FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

特別な君を

ほら、また。
また間違えてる。


僕は何度目かの同じ間違いを指摘する。
悠理のたくさんの苦手科目の一つである英語。
明日はそのテスト。
けれどちっとも文法を覚えられない彼女に、中学英語まで遡って勉強を進める。


「受動態の英文の形は、“be動詞+動詞の過去分詞”ね。
Japanese is used in Japan. 日本語は日本で使われている。簡単な文章だよね。
“is”がbe動詞で“used”は?」
「・・・・・」
「受動態の文法は?be動詞となんだっけ?」
「・・・・・」


繰り返されるやり取りに、いい加減、僕は苛立ちを覚えた。


「何回教えてるの?何度も言ってるでしょ?覚えられないの?中学英語ですよ!」


そしてお決まりの僕の説教が始まる。
僕だって言いたくない。何回も同じ事を言ってるんだから。
けれどいつものごとくヒートアップして、結局言い過ぎてしまう。
言わなくてもいい事まで言って、彼女を傷付けてしまう。
最近では小言の途中、彼女は両耳を指で塞いで目をぎゅっと瞑る。
聞きたくないと言う、気持ちの表れ。子供みたいだ。
でも、そんな彼女を見る度に、心がちょっと締め付けられる。
そう、拒絶されているようで。
深いため息を吐く。
きっとその行為さえも、彼女が傷付いていると知っている。
こんな彼女を知っているのは、僕だけだろうと思う。だって他に拒絶する相手なんていないから。
そういう意味では、僕は特別な存在なんだと思う。
彼女に背を向けて、机に頬杖をついてみる。
そしてまた一つ、深いため息を吐く。
しばらくして振り返ると、彼女は静かに問題集に向かっている。
解答が間違っていたとしても、そういう姿勢は褒めてあげないといけない。
でもへそ曲がりな僕は、じっと見つめるだけ。


「できてる?」


やっと彼女に声をかけたと同時に、ドタドタ階段を上る音が聞こえる。
彼女の顔がパッと明るくなる。


「魅録」


そう、魅録。
ノックしながらドアを開けるんだから。
そういう所は、悠理ととてもよく似ている。


「おっす!悠理、できたか?」
「もうすぐだよ~。終わるから待ってて」


急に声のトーンが変わる。
僕の時とは違って、嬉しそうにトーンが上がる。


「まだまだですよ。ちっとも理解していないんだから」
「そうなのか?悠理、終わんないなら連れて行けないぞ」
「終わるもん。時間になったら魅録と行くよ」
「ダメダメ。テストは明日でしょ」
「清四郎~、イジワル!」
「どれどれ、見せろ。ふ~ん、受動態が分かんないときたか」
「ねぇ、お願~い。あたしもバンド仲間とメシ食いたいよ」


まるで猫がじゃれるように隣に座った魅録にすがる。
そんな姿を、ちょっとだけ羨ましく思ってしまうのは何故だろう。
僕には、絶対しないんだから。


「分かった、分かった。じゃあ、後は俺が教えてやるよ。いいだろ?清四郎」


バンド仲間と食事が終わったら、魅録が悠理に英語を教えると言う。


「ま、いいですよ。クラスが一緒だから、授業の進み具合も分かるでしょうし」


魅録だって英語は得意中の得意だし。


「やった!魅録ちゃんアイシテル~」


ほら、この顔。嬉しそうに抱きついて。
僕には絶対見せない笑顔。

でも、誰もが知ってる悠理の笑顔。
拒絶顔は僕だけが知ってる、特別。ふう・・・


「さ、できた!答え合わせは後で魅録とやるからさ!」


悠理はさっさと問題集をデニムのトートバッグに片付ける。
こういう時は異常に早い。


「じゃ、行くぞ」


魅録が立ち上がり、彼女の腕を引っ張り上げる。
嬉しそうに弾み上がり、僕に最高の笑顔を向ける。


「明日のテスト、絶対ガンバるからさ!」


僕に向けたのとは違う、悠理の笑顔。


「はいはい」


魅録の腕を取って、二人僕に背中を向ける。
僕はさっきから椅子に座ったまま動けないでいる。
けれどドア越しに悠理が振り返る。
先行ってて、と魅録に伝えてるのが聞こえる。


「清四郎」


デニムのトートバッグを肩に提げたまま、僕に近付く。


「怒ってるの?」
「何で?」
「勉強しないで魅録と行くから」
「まさか。全然。テスト結果が良いも悪いも悠理だから。僕に関係ありません」
「ふうん。ねぇ」


彼女は僕にまた一歩近づき、僕の目を覗き込む。


「あたしのこと、キライ?」


突然、何を訊くんだろうと思う。
ちょっと、驚いてしまう。


「き、嫌いな訳ないじゃないですか。友達だし」
「じゃあ、スキ?」


小さな子供みたいに無邪気に訊くから、答えに困ってしまう。


「まぁね。嫌いじゃないから、好き、かな?」


僕の答えにぱぁっと明るい笑顔が広がった。
これには驚いた。
魅録が来た時より嬉しそうに見える。


「良かった~!勉強そっちのけで魅録と行くから絶対嫌われたと思ったよー」
「そりゃあね、テストは大事ですから」
「でも絶対ガンバるからね」


受動態の英文の形をテスト前日になっても覚えられてないくせに。
ま、どうせ追試だろうから、次はみっちり分かるまで部屋から出さない、なんてね。


「清四郎、今日はいろんな意味でありがとね」
「ああ」
「あたしも清四郎がスキ」
「あ、ありがとう・・・」


悠理とこんな会話は初めてだ。
それに、こんな女の子らしい表情も。
僕だけ、特別?


「じゃ、明日学校でね」
「ん。ちゃんと魅録から教わるんですよ」
「うん!約束」


また彼女は無邪気に、小さな小指を差し出した。
やれやれ、恥ずかしいですよ、と言いながら、その指に自分のを絡めた。
何だか、二人だけの特別な約束みたい。
絡めた小指にきゅっと力を入れてみる。
“離したくない”、そんな気持ちが浮かび上がったから・・・
悠理はちょっと驚いたように目を見開き、刹那、僕の目を見つめる。
澄んだ、茶色の瞳。
今まで見た事がない、大人の女性を思わせる。一瞬だけど。


「じゃあね」
「ああ」


絡めた指先が離れて行くのは残念に思えたけれど。
階下から二人の声が楽しそうに聴こえてくる。

悠理、どういうつもりなの?
僕をどんな風に思ってるの?

胸が甘く締め付けられる。
僕達が、特別な関係に思えてくる。

窓から二人の友人がじゃれあいながら歩いて行くのが見える。
魅録ちゃんアイシテル~、の方が特別なのかな?なんて思いながら、明日のテスト結果について複雑に考え始める自分がいた。



拍手・ランキングへのクリックをありがとうございます!
ランキングに参加しています。
にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

スポンサーサイト
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。