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2018年01月

I thought she knew

やけに底冷えがする日で、珍しく雪でも降りそうな気配があった。
窓から空を見上げれば一面に雲が覆われていて、昼過ぎにしては辺りは暗い。
夕方まで持つかどうか、外出が億劫に感じられるほどの冬の日。
けれど億劫になる理由はもうひとつあって、それは幼馴染みの女友達の家へ訪問しなければならないからだ。
彼女の家に行くのは数年振りになるかも知れない。
高等部を卒業して、それぞれの将来に合った大学へ進学した。
僕はもちろん、医大。現在は地方研修医として学んでいる。
そんな別々の道を歩むなか彼女を訪問するには理由があり・・・つまりは、僕の久しぶりの帰省に自分から再会を申し出たのであって・・・億劫もなにも、すべては自分が原因だった。
再会の億劫さは寒さや雪も理由のひとつであることは変わりないけれど、本当の原因は、大学に入った最初の夏休みまで遡る。

その頃はまだ時間に余裕があり、夏休みも休暇を楽しむことはできた。
それでも高等部の頃のように頻繁には出かけられなかったが。
二泊三日で彼女の両親が所有する避暑地の別荘にメンバー全員で遊びに行った。
久しぶりの再会と小旅行に皆がはしゃぐ。
近くには湖と温泉街があり、水泳と温泉と食品の買い出しに困ることはなかった。
メンバーそれぞれの都合もあって、当日は現地集合にしていた。
僕はもう一人の幼友達の野梨子と可憐とで新幹線とバスで乗り継いだ。
以前にも利用させてもらった場所なので、迷うことなく一番に到着した。
続いて美童。その時の恋人に送ってもらったと言って、自慢話に三十分は付き合わされた。
そして最後に到着したのは魅録と、彼の大親友の悠理だった。

「よお、久しぶり!」

彼は変わらない笑顔で僕を見る。
その横にいる悠理も、笑顔で僕を見ている。
にっこりと、どこか自信に満ちた感じで・・・

「変わらないですね、お二人さん」
「みんなもそんなに変わってないんじゃない?野梨子とわたしは高等部の続きみたいな感じだし。美童は帰国してたけど、ま、いつものことよね」
「魅録は防衛大で、時間的にキツいでしょう?」
「ちょっとは。でもいろいろ優遇されてる」
「清四郎はどう?」
「忙しくなってきました。悠理は?野梨子達と同じでしょ?」
「あたしは今、豊作兄貴と海外をブラブラ。一応語学留学らしきことをしてる」

僕達は一通りの現況を話し、それからそれぞれに担当を決めて買い出しに行った。
珍しく僕と悠理が組みになって日用品の担当になった。
時間にも余裕があったので、僕と悠理は湖や温泉街を散策しながら日用品を買いそろえることにした。

「語学留学の成果は?」
「まだまだ。この数ヵ月で学んだのは、日常会話は単語とジェスチャーで十分ってことかな」
「あはは。悠理らしい。ずっと日本を離れてたの?」
「ううん。ちょこちょこ帰ってるの。魅録にも週末は会えてる」
「そう?魅録とは・・・変わらないんですね」

その時、僕の言葉を遮るように風が吹いた。
ぴゅうっと小さな音をたてて、僕達の前から湖畔へ抜ける。

「え?」

悠理が、僕に何かを伝えたようだった。
彼女を振り返ると、さっきの別荘で僕に見せた微笑みを浮かべる。
それですぐに分かった。
彼女が何を伝えたのか、聞き返さなくても、すぐに。

魅録と、一線を越えたんだ。

彼女の笑顔はそう僕に伝えていた。

ちょっと遅かったんだよ。

言葉は聞こえなくても、分かった。


「遅すぎたんですね」

商店街へと通じる遊歩道を歩きながら僕は彼女に言う。
彼女は何も答えなかったけれど、意識するように少し伸びた柔らかい髪の毛をかきあげながら僕の視線から逃れた。


彼女とは幼稚舎からの腐れ縁で、中等部に入るまではあまり良い関係ではなかったけれど、全くと言って良いほどの繋がりがあって、時と共に心地好さを感じていた。
視線を向けると僕から逃れるように背けるくせに、気付けば彼女は僕を見ていた。
僕はそれを“好意”と感じ、いつの日か“恋”に変わっていた。
彼女もそうであろうと思ってはいたし、実際、そうであった。
けれども“行為”に移ることはなかった。
高等部を卒業する頃、僕は彼女に言った。

「何年先になるか分からないけれど、待っていてくれるかな」
「確信がないなら、ムリかもしんない」


両手に荷物を持ち、湿度を帯びた風を受けながらさっき来た道を辿る。
美しいはずの風景も、何だか無意味に思えた。

「本当に遅すぎたのかな?それとも、僕の思い違いだろうか?」
「何も言わないから悪いんだよ。あたしだって、女だもん」
「言わなくても、通じていると思ってた。本当に」
「確信がないから、ムリだったんだ。自信ないよ。清四郎だもん」

僕達は立ち止まり、初めて向き合った。

「言えば良かった。けれど、そんなに簡単に気持ちって変わるものなの?」
「変わるって、何が?」
「だから、僕がムリだから、その、魅録になった?」
「まさか。魅録は清四郎とはまた別で、特別だもの。それに魅録は、あたしに言葉で伝えたんだ」
「ふうん」
「魅録なら、あたしを大事にしてくれるって知ってた。出逢った頃からそうだったし、つるんでた時もそうだったし。今でも、守ってくれるもん」
「そうですか。そう、ですよね。僕は、いつも見ているだけだった。悠理なら大丈夫って思っていて」
「言葉で伝えなきゃ、分からないことってたくさんあるよ。特に想いは・・・」


玄関を出ると、ちらちらと雪が舞っていた。
なれない寒さに、思わず弱気になるけれど、歩いて向かうことにする。
歩くことで時間が稼げるし、考える時間もできる。
でも、思いはまとまらないまま、彼女の家に着いた。
インターフォンを押せば、名乗るだけでドアが開いた。

「どうも。久しぶり」
「ご無沙汰してます。元気?」

僕を玄関ホールに招き入れ、腕を取るように自室のある二階へと進む。

「おじさん達も元気にしてますか?」
「もちろん、もちろん」
「魅録は?変わらない?」
「元気だけど、忙しいって、全然会えてない。その内、清四郎とおんなじくらいしか会えないかもよ」
「ふうん」

彼女の部屋は相変わらず広々していたが、以前の奇抜な雰囲気はなく、同年代の女性らしい部屋になっていた。
所々にある大きなぬいぐるみは、唯一彼女らしい物だった。

「ねぇ、久しぶりにさ・・・」

楽しそうに僕を振り返る彼女の言葉を遮る。

「今日はどうしても伝えたいことがあってね」
「ん?」
「来てすぐで申し訳ないけれど、素直な答えを訊きたくて」

驚く風でもなく、次の言葉を待つ。

「もしあの時、僕が自分の想いを言葉で伝えていたら、悠理は応えてくれたの?」

僕の言う意味を、彼女はすぐに理解したようだ。
それほど、僕達にとって大切なことだった。

「うん・・・あの時は、応えたと思う。子供だったし、単純に嬉しいし、清四郎が好きだったし。けど・・・」
「けど?」

避暑地の湖畔で向き合ったように、彼女は僕に体を向ける。

「あたしだって少しは成長して大人になったよ。だからもしあの出来事が今なら、すぐに答えは出せないよ」

彼女は分かっていた。
僕が今日、会いたいと言った理由が。

「魅録とは平行線の関係だと、野梨子から聞きました。魅録は忙しいし、今は仕事を一番に考えたいと言っているけれど、それよりも悠理が前に進みたがらないのに理由があるんじゃないかと」
「清四郎がネックなんだよ」

彼女はストレートに言う。
気持ちを包み隠さず、言葉を濁さずに。

「魅録は特別なんだ、あたしにとって。今までも、これからも。大好きなんだ。一緒にいると安心するしね」
「特別な存在」
「うん。特別」
「じゃあ、なぜ僕はネックなの?」
「魅録は現実的に繋がってる。清四郎は、心が繋がってるって感じる」

初めて、胸の痛みを覚える。

「だから選べない。どっちの方がどんくらい好きって分かんない。だってどっちとも繋がってるし、繋がってたいし」
「心は永遠と思える。そして失われない」

彼女はあの避暑地での微笑みを僕に与え、細く長い腕で僕を抱き締めた。

「あたしのことは待たないで。魅録にもそう伝えてる」

また、胸の痛みを覚える。

「ごめん。でも、そうして」

僕も彼女を強い力で抱き締める。
二度と、離れないように、繋がったままでいるように。

「心が繋がっていると言うのなら、僕は永遠に待ち続けたい。例え現実に繋がっていなくても」


彼女の自宅を出るとき、雪は本降りになっていた。
水分を多く含む雪で通りは白く覆われていたが、日中の寒さはおさまっていた。
この雪は多分、春を迎えることを予測している。
僕は足元に意識を集中して歩きながら、複雑に絡む僕達の関係にも春が訪れることを願った。




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