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夏の終わりに

あの日から、どのくらいの月日が経過したのだろう。
彼女は思う。
季節外れのリゾート地は閑散としていて、夏の激しい暑さが通りに取り残されたようにその影を落とした。
遠くに望むのは海。
太陽の陽射しをキラキラと海面に反射させている。
彼女は防波堤の上に座っている。もうずっと前からその場所で、海を見ている。
渇いた風を受けながら、ずっと。
だから彼女の髪の毛も渇き、白い素肌も渇き、その心も渇いていた。


「いつまでそうしているの?」


彼は言う。夕暮れの少し前になると決まって彼は彼女を迎えに来ながらそう言った。
華奢な肩に蒼のカーディガンを羽織らせ、またその肩を抱き、横に座った。


「もう少し。夕焼けに変わる前に」


夕方の気配を感じるには少し時間が早く、彼は彼女がいつもそう言うのを知っているからその時間に迎えに来る。

その日はいつもより暑く、過ぎた夏を思わせた。
砂浜には若いカップルが陽炎の向こう側にいて、肢体をゆらゆらさせていた。

いつかの自分達のようだと思う。
夏の午後にこうして海に訪れ、ラジオを聴きながら砂浜で過ごした。
砂は焼けるように熱く、その上で砂にまみれながら体を横たえた。
首筋を流れる汗の匂い。焼ける砂の匂い。太陽の匂い・・・それらの全てが彼女を悦びに導いた。




「今までと全く違う世界に行っちゃったの」


彼女は言った。
あの時もこんな夏の終わりの日だった。
空はどこまでも蒼く遠くまで澄んでいて、渇いた陽射しが二人を照らした。


「魅録はあたしを置いて、遠くに行っちゃった」


週末、清四郎はいつも悠理を誘った。
彼女の淋しさを紛らすために。また、親友との約束を果たすために。
魅録はその年の春からメンバーとは違う大学、防衛大学校へと入校した。
彼なりに悩んだ末の選択だった。
今までとは全く違う生活。
普段通りにメンバーと過ごすことはできない。
皆辛く淋しい思いでいたが、誰よりそれを強く感じていたのは悠理だった。
二人は・・・友達以上の仲だったから。


「悠理を頼む」


入校式の前日に、魅録は清四郎にそう言った。


「悠理を頼むな。こんなこと言えんの、お前だけだから」


けれど清四郎は分かっていた。
彼が魅録以上に悠理に想いを寄せているのを知っていることを。


「分かりました」


清四郎は応えた。




渇いた風が通り過ぎ、僅かに夕暮れの気配が訪れた。
頬に触れたのは夏とは違う冷たい空気で、それが悠理の心を突然乱した。


「保証して」


小さな声で彼に言う。


「え?」
「保証してよ。清四郎、あたしは絶対死なないって、保証するって言ったじゃん」


小さな声はやや荒らげになる。


「ええ」
「だから保証してよ!こんなに何年も辛い思いをしてるんだから!
毎日毎日、心も体も張り裂けそうなほど辛いんだから!
このままだと、あたし・・・」


彼女は体を折り曲げるようにして激しく泣き始めた。
子供のように大声を出し、喉までも渇れるようにして泣いた。
魅録を失ってから今日までこうして涙を見せることはなかった彼女が、
不意に何かに衝かれて壊れたように、それを止めることも戻すこともできないような勢いで泣いた。

やがて完全な夕暮れが訪れた。
冬を思わせるような冷たい風が二人の間を吹き抜けた。
まだ少しすすり泣いてはいたが、涙は風によって拭われた。

悠理の魅録への焦がれるほどの想いは、清四郎には計り知れない。
けれど離ればなれになった時の強い哀しみは、さっきの涙によって治まったに違いない。
少し、前に進めたのだ。


「思いきり愛せたんだから、良かったんですよ」


彼は言う。

先ほどから二人の間を吹き抜ける風のように、過去は通り過ぎるだけなのだから。





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