FC2ブログ

2019年01月

元旦にて

初詣の帰り、僕はメンバーと別れて野梨子と共に帰り、彼女の家に寄った。
彼女は少しだけ風邪をひいていて、メンバーと食事の約束をしていたが体調を考えて帰宅すると言ったからだ。

「あら、良いんですのよ。清四郎は皆と一緒に食事に行かれて」
「気にしないで下さい。僕も同好会の資料を4日までに仕上げないといけなかったので」
「そうですの。それなら仕方ないですわね。悠理達、楽しみにしていたでしょうに」
「野梨子の体調と僕の資料が終わればまた行けますよ。気にしない、気にしない」
「分かりましたわ」

彼女の家の居間に通されると、彼女はすぐにお茶を淹れに台所へ向かう。
居間は暖房が効いていて、外の寒さを忘れるほどだった。

「お茶、と思いましたけど、ココアにしましたわ。体の中から温まりましてよ」

ありがとう、と言って僕はカップを受け取る。
白いコーヒーカップには、クリームがたっぷりのココアが入っていた。

「野梨子、さっきおみくじを引いていたでしょ?何が出ました?」
「まだ見ていませんの」

カップを口元に持っていた彼女の頬が急に赤くなったのが分かる。
びっくりしたように僕を見て、それから目を閉じて受け皿にカップを戻した。

「誰も気づいていないと思っていましたわ」
「皆と離れた所で買っていましたから。“恋のおみくじ”」
「見ていたんですの?声をかけて下さった方が良かった」

彼女は拗ねたように目を逸らす。

「隠れるようにして買いに行っていたから。声をかけにくかった」
「誰にも言っていませんでしょう?“恋のおみくじ”のこと」
「ええ、もちろん。これから先も言いませんよ。で、いつ見るんですか?」
「今見てきますわ」

席を立ち、彼女は部屋を出る。
僕も追うようにして部屋を出た。
思った通り、彼女は縁側奥の茶室にいた。

「大吉?」
「・・・・・」

冬の茶室はひんやりしていて、まるで外にいるようだ。
炉に炭を起こしたら良いのに。

「恋のおみくじは誰と?」
「誰でも良いじゃないですか。清四郎には関係ありません」

彼女はかなり気に障ったようだ。
結果が悪いのが余計にそうさせるのか、僕にずっと背を向けている。
けれどそんな彼女を、僕は更に問い詰めてみたくなる。

「僕は知っているんですよ。野梨子の恋の相手を」

野梨子は僕を振り返り、冷たい目で睨んだ。

「随分意地がお悪いんですのね。子供の頃はとっても優しかったのに」
「むしろ野梨子、どうしてそんな言い方をするんです?僕のどこか意地悪だと?僕は野梨子の好きな人を知っていて、さっきのおみくじにその相手を重ねているんでしょうと思っているんですよ。おみくじの結果が良ければ僕も一緒に喜ぶだけでしょう」
「相手を知っているならなおさら、私の想いが届かないのも知っているくせに」
「そんな事、誰が決めるの?相手の本当の気持ちなんて誰も分からない」

思いつめたように大きな深呼吸をして、それから茶室の奥にある小さな床の間を見つめる。
可愛らしい雛人形の掛軸が飾ってあり、多分、野梨子がそうしたのだろう。

「あの人は私の事なんてどうも思ってないですわ。あの人の好きな人は、いつも一緒にいる悠理。彼女しか見ていませんもの」
「今はそうでも、これから先はどうなるか分からない。今は一緒にいて、好きな事をして楽しんでいるからそう思うだけで、いつか将来を考えた時、全く別な誰かを想うかも知れない。遊んでいて楽しいのと、生計を立てるために必要なのとは違う。まして悠理は奇抜過ぎる」
「悠理は特別ですわ。他とは比べ物にならない」
「そうですが」

それから野梨子は、静かに泣き始めた。
顔を覆い、肩を小さく震わせている。

「悠理の幸せを願わない訳ではないんです。でも私はそこまで大人ではありませんし、寛大にはなれない」
「僕の前では正直でいてよろしいんです。安心なさい」

震える肩に触れる訳にはいかない。
あるいは単純に、この部屋が寒過ぎるだけなのかも知れないのだから。

「おみくじの結果を信じる、信じないは自由ですよ。くじや占いは運命を好転させるための手段でもあるのだし」
「そんな事、最初から分かってますわ」

今度の彼女は泣いてはいなかった。
だからと言って諦めたふうでもない。
ただ前を見つめ現実を見据えている、そんな感じがした。




拍手・ランキングへのクリックをありがとうございます!
ランキングへ参加しています。
にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

二次小説ランキングへ





スポンサーサイト