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outsider 5-3

outsider 5-3





グラスの中に新しいスコッチが注がれ、それと同時に魅録は煙草を揉み消す。
苛立ちを感じさせる行為ではない。
彼の中に、僕への告白に葛藤があるのだ。
しかし彼は、ゆっくりと口を開く。

「高校を卒業して大学に入って、皆がばらばらになってさ。
俺達ほとんど会う事がなかっただろ?
多分あの頃から、あいつの感情は狂い初めていたんじゃあないかな・・・」

狂う?

「俺達がばらばらになるなんて、あいつの中では考えられなかったんだ。
大学を卒業してさらに俺やお前の仕事が忙しくなり、美童が帰国し、野梨子と可憐がそれぞれのパートナーを見つけて。
もちろん、あいつ自身も両親の仕事を手伝って忙しくはしていたけれど、あの通りの性格だろ?
落ち込む上に、誰も頼る奴がいなかったんだろうな」
「かなり、荒れたんですか?」
「いや、健気に仕事を頑張っていたさ。でもな・・・精神的に参ってるって、誰もが感じた。
だから、何とかしてやらなきゃって思ったんだ。
俺だって仕事が忙しいけどよ、あいつを放っておけなかった」

魅録の言葉は、僕の心を突き刺した。

「俺は・・・ずっと前から、あいつと出会った頃から、特別な感情で見ていた。
だから、苦しんでいる姿を放ってはいられなかった。
“こいつ、このままだと本当にダメになる”俺はそう感じて、悠理に結婚を申し込んだ」

そこまで話すと、彼はスコッチを一口だけ口に含む。
舌の上で転がすようにしてからゆっくりと喉の奥に流し込んだ。

「結婚する事で、悠理が精神的に少しは楽になるかと思ったんだ。
束縛するんじゃなくて、時々傍にいてやるだけで、あいつが癒されるんじゃないかって。
でも・・・・・
結婚して一緒にいるって事は、今までのような友人関係ではない訳で・・・・・」
「気の毒に・・・」
「それが終わりの始まりだった」

彼の言葉は、どこか震えていた。

「悠理は、自分の事だけを真剣に考える事に慣れきっているんだ。
そのおかげで、他人の不在がもたらす痛みと言うのを、想像出来ないんだ。
こんなにもあいつの事を想っている俺が目の前にいるのに、あいつの中には、俺なんて存在しない」

冷たい表情で僕を見つめる。

「あいつが求めているのは、俺ではない他の誰かだ。
あいつが抱かれたいのは、他の誰かの腕だ。俺ではない・・・」

僕は黙って見つめ返す。

「結局のところ、悠理はスポイルされきっているんだ」

彼は声を荒らげたいのを抑えているかのようだ。

「でも、俺は悠理を愛している。例えあいつが、俺の何もかもを傷つけまわったとしても、俺はあいつを手放すつもりはない!」

深く長い溜息の後、彼は自分の両手を見つめた。
そこに彼女の気配を感じる事はない。

「結婚しても、救いのない日々が続いていた。あいつはいつも疲れきっていて、俺を見ようともしなかった。
俺が何かを訊ねても、口を閉ざしたままだった。
俺に抱かれても・・・・・義務的に行われるだけだった」

僕は魅録から決して視線を逸らさなかった。

「悠理があんな風になった原因は、倶楽部の連中がばらばらになったから。
でももっとずっと奥の所に真相があって、高校卒業と共にただ引き起こされただけに過ぎない」

彼は両手を強く握り締め、それから脱力したように両膝の上に置いた。

「子供でもつくれば、少しは変わったのかも知れないけどさ。でも・・・無理だ」

しばらく沈黙が続いた。
彼はソファに身体を投げ出し、じっと天井を見つめていた。
店内の照明が、彼のくすんでしまった髪の毛を映し出す。

「本当は相談なんかじゃあねぇんだ、清四郎」
「え?」
「聞きてぇ事があったんだ」

魅録は体勢を戻し、僕をじっと上目遣いで見つめる。

「・・・・・」
「この間、お前、悠理と・・・なんかあったのか?」
「いいえ、何もありませんよ」

僕は即答する。

「ある訳ないじゃないですか」

ある訳ない。


互いに惹かれ合っていた学生の頃から、僕達の間には何も起こってはいない。
互いの存在を意識し、互いが想い合っていると知りながら、僕は何も行動に移せなかった。
何故なら、彼女が僕と共にいる事で幸せになれると感じなかったからだ。
“二人でいられるのなら”何て何処かの世界の事で、現実では有り得ないと考えていたから。
そして何より、彼女もそうだと思っていたから!



あの日、結局僕達は肉体を交ぜ合わせる事はなかった。

あの時の彼女の感情の抑制をするのはとても不自然な事のように感じられたのだが、結局はそれで良かったのだと思う。
もしもっと状況を押し進めていたとしてら、僕達は進退窮まる感情の迷路に追い込まれた事だろう。
そして僕がそう感じている事を彼女も理解出来たと信じている。

何故僕との再会で、彼女の心に一条の光が射し込まれたのかは分からない。
あるいは僕との再会で、僕に対する想いに終止符を打つ事が出来たからなのかも知れない。



「そうか・・・・・」

魅録はジャケットの内ポケットからボールペンを取り出し、テーブルの上にある紙ナプキンに何かを書き込み始めた。
紙は湿り気を帯びていて、書き難そうだった。

「そのうち悠理に電話をしてやってくれ。
あんたが言うように、この間何もなかったのかも知れないけどよ、あいつにとってはいい刺激だったんだ。
今のあいつには、そういった刺激が必要だと思うんだ」

彼は僕に、二人が住む自宅の電話番号が書かれた紙ナプキンを渡した。

僕達は店を出ると、それぞれに別れた。
それぞれに・・・しなくてはいけない仕事が山ほどあるのだ。





僕はまだ彼女に電話をかけてはいない。
時々あのホテルのプールに行っても、彼女と出会うことは無かった。
僕の中にはまだ彼女と重ね合った肌の温もりや彼女の息遣いが鮮明に残っている。
それが時々、僕を痛いほど混乱させた。





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