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まどろみの中で 前編

注:文章中に一部、お若い方には不適当な表現があります。10代のお若い方やそのような表現が受け付けられない方はお引き取り下さい。読後の苦情も受けません。






きっかけはなんだっただろう。
確か保健体育のテスト範囲を勉強している内に、中学時代までさかのぼってしまったのが原因だったかも知れない。
男女の体躯の違いや、その機能について。
清四郎から指導を受けている内に、二人の新しい関係が生まれた。





まどろみの中で  前編 





清四郎の姉、和子が医大の友人と出掛けて遅く帰宅した時、それを聞いた。
聴こうと思って聴いたのではない。
自分は帰宅後に夜食を軽くとり、ゆっくり入浴をし、大分リラックスしていた。
明日は休みだし、ベッドの中で目を通さなくてはならない資料を手にしていた。


隣の部屋で、隣の弟の部屋で有り得ない声が聞こえる。
普段聞こえるはずが無い、女の嬌声。
耳を壁に押し付けると、ベッドの軋む音や衣擦れの音まで聞こえてきそうだ。
彼女は驚きの余り口元を両手で覆った。


まさか、まさか・・・有り得ないわ。

確か今夜は、弟の親友の一人である少女が、来週末行われる期末テストの為に弟を訪れていると先程母親に聞いた。

まさか、弟が・・・そんな事をあの子と!?


和子は身じろぎも出来ずにじっとベッドに座り込んでいた。





悠理は隣でぐっすり眠っている男の乱れた黒髪に触れ、色の悪い頬へと指を滑らせた。
滑らかな頬は、男のものとは思えないほど綺麗だ。
その指を今度は自身の頬へと触れる。
滑らかで、柔らかい。
やはり自分は女なのだと思ってしまう。
彼とこういう関係を持つようになってから彼女は充分に感じていた。
どんなに普段男の子のように振舞っていても、自分は女なのだと。
小さく動く度に、先程の激しかった性交の匂いがシーツから放つ。
彼女はもう一度男の顔を見つめる。
憎らしいほどに、無表情で眠っている。
でも彼の腕は、彼女を抱くように胸に腕を回していた。

とても、暖かい。


このままこのベッドの中で朝までまどろんでいたい。
腕に抱かれたまま、じっとこうしていたい。

でも、出来る訳ない。
早くここから出て、階下の部屋に用意された布団に潜り込まなくてはいけない。
ひんやりとした、真っ白なシーツに包まれて。


何故なら二人には、語らない不文律があった。

誰にも言えない二人の関係について。
互いすらも知らない感情について。


彼女の胸はただ痛んだ。


「清四郎、あたし下の部屋に行く」
「ん・・・ああ・・・」

彼は寝惚けたように答えると、悠理から腕を解いて背を向けた。

そっとベッドを出る。
スタンドの仄かな明かりの中で乱れた下着を直し、ベッド下に散らばった服を手探りで着る。
エアコンディショナーがカタカタと言いながら、真っ青な光を小さく放っている。

いつまで続くんだろ。
こんな事、いつまで続けるんだろ。
明日、こいつの家族の前で普通に振舞えるか、分かんない。

もう、限界だよ。

このまま帰ろう。
どこかでタクシーを拾って。

音を立てないように彼の部屋を出た。



気配に気付き、和子は急いで自室のドアを、でもそっと開けた。
弟ではない、その細い影が静かに階段を降りようとしている。
手に大きなバッグを持って。

「悠理ちゃん?」

和子が声をかける。

はっとして振り返る顔は、普段の彼女のものとは違って見える。
違って、愁いを帯びた美しい女性そのものだった。

「待って。どこに行くの?」
「帰る」

翻って階段を降りようとする彼女の腕を、和子は素早く掴んだ。

「悠理ちゃん、ねえ待って」
「や、やだ」

腕を払おうとするも、強く掴まれて離れない。

「痛いよ、放して」
「お願い、悠理ちゃん。ちょっと待って、ね?私の部屋に来てちょうだい」
「もう帰るから」

次第に二人の声が大きくなり、その所為で清四郎が目覚めて部屋から出てきた。

「姉貴?」

柔らかなスウェットの上下姿と乱れた黒髪が、先程の激しい記憶を悠理に呼び起こした。

「悠理、そんな所で何してる?」

彼女は何も応えず、和子の手を払おうとばかりしている。

「どうしてこんな時間に帰るの?」
「だって・・・勉強を教わってたら眠くなっちゃって。
気が付いたらこいつも寝てたし、だから帰ろうって・・・」
「お母さんが下の部屋に悠理ちゃんのお布団を敷いていたのよ。知ってるでしょ?
・・・もっと、別の理由があるんじゃない?」
「・・・・・」
「清四郎、あんた達、どんな関係なの?」
「!!」

かっと赤くなる悠理。

「友達だよ。そんなの、ずっと前から知ってるじゃん」
「もっと、深い関係なんじゃない?」
「何を根拠に、姉貴は・・・」
「根拠?あんたの部屋に行けば全てが分かるんじゃない?」
「!!」


「和子さん?どうしたの?何の騒ぎ?」

階下から、彼等の母親の声が聞こえる。

「お母さん、何でもないわ。悠理ちゃんがちょっと寝ぼけちゃっただけ」
「そう?早く休みなさい。もう遅いわ」
「ありがとう、おやすみなさい」

母親は気にする様子もなく、自室に戻ったようだった。

「二人とも、私の部屋に来なさい」
「や・・・お願い、帰して」
「ダメよ。清四郎、早く私の部屋に」
「今夜は遅いから。悠理、下の部屋に」
「やだ」

悠理はべそをかき始めた。

「清四郎早く!なんならあんたの部屋に行く?」

清四郎は喉を鳴らし二人に背を向け、和子の部屋へと向かう。
和子も、もう抵抗しない悠理の腕を掴んで清四郎に続いた。

深く突き刺さる痛み。

悠理の胸は痛んだ。
苛立ちを隠せない清四郎の表情に。
一度足りとも自分を庇おうとしない態度に。
ただ、胸が痛んだ。


「あんた達には、がっかりしたわ」

泣きじゃくる悠理をベッドの端に座らせ、その肩を和子は抱きながら摩り続ける。
悠理から、清四郎に抱かれた後の硝煙反応のような気配が伺えた。

「清四郎、どう言うつもりなの?」
「・・・・・」
「責任あっての事なのかしら?」

彼は俯き、唇を噛んでいる。

「返事によっては、許さないわよ」

声を上げて泣く悠理を、彼は一度として見ようとしない。
その態度に、彼女は悲しさを覚えずにはいられなかった。

なぜ?

何故自分はこんない悲しいのだろう。
何故こんなに辛く淋しいのだろう。


「悠理ちゃん、大丈夫?清四郎、何も答えられないの?」
「・・・・・今夜は、彼女を帰してやってくれないか?僕がタクシーで送るから」
「彼女は私が車で送るわ。あんたは何も答えられないのね?」
「姉貴には答えられませんね。これは僕達の問題だ」
「悠理ちゃん・・・あなたは、どうなの?」

顔を覗き込み、優しく問いかける。
悠理は首を振りながら泣きじゃくるばかり。

「悠理は、何も悪くない。彼女は僕に、一度たりとも求めた事はない。僕が勝手にした事だ」
「や、やだ・・・もう・・・」
「あんた達は、気持ちがあっての事じゃないの?」

「あたし、帰る!!」

耐えられず和子の腕を払い立ち上がると、悠理はバッグを持って部屋を出ようとした。
清四郎は直ぐに彼女の元へ走り寄る。
彼女の細い肩を乱暴に掴んで振り向かせ、自身の両手を壁に突け動きを封じた。
驚いて見上げる彼女の頬には、いくつもの涙の痕があった。

「悠理、タクシーで家まで送りますよ。朝になったら、もう一度お前の家に行きます。
そうしたら、お互いの気持ちについて、一緒に考えましょう」

もっと、単純なコトじゃないの?
そんなに入り乱れたコトなの?

「あんた達がどういうつもりで付き合っていたのかは知らないけれど・・・とにかく今は、私が彼女を自宅まで送るわ」
「姉貴、それは僕がやる」
「ダメよ、ダメ。きちんとした関係を築けるまで、あんた達は会っちゃダメ」

和子は清四郎を制した。
悠理のバッグを持ち、彼女の肩を抱くように部屋を出て行く。

「悠理。明日、朝になったら必ず行くから」

ドアの傍で彼が言う。
でも悠理は、振り向く事が出来なかった。




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