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2016年12月

さよならさんかく

気の進まないクラス会だったけれど、魅録が幹事だったから仕方なく出席してやった。
でもやっぱりツマンナイ。
だって魅録は幹事だから忙しいし、学生時代にクラスメイトで仲良しなんてほとんどいなかったし、仲良しだった別クラスのメンバーだって全員が揃っている訳でもない。
研修医で地方勤務の清四郎とスウェーデンに帰国した美童は欠席。
広い会場のどこかにいるはずの野梨子と可憐は別クラスだから見当たらない。
式の次第も順調で、今は自由にテーブルを移動してみんなはおしゃべりとお酒を楽しんでいる。
あたしはと言えば、テーブルに来てくれる顔見知りの誰彼を相手にするだけ。
久しぶりにサインや写真なんて求められて・・・“事務所を通してね”って冗談を言って断った。
たいして美味しくもないワインを飲んだ振りをしてそろそろこっそり帰ろうかと思ったとき、魅録があたしの肩をポンと叩いた。

「やっと時間できたぜ」
「おつかれ~。なんか飲み物持って来よっか?」
「サンキュ。お前んのと同じのでいい」
「オッケー」

トレーにワイングラスを載せたウェイターがちょうど通りかかり、あたしはひとつそれを取る。

“お前んのと同じのでいい”か。“お前んのと同じのがいい”とではちょっと意味合いが違う。
後者の方がずっといい。
そんなくだらないことが頭に浮かぶ。少し酔っているのかも知れない。

「ここ空気が悪いから、ロビーの方に行こう」

テーブルに戻ると魅録が言う。
あたし達はグラスを手にロビーへと向かった。
ロビーにも何人か顔を知っている程度の人がいたけれど、誰も互いに興味を持たない。
みんな酔って疲れているみたい。
あたしは魅録に勧められて、一人がけのソファに座った。
魅録はあたしに背中を向けて立ち、強化ガラスの向こう側に映るあたしに声をかけた。

「なんかいろいろ懐かしかったな」
「うん」

本当はそうでもないけれど、そう答える。

「学生時代を思い出したぜ。ハチャメチャな毎日だったけど、楽しかったし」
「うん、そうだ」
「野梨子や可憐と会えた?」

ワインを一口飲んだ魅録が振り返る。

「ちょっとだけ。でもそれぞれのクラスのテーブルにすぐに戻っちゃって」
「そうだよな。あいつらクラス違うから」
「うん」

あの時さ・・・魅録は呟き、それからあたしが座るソファの肘掛けに腰を下ろす。
そうしてあたしを覗き込むように見つめる。

「悠理とは毎日一緒にいて、いつでもどんな時でも一緒に行動して楽しかったな」
「そうだね。特に危険な行動の時は、なぜか組まされたんだ、清四郎に」
「あはは。そうだ。あいつはいつも俺達を動かして、自分は野梨子を守っていた」
「仕方ないよ、二人でひとつみたいなもんだもん」
「俺達みたいに?」
「さあ、あたし達はどうだろ。他人にはそう映っていたかもだけど、そうでもなかったよね?」
「そうでもあるよ。でもさ・・・」

そこで言葉が途切れる。
ワインをまた飲んで、あたしも飲んで、けれど次の言葉が出ないから、あたしは代わりに答えてあげる。

「そんな風に映って欲しくなかった。でしょ?」

魅録はびっくりしたように目を大きくして、それから困ったようにあたしを見る。

「違うよ。お前とはひとつでも全然いいさ。ただ、それは悪友として」
「うんうん。分かってる。言わなくても知ってるから」

それから魅録は立ち上がり、グラスのワインを飲み干して近くのテーブルに置いた。
そして申し訳なさそうにあたしの前にしゃがみ込み、あたしの手元を見つめながら言う。

「俺、野梨子が好きだった。お前とハチャメチャやってるのは本当に楽しかったけど、視線の先にはいつも野梨子を探していたように思える」

ああ、やっぱり。

このクラス会の誘いを受けたとき、心のどこかで密かな期待を持ったあたしがバカだった。
野性の勘は昔から今でも続いていて、それは、それだけはあたしの天性で間違いなくって。
なのにあたしったら、余計な期待を持ってしまって・・・バカなんだから。
そしてそれも変わってないんだからいけない。

「今は?今でも?」

心とは裏腹に、魅録をからかうように訊いてみる。

「ずっと彼女を好きだってことを忘れていたように思えてたんだけど、さっき一言二言話してたら思い出しちゃって」
「まだ好きだったんだね、野梨子のこと。いいんじゃない?野梨子も浮いた話はひとつもないし」
「ああ、知ってる」
「今日が絶好のチャンス!無事クラス会が終わったら、ちょっと時間取ってみれば?」
「そう?そうだよな」
「なんなら、あたしが誘ってあげようか?」

ポケットからスマホ取り出してみせる。

「いや、自分で。悠理、サンキュ。お前に話したら勇気が出た」
「えっへん!いつでもどんな時でも魅録を助けましょう」
「お前は俺の支えだったから」

そうだった?そうだったかな、魅録。

あたしは会場に戻る魅録の背中に問いかける。
にわかに感じる絶望と悲しみと虚しさと淋しさと・・・結局は混乱していた。
“お前は俺の支えだったから”なんて嘘。
あの頃もそんな風にあたしに言って期待させて、傷つけてさ。

「悠理のこと好きだよ」

好きの意味合いが違うっつーの!
友達としてそうなんだから。伝え方がヘタクソなんだから、魅録は。

終わった。おわった。オワッチャッタ。

混乱し続けるあたしの小さな胸と頭は、息苦しさと目眩を覚える。
不味いワインのせいかも知れない。
このまま帰ろうと思ったとき、スマホがヴァイブするのを感じた。
画面には元生徒会長の名前。
びっくりして画面をタップする。

「クラス会、終わった?」

最初の一言目がこれだもの。
相変わらずの人だな。

「スッゴク久しぶり~、でしょ?」
「あはは。すまないね。元へ、大変ご無沙汰しております」
「元気だった?」
「もちろん。悠理もでしょ?」
「うん。今日の参加者全ての人が、生徒会長欠席を嘆いていました」
「ああ、申し訳ありません。でも副会長は出席でしょう」
「魅録ねぇ。幹事までさせられて大変そうよ」
「ふうん。で、どうだった?」
「クラス会?」
「ええ」

時々、電波が途切れる。
建物のせいなのかな?それとも清四郎が地方にいるから?

「メンバーだけの飲み会の方が100倍楽しいよ」
「そう?そうかもですね。僕達は他の誰よりも浮いていましたから。ある意味、メンバー以外の誰とも親しくはなれなかった」

メンバー以外とは、親しくなれない。

「うん。あたし達は、特別」

だとしたら、メンバー以外とは結ばれないのかな?
そう訊いてみると、清四郎は困ったような声をあげた。

「結ばれるって、例えばメンバー同士の付き合いとか結婚とか?」
「まあ、そういうこと」
「またそれは難しい質問ですねぇ。ふうん。美童や可憐は別かもね。異性との交際は」
「じゃあ、魅録や野梨子や清四郎はどう思う?」
「可能性はあるでしょうね。魅録と野梨子なんて特に」
「清四郎と野梨子・・・」
「さあ、僕と野梨子はちょっと。兄妹の関係だから、それはないですね」
「だから・・・魅録と、野梨子?」
「悠理と魅録は?」
「あるかもねーっ!」

あたしは大きな声でふざけてみる。

あるわけない、あるわけない、あるわけないっ!!

だからこそ、ふざけるんだ。

「悠理と僕」

・・・・・。

「これって可能性が大きいと僕は思う。からかったりふざけたりしてるんじゃなくて、可能性の問題。野梨子と魅録って、実は美童達寄りなんですよね。過去の出来事からして」

ああ、そうだ。二人はメンバー以外の異性と心を交わした。

「でもね、悠理と僕は意外と難しい性格なんです。メンバー以外には心を開けないし」

確かに、そうかもしれない。

「社会に適応できないと言う意味ではなくてね」
「分かってる。清四郎の言う意味、分かるよ」

清四郎はしばらく黙っていた。
だからあたしも黙っていた。
言葉を失ったり、話すことがなくなった訳じゃない。
多分、同じことを考えているんだと思う。

スマホの向こうで、清四郎があたしを気遣っているのが分かる。
心配してくれてるんだよね。

「卒業してから、独りで大丈夫だった?」
「清四郎だって、大学も研修医の今も、独りでいて平気?」
「僕は割り切れるからね。悠理は?」
「家族の助けがある」
「うん。よし!」

清四郎と話していると混乱していた気持ちが静まっていた。

これは、仕方がないことなんだ。諦めだって必要なんだ。
相手の気持ちを変えるのは難しいけれど、自分は変えることができる。

「実はね、来週の週末にそっちに帰る予定なんです」
「へ?今週はムリだったのにぃ?」
「まだまだ研修医ですから。勝手はできない身分なんです」
「仕方がないか」
「そう。でね、悠理会えないかしら?」
「ああ、もちろん、大丈夫。近くなったら連絡ちょうだい」
「分かりました。さ、そろそろ研修室に戻らないと」
「仕事だったの?」
「そ、休憩中。じゃあ、ありがとうね、悠理」
「うん」

またね、と言ってあたし達は電話を切った。
まるで、あの時の頃のように。

あたしの気持ちはかなり落ち着いていた。

ありがとう、清四郎。でも、ごめん。ごめんなさい。

清四郎のおかげで混乱していた気持ちはかなり落ち着いたけど、それって魅録の代わりにしていたことだとしたら・・・ごめんなさい。
もちろん、魅録の代わりは誰もできないし、清四郎はその役割ではない。
そんなことできないし、やってはいけないことだし、清四郎は全く別の関係だし。

あたしはフロントで自分のダウンジャケットとバッグを受け取る。
もちろんこのまま帰ろうとしている。
その方がいい。
ホテルのエントランスを背に夜空を見上げる。
街の照明が空に反映してうっすら明るい。
けれどそれはどこか寒々しくて、真っ黒な雲が冬の冷たさを感じさせる。
胸元でまたスマホがヴァイブする。
ジャケットに手を入れて画面を見るとメールが一件届いていた。
タップすると、また元生徒会長の名前。
メールを開くと短い文字が連なっている。

“さよならはどちらか一方的だけど、再会は永遠。
来週悠理に会えるの、楽しみにしてる。
気をつけてお帰り。おやすみ”

あたしは返信せずにスマホを胸に納める。

清四郎、あたし達は似た者同士だったんだね。
全く違ったタイプの人間だと今まで思っていたけれど。

無理に引き離された想いを手で探るより、全く新しい何かを手にする方が哀しみを忘れることができる。

今はただ、振り返るよりかは前に進もう。

あたしはジャケットの襟元をぎゅっと握り締め、寒さから身を守るように歩き始めた。





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