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2018年11月

秋の気配

さっき、数年ぶりに男友達に会った。
偶然出会えた訳ではなくて、電話が急にきて、

「帰省したから、買ったばかりの姉貴の車でドライブしよう」

と誘われた。

「これまた急だね」
「そう。急に休みが取れたから帰ってきたんだけど、捕まるのって悠理くらいなもんでしょ?
誰彼誘うよりいいかなって思って」
「ふうん。嬉しいような、ヘンな感じ」

そうしてあたし達はドライブに出かけた。
真っ赤なボルボは和子姉ちゃんの新車。

「怒られないの?買ったばっかりの車でドライブなんてさ」
「大丈夫、大丈夫。全然乗ってないんだから。たまに動かさないとね」

確かに、自宅と病院は隣りあわせ。
雨にだって当たらないで着いちゃう。

「わぁ、紅葉だぁ。今が一番だね」

高速道路は北へ北へと向かっている。
街並みをずっと離れ、窓の外はどこか懐かしい景色になる。
あたしは口に出さないまま、この気持ちをずっと心の中に抑え込む。
だって、その気持ちの理由、あたしは知っているから。

あたし達はお互いの近況を話し、近い将来について伝え合った。

「いずれ地方研修医が終わったら、親父さんの病院に来るんだね」
「ええ、その予定です。姉貴は嫌がっているけど、本心ではないのは分かってますからね」
「きっと、待ってると思うよ」
「ええ。悠理は?豊作さんのアシスタントはうまくいってる?」
「この通り。けっこう融通がきくけど、出張となれば別かな」
「でも慣れて、でしょ?」

うん、まぁ・・・と言いかけて、あたしは窓の外にくぎ付けになる。
懐かしい風景。知っている風景。

「この高速道路を通って、よく魅録と出かけたんだ」
「知ってる。その度に、僕に話してくれたね」


もう、五年以上前の話だ。
魅録は防衛大に入って、忙しくなったんだ。
それでも最初の内は、長期の連休を利用してドライブに連れて行ってくれた。
新緑の時も、草木が生い茂る夏の日も、色とりどりの紅葉の時季も、葉っぱが枯れた冬の初めにも。
確か最後の日は、夏がすっかり終わった秋の日だった。
あたし達はいつも通りの高速道路を走り、お気に入りのレストランのある街で降りた。
昼を過ぎたばかりだと言うのに、弱く低い陽射しが色づいた木の葉を照らしていて、何だか淋しい気持ちになったんだ。
レストランの駐車場には数台の車が停まっていて、それすらも物悲しく思えた。
あるいは、このレストランで伝えられるだろう事を感じていたのかも知れない。
ランチメニューをそれぞれ注文し、待っている間、普段は弾むはずの会話は途切れがちだった。
魅録に変化があったのは分かったけど、言葉に出して訊けなかった。
テーブル越しに目が合うと、困ったように微笑んだ。

「今日は悠理に話があるんだ。大事な話だよ」
「うん」

その時の事は詳しくは覚えていない。
もう何年も前の事だから。

結局はこういうコト。 
つまりは・・・今までのような関係は続けられないって。
自分はこれからいろんな経験を積みたいし、長期の休みを利用して留学をしたり、より多くの場所でたくさん学びたいって。
あたしとの時間は貴重だけど・・・

「悠理との時間は貴重だけど、今できる全ての事にチャレンジしたいんだ。ごめん、だけど」
「あっは!ナンだ、そんなコト、ごめんじゃないよ。二度と会えなくなるわけじゃないし」
「うん」 
「今よりも遊べなくなるだけじゃん」
「・・・・・」

本当は気付いたんだ。
魅録は、自分が納得できるまで、あたしと遊ぶ気なんてないってこと。
味も素っ気もないランチを食べ、喉を通りにくいデザートをスプーンですくい、温かな紅茶を飲んだ。

「他の誰かを好きになったわけでもないしね、魅録」
「・・・・・」

自分でもびっくりするくらい、女の子な質問をしたっけ。
あの時記録は何も答えなかったけれど、今思えば、答える事ができなかったんだね。
心はそうでなくても、無意識に、あたしから離れたいと感じたのかな。

あたし達はレストランの二階にある資料室に行った。
レストランの利用は頻繁だったけど、資料室に上がるのは初めてだった。
料理の味はもちろん、レストランの古い洋館のような外観もあたし達は大好きだった。
資料室には、その建物のリノベーションに至るまでの歴史が描かれていた。
帰り際、一階と二階の踊り場で少しだけ魅録と話をした。

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窓の外は夕方の気配がした。
そう、秋色の夕焼けがあたりを支配していた。
凄く冷ややかな空の色だった。

「悠理の事は今までもこれからも変わらず大切な親友さ」
「うん、ありがと」
「しばらくは会えなくなるけど、また時間ができたら遊ぼうな」
「りょうーかい!!」

ほんとは泣きたいほど悲しかった。
魅録はあたしの事、友達以上には思っていないって分かったから。
そして何より、自分が魅録に恋してたって、実らない恋心を抱いていたって初めて知ったから。


「立ち直るまで、五年もかかったんだよね」
「ああ、そうでした。ついこの間まで、僕に頼ってばかりだったね」
「ええ、そうだったかなー。最初の内だけだったんじゃないの?」
「僕も勉強が忙しかったから、メールや電話でのお相手でしたけどねぇ。
つまんない、つまんないって言って、お前、勉強でもしろって思いましたよ」
「あはは」
「けれどある日を境に、メールのニュアンスが変わったんです。
どうだったかな、うまく説明できないけど、もう大丈夫って思ったんです」
「うん、そうかも。あたしもいつの時点でスイッチしたのかは忘れちゃったけど、不思議なくらいもう平気って思って」

赤いボルボは、変わらない外観のレストランへと到着する。

「もしあの時、ここに清四郎と来たら、きっと心が折れちゃてダメだったかもね」

あたし達、あたしと清四郎は、レストランにはまだ入らずに周辺を散歩する。
綺麗に色付いた葉とは対照的な落ち葉は枯れ、靴底で踏むたびに気持ちの良い音がした。

「そんな事しませんよ。僕は魅録じゃないもの。悠理が傷付くだけでしょ」
「ふうん」
「それにね・・・」

色付いた木々が並ぶ遊歩道に、細く淡い陽射しがあふれている。
この道を歩くのは初めてだけど、懐かしくて戻って来たっていう不思議な感じが起こる。


「いつまでも同じ状態なんて続かないんです。必ず、時間が解決します。
悠理は必ず立ち直るって、僕は信じてました」
「うん、そうだ。その通りだった」

清四郎は立ち止まり、それからあたしを見つめてにっこりと微笑んだ。

「大丈夫、大丈夫。もう、大丈夫。でも僕はこれからも悠理に何があったって、いつでも傍にいるつもり、ね」

あたし達の間に秋の陽射しが届き、どこか遠くで知らない鳥の鳴き声がした。
さ、お腹すいた。ご飯を食べに行きましょ、って清四郎は、あたしの背中にポンッと手を当てた。





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