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2017年11月

冬の星空よりも惹かれるもの

いつもよりちょっとだけ早くクリスマス準備。
今日は理事長のミセス・エールの部屋で飾り付け。
学園内にある理事長室は、質素な部屋。
まるでミセス・エールの人柄を象っているよう。
あたしは大好きだ。

野梨子と可憐はオーナメントのレイアウトやメンテナンス。
魅録は天井の飾り付け。
美童はミセス・エールとお茶菓子の買い出し。
あたしと清四郎は、巨大クリスマス・ツリーの飾り付け。
清四郎はツリーの真ん中や下の部分に、野梨子達が用意した雪をイメージする綿やオーナメントを飾り付けている。
あたしはと言えば、脚立に乗ってツリー上部の飾り付け。
オーナメントだけじゃなくって、金色や銀色のモールもいっぱい、グルグルにツリーに付ける。
キラッキラのゴージャスなツリーにするんだ。
時々魅録が上から壊れたオーナメントを投げ付けてくるから、あたしは一番長いモールの先を魅録の頭めがけてみる。
うまい具合に頭に巻けたら、モールの帽子になっちゃうよね。
そんな遊びを魅録としていたら、野梨子に怒られちゃった。

「ミセス・エールと美童が戻って来ますわ。ふざけてばかりいますなら、悠理と魅録のおやつはなしにしましてよ」
「そんなのイヤだも~ん。魅録が最初にやったんだよ」
「悠理がダラダラやってっからだろ?考えてモールを飾れよ。センスねーなー」
「なんだとーっ!!」

「悠理、僕にモールを分けてくださいよ」

少し離れた場所から清四郎が話しかける。

「ごめーん。全部巻き付けちゃった。金と銀と、ひとつずつ外すね」
「そちらは綿はいらない?ちょっと多いみたい」
「じゃあ、交換ね」

あたしは脚立の天板に乗り上げ、ツリーに巻き付けたモールを取る。

「天板に乗るのはよした方が良いでしょう。バランスを崩しますよ、いくら悠理でもね」
「魅録だって天板跨いでるもん」
「そうですけどね。悠理はスカートだし、誰も覗きやしませんけど気を付けた方がいいですよ。ほら、物好きなヤツだっているかも知れないし」
「なにーっ!魅録よりも失礼なやつだな!!」

振り向こうとして、天板の上でバランスを崩す。
けれど得意の運動神経の良さで、天板に座るような形で収まった。

「えっへん!どうだー。スゴイだろ」
「見たくないものまで見えたような気がしますけどね。悠理ですからね」
「や、やだぁ」

今更だけど、ちょっとスカートの裾を伸ばしてみる。
見たくないものって・・・恥かいちゃった。
急に恥ずかしくなって、手にしていたモールをクルクル指に巻き付ける。

「モールが外れました」

目の前に金色と銀色のモールの塊が差し出される。
天板の上でバランスを崩した拍子に外れたんだ。
キラキラのモールの向こう側に、清四郎の顔が見える。
真っ黒の二つの瞳があたしを見ている。
それはキラキラのモールよりも輝いていた。
けれど・・・初めて見るような、不思議な気持ち。
そんな事を考えているとあたしの手からモールが取られ、その瞳がぐっと近付いた。

「どうしました?」
「ううん、なんでもないよ」

あたしはちょっとだけ視線を逸らす。
だって・・・分かったんだ。
不思議な理由が。

ずっと、ずぅっと前。
まだ初等部の頃は、おんなじくらいの背だったから、にらみあいっこばかりで顔を合わせてたけど。
大きくなって、中等部ですっかり仲良くなった頃は、清四郎を見上げてばかりで。

だからいつも見慣れているはずの顔は、本当の清四郎の顔じゃなかったんだ。
本当の清四郎の顔はとても整っていて、真っ黒の瞳は深い色と輝きがあって。
つまりは、とってもキレイだってこと。

「脚立から降りるの、手伝いましょうか?」

清四郎の細長い指があたしの目の前まで伸びる。

「大丈夫。一人で降りるよ」

その手を避けて、あたしはピョーンと飛び降りる。

「綿をあげましょう」

清四郎はビニールに入った綿を取りに振り返る。
戻ってあたしに手渡す時は、見慣れた顔の清四郎があたしを見下げていた。

さよなら。本当の清四郎。

なんて、ちょっとだけセンチになって。ヘンなあたし。


クリスマス・ツリーも整って、ミセス・エールの部屋も華やいで、みんなで楽しくお茶を飲んだ。

「今年のクリスマスは、有閑倶楽部のみんなが幸せに過ごせるようにお祈りするわ」

ミセス・エールは帰り際に、あたし達にそう言ってくれた。

下校の時は、もうすっかり暗くなっていた。
やけに底冷えする夜で、空には黒く怪しげな雲が広がっていた。

「まさか、雪でも降らないわよね」

心配そうに可憐が空を見上げる。

「まだ、雨じゃない?そこまで冷えてないよ」

美童も気になるようで、可憐の横で上を見る。
あたしもつられるように空を見上げていたら、みんなはずっと先を歩いていた。
走って追い付こうとしたら、額に冷たいものが当たった。
もう一度空を見上げる。

「雪、かな?」

後ろから声をかけてきたのは、生徒会室の戸締まりでもしてきたのであろう清四郎だった。

「雪にしては早すぎですよね。暗いから。あ、ほら」

また清四郎の長い指が目の前に差し出される。

「あら、溶けた」
「雪?」
「ええ、多分。あ、また。ほら」

鼻先に清四郎の手のひらが差し出された。
ほんの一瞬、白いフワフワした綿のようなものがあり、でも、すぐにそれは滴に変わった。

「雪。珍しいね」
「積もるかな?」
「まさか」

二人で清四郎の手のひらを見ながら話す。
気づくと、また真っ黒な瞳に出逢った。
嬉しくって見とれていたら、ほっぺたが熱くなるのが分かった。
恥ずかしくなって、また空を見上げる。

「ホワイト・クリスマスも憧れだけど、星いっぱいのクリスマスもいい。キラキラして、好きだな」
「空気が澄んでいる冬の夜空は星が綺麗に見える。確かにホワイト・クリスマスも良いけれど、星空がオーナメントならロマンティックですね」

いつになく優しい声色に、思わず清四郎を振り返る。

「ね?」
「う、うん・・・」

その瞳の輝きは清四郎から発しているのか、それとも外灯のせい?
薄暗い通りの視線の先に見える清四郎の瞳は、冬の星空よりもキラキラしていた。




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あいたくないわけじゃない

この間清四郎に言ったんだ。
放課後の生徒会室で、メンバーは他にいなくって、あたしは自分で考えてもみないことを言っていた。

「あたし、清四郎が好きだな」

その時、どんな会話をしていたかちょっと覚えていない。
なんか、食べ物のことだったか、好きなアニメとか、音楽のことだったかもしれない。
だからホントは、

「あたしもそれ、好きだな」

だったかもしれないし、

「あたしも清四郎とおんなじ、好きだな」

だったかもしれない。

けれど、清四郎の返事は鮮明に覚えていて、こう言ったんだ。

「その好きって、友達としてでしょ?友達として、大切だって意味でしょ?
それなら僕も同じで、悠理のこともみんなのことも同じくらい大切ですよ」

うん・・・そうだよね。
そう、あたしもおんなじ。

みんなおんなじ

この会話からもう一度記憶をたどってみると、どうやら食べ物とかアニメとは思えない。
やっぱり“清四郎が好きだ”と言ったんだろうな、たぶん。

なんでそんなことを言ったんだろう。
どんな会話から、そんな展開になっちゃったんだろう。
清四郎は普段と変わらない顔でさっきの返事をしたんだけど、それってどんな気持ちで言ったんだ?
そこんところを考えると、なんだか胸が苦しくなっちゃう。

好きってことでもない、でしょ。
まぁ、仲間として大切。
たぶん、たぶん・・・きらいって、言えなかったんだ・・・と、思う。

どうしてそう思うかと言うと、この間もテストの結果が悪くて説教されて、言い返したらケンカになって。

「悠理といると本当に疲れる、悪いけど」

って言われたもん。

・・・・・

まぁ、いいさ。
しぱらく距離をおいて、会わなきゃいいわけで。
ホントは今日、生徒会活動がある日だったけど、サボっちゃった。
なんだか、会いたくないもんね。
けど、今、ラインが届いて、見てみると清四郎だ。


今日中に提出してもらいたい運動部の書類があったのにサボるなんて。
何のつもりだ?

何のつもりって?

悠理は部長の自覚がなさすぎ。

めんどくさー

最近のおまえは

でラインが切れる。
ん?
着信だ、やっぱりね。


「どうして来ないの?前から言ってたでしょ、今日は運動部の来期見積もり提出日だって」
「だってさ~」
「だってとは何だ」
「だっていつも清四郎がやってくれるじゃない」
「でも、いつも悠理も一緒にやるでしょう」
「そうだけどさ・・・」
「うん、ねぇ」
「だからさ。あの、行きづらいって」
「私情を挟むな」
「・・・・・」

・・・・・

「ふうむ。あのね、悠理。別にお前を嫌いだとか、もう会わないとか、近くにくるな、何て言ってないでしょ」

ぐっさぁ~。

「僕達は仲間なんだから、何も変わらないし、これからもそうでしょう」
「う~ん」
「うん、ね?」
「まぁ、ねぇ」
「好きで大切って、僕はすごいと思う。他人に対してこれだけの感情を持てるって、本当に特別だと思う」
「う、ん」


あたしは・・・とくべつ・・・?


「僕も悠理が好きですよ。仲間として友達として・・・一人の人間として」
「!!」
「バカで大食いで空気読めないこと多いけど」
「えー!!なんだよっ!」
「でも僕にないいいところをたくさん持ってるし、仲間をとても大切に思っているし、僕よりもスピードがあるし」
「うん。ん?」
「実はここだけの話、尊敬できるところもあったりして」
「ん?え?」


珍しくペラペラよくしゃべる。
このままだとうまく流されちゃう・・・


「ねぇ、結局、行かなくてもいいんでしょ?今日」
「悠理は自分が尊敬されてるところを知りたくないの?」
「尊敬って・・・」
「悠理が尊敬されてるんですよ、この僕に」
「この僕って、ずいぶん上から目線だな」
「知りたいでしょう。この僕が悠理を尊敬するんだから」
「あとでいいよ。ロクなこと言わないんだから」
「そんなこと、ありませんよぉ」


そして、
まずいいから来なさい、だって。

今さらあの日のこと、むしかえしたくないのに。
聴きたくない言葉はいらない。

でも電話のあとで届いたラインにこうあった。


来ると、悠理にとって良いことがあるから。


ふーん、行かないわけにはいかない、かもね・・・





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