FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

冬の、ある出来事

二学期ももう終わりに近づいてる。
期末テストも終わり、すっかり冬休みモード展開中のあたし達。
午前授業の午後を利用して、クリスマス会を計画しながらランチすることになった。
でも・・・ホワイトクリスマスなんか遠ざかるようなみぞれが降って、道路はグチャグチャ。
おまけにバカみたいに寒い。
裸ん坊の桜並木をメンバーと歩く。
一番前が魅録と、珍しく美童。
ナンの話か、さっきから熱心に話し込んでいる。
二人ともそれぞれ個性を活かしたニットの帽子を被ってみぞれから逃れてる。
その後ろを道路側に清四郎、横にはもちろん野梨子。
二人は野梨子の折り畳み傘に綺麗に収まっている。
そして最後が可憐。
真新しいロングブーツが汚れるのを気にしながら、清四郎の大きくて地味な傘を片手にスマホで電話中。
新しい彼氏ができたとか。
この相手とクリスマスを過ごすんだろうな、あたし達とではなく。
あたしはブラブラしながらどこの列にも入んない。
ダウンジャケットの帽子をぐぅっと頬被りして、みんなと少し離れた横を歩く。
まだお昼をちょっと過ぎただけなのに、夕方みたいに薄暗い。
ひどくお腹が空いちゃってるけど、帰りたい気分。
そう、このまま帰って、あっつ~いお鍋でもつつきたい。
ぼうっとしながらそんなことを考えていると、数台の車が通り過ぎる。


「きゃあ~。もおぉぉ。バカッ!」


泥水が可憐のお気に入りのコートに跳ねる。
車を振り向いて黄色い声を上げている。
あたしは肩を竦めて見るともなしにそんな可憐を見ている。
それでもスマホでの通話は続行中なんだね。相手は何してる人さ。
昼間っから長電話。学生?社会人?ま、そんなこといっか。
こうしてどこにも所属していない自分について考える。
そして、それも悪くないように思えてくる。
有閑倶楽部に所属しない自分。
現実的に・・・だけれど悪くないんじゃないかって。
なんて、こんなネガティヴになっているのには理由があるんだ。
昨日、正確に言えば昨日の朝、あたしは一時限目の数学の教科書を部室に忘れちゃって取りに行ったんだ。
体育館での全校朝礼の後。授業が始まる十分前くらいかな。
ドアを開けると電気がついていて、見馴れた広い背中が見えた。


「清四郎、どうしたの?清四郎も忘れ物?」


声をかけると無表情に振り向いた。
そう言えば朝礼での生徒会長挨拶の後、清四郎がどっか行ったっけ。
ここに来てたんだ。


「先生になにか頼まれたの?」


訊いても、清四郎は答えてくれなかった。


「数学の教科書を忘れちゃって。あ、あった」


あたしはソファの上に無造作に置いてる教科書や辞書の山から数学の教科書を取り上げた。


「あったから行くね。お先」


そうしてもう一度清四郎を振り向く。
でも清四郎はさっきのままの表情でいた。


「清四郎、さっきからどうしたの?」


それでも、答えない。
ただ視線はあたしに合わせていて、あたしが動く方に視線も動いた。
ふざけてなんかいない。
それは無表情な顔と深い黒色の瞳が教えてくれていた。
じっと見ていると、吸い込まれそうな不思議な気持ちになった。
でも様子が違う清四郎を知りたくて、あたしはつい見つめてしまう。


「清四郎・・・」


初めて怖いと思った。
清四郎の視線は身が竦むような怖さがあった。
同時に、とても悲しくなった。
清四郎に嫌われてるような悲しさ。
家に帰ってから、あたしはベッドの中でふさぎ込んだ。
朝以来、清四郎には会えなかったから。
けれど夜になって、清四郎からメールが来た。


“今朝は悪かった。ちょっと考え事をしていたものだから。悠理に嫌な思いをさせて反省してる。悪かった。おやすみ”


返信しないまま、真夜中まで考える。

あたしは、清四郎が好きなんだ。多分。
だから、こんなに悲しいんだ。

分かったのは、それだけだった。
朝になってまた清四郎からメールが来た。


“おはよう。今日は午前授業だから、皆でお昼を食べながらクリスマスの計画を立てようと思う。悠理の予定は大丈夫?”


あたしは“うん”とだけ返信した。

今日はずっと普通を装っている。
清四郎も、普通を装っているんだと思う。
いつも通りに挨拶をして、会話をしている。
今日から午前授業がしばらく続くから、こうしてみんなで出かける機会も増えるのかな。
憂鬱だな・・・
ふ、と視線を横に向けると、清四郎と野梨子が穏やかな顔で会話をしている。
どんな話をしているんだろう。
最近読んだ本とか、囲碁の話とか?
ああ、面談が近いから成績の話とか・・・そんなの、どうでもあたしはいいか。
成績優秀な二人だもん。なんの心配もいらないよね。


「悠理、もう少し内側歩かないと危ないわ」


電話が終わったような可憐があたしに声をかける。


「うん」


と言いながら可憐の横に行こうとした時、みぞれから雨に変わった。
びしゃびしゃびしゃーって音がして、慌ててダウンの帽子に手をかけた、その時・・・
強い力で肩を寄せられる。
わっと思って目をぎゅっと閉じた。次の瞬間、頬とふくらはぎに冷たさを感じる。


「だから危ないって言ったじゃない!」


可憐の声がして目をそっと開けると、目の前が真っ暗・・・?


「濡れた?」


その声の方へ顔を上げると清四郎が間近に見える。
あたしは清四郎の腕の中にいて、頬にコートの水しぶきが当たっていた。


「えらいスピードだったな」


魅録が振り向いてあたしを見ている。
その向こうに、あたしのふくらはぎを濡らした車が消えて行った。


「すっぽり清四郎の腕に収まりましたわね」


野梨子が可笑しそうにしている。


「こういう天気は、服が汚れちゃうからイヤだよ」


美童はそう言って手を伸ばし、あたしの濡れたダウンの帽子を払ってくれた。


「あんがと」
「さ、行こうぜ」


魅録がウィンクしてあたしの腕を引く。
その時、一瞬だけ、清四郎が置く肩の上の手に力が入ったような気がした。


「うん、行こう」


清四郎の腕から離れ、あたしは魅録の手に引かれる。


「危ないから内側歩きな」


魅録はいつにも増して優しく、あたしを美童との間に置いてくれた。
ちょっとだけ振り向くと、後ろも野梨子を真ん中に可憐も並んで歩いている。
会話の中心はもちろん可憐。
多分、新しい彼氏の話をしているんだと思う。

あたしはまっすぐ前を見て歩く。
胸が苦しくて、息をするのが辛い。だから・・・

だから、昨日のことと、さっきのことについて、今は忘れようと思った。





拍手・ランキングへのクリックをありがとうございます!
ランキングへ参加しています。
にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

スポンサーサイト
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。