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ホワイトデーのおかえしに

学校から家に戻った夕方、魅録から連絡があって待ち合わさせ場所に来てみれば、やっぱり。
先月のバレンタインデーの、野梨子へのおかえし。
あたしは一応“女子”としての意見を述べる。
あちらこちらへと歩く。
なかなかあたしの意見は通らなかったけど(選ぶのが奇抜過ぎるって)、アジアンショップでやっと二人が合致する。

銀製のブックマーク。

二枚の葉を象って、ページを挟むようになっている。
あたしも欲しいなって思うほど、素敵なデザイン。
読書好きの野梨子へぴったり。


「これだな」
「これだね~」


おしゃれにラッピングしてもらってお店を出る。
それからちょっとお茶しよ~ってなって、ショッピングモールの一角のコーヒーショップに入った。
あたしは紅茶とケーキのセット。
魅録はホットコーヒー。シナモンスティックがついてるやつ。
目の前にあたしがいるのに、魅録ったら野梨子へのプレゼントに満足してるみたいにニヤニヤして落ち着きない。


「いつあげるの?明日?それとも14日の土曜日?」
「そうだな~。やっぱ14かな。雰囲気出るだろ」
「ふうん」
「悠理は?今年のバレンタイン、誰にやった?俺もらってないぞ」
「あっは。バレンタインはチョコをもらうもんだろ」
「そっか。お前の場合はそうだった。おかえしは用意しないの?」
「するかよ。とんでもない量だもん」
「まぁな~」


そしてあたし達はそれぞれの飲み物を飲んでコーヒーショップを出た。
外はすっかり日が暮れていた。
帰り際、魅録は立ち止まってあたしを見る。


「今日は、サンキュ。これ、付き合ってくれたおかえし」


あたしの手を取って、その掌に小さな袋をのせた。
さっき、野梨子へのおかえしを買ったお店の袋。
魅録はにっこり微笑んであたしにじゃあなって手を振ると、背中を向けて帰っていった。
魅録の後ろ姿を見送った後、掌の袋の中をそっと覗いてみる。
そこにはストラップが入っていた。
取り出してよく見ると、一枚の葉を象ったシルバーのストラップ。
あたしは大きなため息を一つ吐く。
こんな、野梨子とお揃いみたいなやつ、使えるかよ。
ジーンズのポケットにねじ入れて、あたしはブラブラ、夜の街を歩き始めた。
しばらく歩いていると見なれた後ろ姿。
背が高くて広くて、ガッチリ落ち着いた感じの。
両手にはおっきな紙袋にびっしり何かが入ってる。
後ろからこっそり覗いてみれば、綺麗な包みがいっぱい。


「わぁ、ホワイトデーのおかえしがいっぱい詰まってる~」


清四郎はびっくりして振り返る。
あたしは片手をあげた。


「悠理。やれやれ、嫌なところを見られたな」
「ナンでさー。ホワイトデーだろ、これ。って、こんなにもらったの?」
「僕だってけっこうもてるんですよ。ま、ほとんどが義理ですけどね」
「中には本気もあっただろ?」
「まあね。でもいちいち断るの面倒だから、気持ちありがとうって、ほんのおかえしですよ」


清四郎はあたしにも紙袋を持つのを手伝ってくれと言わんばかりに、小さめのを一つ差し出した。
仕方なく受け取って、あたし達は並んで歩き始めた。


「今日は?誰かと約束でしたか?」
「うん。でも、もう終わったの」
「そう」
「魅録がね、野梨子にホワイトデーのおかえしするの、何がいいか選ぶの手伝ってくれって」
「ほう・・・それは大変でしたね」
「そうでもないよ。あたし役立たずだから」
「で、何買ったの?」
「ナイショ。14日以降、すぐ分かるさ」
「ふうん。でも意外でしたね。野梨子が魅録に本気だったとは」


メンバーの女子達で決めたんだ。
今年は義理チョコ止めようって。貰った方も義理返しだからね。
あたしは本気なヤツなんていないし、可憐は新しくできた彼氏と過ごすって、チョコじゃない何かをあげるって。
野梨子は何も言ってなかったけど、バレンタインの日に、部室のみんなの前で、魅録に。


「悠理は大丈夫なの?」
「ナニが?」
「魅録取られちゃって平気なの?」
「・・・・・別にぃ。一緒に遊んでただけだもん。これからも変わんないよ」
「そうかな。きっと、そう言う訳にはいかなくなると思いますよ。二人が付き合っちゃえばね」
「へーきだよ」


結局、清四郎の家まで紙袋を持たされた。
ヘンな話ばっかすっから、荷物が重たく感じられた。
まるであたしが、魅録を好きみたいじゃんか・・・


「違うの?」
「友達としてなら好きさ、もちろん。それは清四郎も美童もおんなじ」
「そうかな?僕は悠理にとって魅録は、僕と美童とは違う好きだと思ってる」
「なんでさ・・・」
「僕は悠理の事、何でも知ってるんです」


あたしはこれ以上、答えられなかった。


「荷物を持ってくれたおかえしに、僕の家で夕飯をごちそうしますよ。
悠理の大好きな“すき焼き”、いいでしょ」
「悪いけど、いらない」
「どうして?お腹空いたでしょ?」


今日はたくさんなんだって言って、紙袋を清四郎に押し付けた。
それから翻って、走り出した。ちょっとカッコイイ感じに。
けど・・・すぐに清四郎が後ろから追いかけて来るのが分かった。
あたしは清四郎に捕まらないように走る。
風を切って、外灯の少ない、暗い住宅街を立ち止まらないように走る。
とにかく、動きを止めないように走る。
そうじゃないと、動きが止まっちゃうと、涙が溢れそうになっちゃうから。


「捕まえた!」


とうとう清四郎に腕を捕まれる。
それでもムリヤリ走っていると、清四郎が肩まで捕まえて、腕を回した。
あたしは走っていられなくって止まってしまった。
汗が次々に額やこめかみに流れる。
同時に涙が溢れて、頬に流れる。
次から次へと、目から頬に流れ落ちた。
清四郎はびっくりしたようにあたしを見つめ、それからギュッと強く抱き締めた。


「今日は偉かったね、悠理。よく頑張った。偉いぞ」


その言葉に涙は更に溢れ出て、声まであげて泣いてしまった。
清四郎はあたしの顔を自分の胸に押し付けて、髪の毛をグシャグシャに撫で付ける。
そんなことしたら、余計に泣けちゃうよ。
だからあたしは、遠慮しないで大声出して泣いた。
その間清四郎は、ずっとあたしを抱き締めていた。
清四郎は・・・汗と普段の香水と、大人の男の匂いがした。


「今はただ泣いて、すっきりするまで泣いて。そうしたら次やるべき事が必ず分かってくるさ」
「うっ・・・くっ・・・そ、そう、かな」
「そうですよ。今は確かに辛いでしょうけれど、それは悠理にしか分からない辛さでしょうけれど、でも、必ず越えられる。僕はそう信じてる」


しばらくそうして清四郎に抱かれていると、何だか落ち着いて来る。
あったかくて、優しくて、いい匂い。
魅録とは違う、安心感があった。


「清四郎、あんがと」
「どういたしまして。お腹、空いてきたでしょ」
「ん~、まぁね」
「少しは落ち着いた?」
「う~ん」
「こういう時は無理してでも、ご飯をしっかり食べた方がいい」
「うん」
「僕の家に戻って、一緒にすき焼きを食べよう」
「うん」


本当にお腹が空いてくる、こんな時でも単純なあたし。
また走って逃げると思っているのか、清四郎はあたしの手をしっかり握っている。


「お腹いっぱいご飯を食べて、楽しい事を考えるといい」
「楽しい事?」
「うん。楽しい事や面白かった事や、笑っちゃう出来事とか」
「あはは。そうだね。そうしようと思うだけで、心が何か軽くなってきた」


あれ?


「そう言えば、ホワイトデーのおかえしは?」
「あ、家の門の所に置きっぱなしだった!」


急にあたしを引っ張るように走り出す。
思わず、走りながら吹き出した。
そしたら清四郎も吹き出して、二人ゲラゲラ笑いながら走っていた。
こうしていると、いろんな事がただの通り過ぎるだけの記憶になってしまえそう。

それに清四郎、ホワイトデーのおかえしをあれこれ選んでる清四郎の姿を想像するだけで笑っちゃうよ。





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