと言っても好きとは違うってこと」
「魅録が悠理を好きだから綺麗だと言っているのではなく、客観的に綺麗だと言っていると言う事ですか」
「客観・・・分かんないけど、好きと綺麗は別で、今日の悠理はすごく綺麗に見えるって」
「僕から見ても、その写真の悠理は綺麗だ」
「ありがと・・・でも、魅録の気持ち、今なら分かるなって」
「どのように?」

悠理はクスッと笑って僕を見上げる。
その目は、写真以上に大人びて見えた。

「誰かを好きになると、目に見える何もかもが美しく見える」

彼女の言葉だ。

「優しい気持ちにもなる」
「悠理が?」
「魅録が」
「ふうん」
「美しい風景もその日、たまたま綺麗に見えたあたしも、あたしが好きだからじゃなくて誰か別の人を好きだから。そしてその想いが通じ合いそうだったから」
「・・・・・」
「後日談」
「野梨子」
「うん」
「なるほど。罪な男ですね、魅録は。悠理は魅録が好きだったんですね」
「好きだと気づいたのは後でね。いつも一緒にいたから」
「きっと悠理も魅録に恋していたから、綺麗な表情になれたんですね」

魅録は野梨子が好きで、野梨子も魅録に好意を持っていて、二人の恋が成就しそうだったから魅録は幸せだった。
その気持ちが、目に映る何もかもを美しく捉えた。
そして悠理は、魅録への想いと魅録からの言葉で綺麗になった。

「でも今の悠理は、その写真よりも綺麗ですよ」
「ばぁ~か」
「本当に。綺麗で、ちょっと大人になって、優しくなって」
「褒め過ぎだろ」

けれど僕に怒る風でもなく、天井を見上げるようにして考えている。

「この一年、辛い時もあったけど。う~ん・・・なんかね、赦すって事を覚えたような気がする」
「魅録や野梨子を?」
「ん・・・分かんないけど。二人が幸せならいいなって」
「はぁ~。大人ですねー、やっぱり。嫉妬しない?」
「清四郎は野梨子や魅録に嫉妬するの?」
「しますよ。いいなぁ、楽しそうでって」
「あはは。それはね、あたしも」

きっと何度も何度も泣いて、傷付いた心を涙で癒して。独りで。
けれど時間と言う強い味方が、悠理を大きく成長させたのだろう。

「もともと持ってる悠理の仲間思いの優しさも成長のひとつかな」
「え?なーに?」
「ううん。僕には今の悠理は魅力的に映りますねー」
「そーだろー。清四郎はあたしに恋してるだろー」
「あ、そうかも知れませんね。悠理を綺麗って思えてるんだから」
「褒めてんの?けなしてんの?」
「褒めてるんでしょ。何回も悠理を綺麗って。こんなの初めてでしょー」
「ヒド~イ」
「どうしてぇ?」

今日は勉強会にはなりそうもない。
だって本当に悠理が綺麗に映るんだから。
正直、ちょっとドキドキしてきて、勉強どころではない僕。

もう少しこのまま、悠理との距離を楽しもう。
僕は悠理の言葉を胸に、ひとつ自分も成長したような気になった。




拍手・ランキングへのクリックをありがとうございます!
ランキングへ参加しています。
にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村



二次小説ランキングへ