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恋心の忘れ方 3

彼女からさっき別れを告げられた。
年上の、人妻。漆黒の瞳と、それに似た長い髪の毛が僕を夢中にさせた。
連絡をくれるのはいつも向こう。
会う場所と時間を決めるのも向こう。
ベッドに誘うのも、それから達するまでの時も、いつも向こうが決めていた。
それでもいいって、思ってた。
魅力的で、笑顔はチャーミングで、達する時は僕の名前を呼んでくれたから。
僕の誘いは無視をするくせに、僕が無視すると酷く嫉妬する。
思うようにならない彼女だったけど、なぜか心を奪われた。

どうして僕から離れちゃうんだろう。
僕の、何がいけなかったんだろう。


「美童、私疲れちゃったの。先が見えない恋愛は、ただ辛いだけだわ」


けっこう、本気だったんだ・・・
先を見えなくしてるのは彼女の方なんじゃないって思ったけど、何も言わずにさよならした。
どちらかが疑問を持ったら、恋はそこで終わるものだと知ってるから。

僕は夜の街を歩く。
本当はこの時間、彼女と過ごす予定でいたけどね。
街路樹に付けられた白や青のライトが、まるでクリスマスを思わせる。
まだハロウィンも迎えていないのにね。
きっと夜風が冷たいから・・・まるで冬のように寒く感じるからかもしれない。
通りを歩いていると、見慣れた女の子が目に入る。
さっき別れた彼女とは正反対の、女。
茶色の瞳と、それに似た色の癖のある髪の毛。短くってあちらこちらに跳ね上がってる。


「やっほ」


声をかけると、びっくりしたように振り向いた。


「美童」
「やあ、悠理。どうしてお店の前に突っ立てるの?誰かと待ち合わせ?」
「ううん。入ろうかどうしようかって迷ってただけ。もう帰る」
「じゃあ入ろうよ。ちょっとあったかいの飲みたいって思ってた。
ずいぶん寒くなったよね」
「でも・・・美童」
「僕?僕も今独りでブラブラしてたの。ちょうど良かったよ」


悠理は安心したように笑顔を向けた。
その笑顔が、僕の心を締め付ける。
だって悠理も僕と同じ、恋を失ったばかりだからさ。
奥のボックス席に向かい合って座ると、似合わないため息を彼女が吐く。


「どうしたの?」
「ん、だって、考えてみたら、さっき清四郎とコーヒー飲んだばかりだった」
「清四郎?珍しいね。説教でもされてたの?」
「ううん。最近、まとわりついてくるんだ。うっとうしいけどね」


そうこうしているうちに、ウェイターがやって来る。
僕は悠理のためにキャラメルマキアートと、自分のためにシナモンコーヒーを注文した。


「落ち込んでる時はね、甘いのがいい」
「落ち込んでる?あたしが?・・・そっか、美童も知ってんだ」
「分かってた、さ。僕だって長い付き合いだもん。悠理の気持ちは、メンバーみんなが分かってる。
それと同時に、魅録や野梨子の気持ちもね」
「ふうん・・・」


運ばれてきたそれぞれのカップは、温かい湯気がたっている。
悠理はそれを包み込むように両手で持ち、鼻先まで上げる。
香りを楽しむように目を瞑り、ゆっくりカップに唇をつけた。
その仕草全てが大人っぽくって驚いた。悠理も、立派な女性なんだって。
僕は感心しながら自分のカップにシナモンスティックを入れてクルクル回した。
二人して、それぞれのカップを空にする。
温かいものは温かいうちに、感謝して飲む。

それからしばらくして、悠理は口を開いた。


「ねぇ、美童はさ、例えば・・・なかなか捨てられない想いがあったら、どうやってやり過ごすの?」
「ふぇ?」
「あ、なんでもない。美童にそんな想いなんてないよね。世界中に恋人がいるもんね」
「悠理」
「消化しきれないんだよね、あたし。分かってあげてるつもりんなんだけどさー」


悠理は僕の視線を避けるように顔を背ける。
その顔が、さっき別れを告げられた彼女になぜか似て見えた。
僕の心は張り裂けそうになるほど痛んだ。
僕だったら・・・僕だったらこの気持ちをどう消化する?


「そう簡単に消化しないんじゃないかな」
「え?」


悠理は僕へと向き直る。


「失恋すると、多かれ少なかれ人はその想いを引きずって生きてる」
「うん」
「でも、引きずってても、前に進めないわけじゃない。最初はぎこちなくてもちょっとずつ慣れてくるさ」
「・・・・・」
「悠理の心を痛めつけるトゲトゲに包まれた想いも、引きずってるとそのうちすり減ってくる。
そしてだんだん表面は滑らかになって、スムースに歩けるようになる。
トゲトゲに鍛えられたせいか、前より早く、今度は走れるかもよ」
「美童」


僕は自分に言い聞かせるように悠理に告げる。


「魅録のことは辛いだろうけれど、引きずるのも一つの方法だと思う」


悠理は、大きくゆっくり頷く。


「間違ってないんだね」
「ああ」


澄んだ茶色の大きな瞳から、一滴の涙が零れ落ちた。






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