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夢の中でも、あなたは

ふと、夜中に目を覚ます。
チェストに置いたスマートフォンで正確な時間を見ると、もう少しで明け方。
けれど部屋は真っ暗で、手元のスマートフォンだけが煌々としている。
その明かりが、正体不明の不安を和らげてくれる。
でも、僕はどうしてこんなにも不安な気持ちで一杯なのだろう、と考える。
手元の明かりがスリープ状態になり、程なく訪れた、完全な暗闇。
僕は寝返りを打ち、深く何度か呼吸する。
瞼を閉じて見えるのは、幾何学的な模様の奥の夢の光景。

僕は、あなたの夢を見た。

夢の中で僕は、薄暗い廊下に立っている。
目の前には大きくて重そうなドアがある。
僕はそのドアを押し開けると、そこには草原が広がっていた。
不思議に思って一歩踏み出すと強い風が吹き荒れ、僕に現実に戻れと言った。
けれど逆らうようにして、僕はまた一歩踏み出す。
目の前の草木は荒れ狂うようになびき、枯れ葉が舞っている。
無理に前へ進んで行くと、風は徐々に、爽やかなそよ風に変わった。
向こうに誰かが見える。
僕は、それが誰か知っている。
近付くと、やはりあなたが立っていた。
あなたは当時の制服を着ている。
柔らかな髪を流し、スカートの動きを気にしている。

「ずいぶん久しぶりでした」

僕は言う。

「久しぶり」

あなたは口元を綻ばせながら返事をする。
僕は再会に心が震えるほど歓喜し、二人の共通する何かについて語られるのを待った。
けれどあなたは、ただ微笑んでいるだけで、何も語らない。
僕はその両の瞳に、その茶色く澄んだ瞳の奥に語られる二人の想い出を探したが、そこには何も映っていなかった。

「元気そうで、何よりでした」
「ありがとう」

あなたは僕の今までを訊こうともしない。
僕はそれ以上、何も訊けず、何も語ることができなかった。
しばらくの間そうして見つめ合い、意を決してあなたについて口を開こうとした時、先程の強い風が再び僕達の間を吹き抜ける。
舞い上がる枯れ葉を避けるように顔を背け、塵が目に入らぬように手で顔を覆いながら振り向くと、目の前のあなたは消えていた。

夢は、そこで覚めた。

僕は暗闇でもう一度夢について考え、もう一度彼女の瞳を思い出す。
けれどやはり、彼女の瞳には表情と呼べるものが見つからなかった。
ひどく残念には違いないが、夢はただの夢であるのだし、現実的な面から考えてみても離れている時間を思えば仕方がないことであった。
そう、夢はただの夢なのだ。

その時、スマートフォンがバイブレーションし、思わず手にしたことで暗闇はまた遠ざかった。
ネット上で、フリーメールを受信したのだ。

送信者とタイトルが僕の体を一瞬にして熱くし、起こした背中には冷たい汗が流れた。


“このフリーメールアドレスってまだ使われてるのかな?
それとも放置状態?
ま、どっちにしろ、返信がなかったら使われてないってことだよね。

元気にしてるって、知ってるよ。
何年か振りでさ、野梨子と魅録に会ったんだ。
二人の結婚式以来かもしんないなぁ~。二人とももちろん元気、元気!で良かったよ。

さて、清四郎の変わらない冷たい視線がそろそろ気になってきた。
なんでメールしたって?

それはねー。
ちょっと前に、清四郎の夢を見たんだよ、ないことにさ!
それで急に懐かしくなっちゃって。元気にしてるかなって思って。
だから野梨子達に会いに行ったの。

『直接連絡すればいいじゃないですか』って?

それは、そうなんだけど、そこまでの勇気があたしにはまだないってこと。
本当はそうすべきだって分かってるけど、突然の夢での清四郎との再会は、
あたしを昔のあたしに戻しちゃったの。
ずっと、ずっと遠ざけて、忘れていた想いが、変わらないまま甦って来ちゃって。
だからさー、直はムリだって思ったわけ。
怒っちゃう?嫌われちゃうのかな?

ねぇ、清四郎。
もう何年も経っちゃってるからここで勇気を振り絞って訊くんだけど・・・
(モノスゴク緊張して、あたしのキーを打つ指は震えているワケです)

清四郎の中には、あたしの存在ってある?

夢の中の清四郎は、あの頃と変わらない雰囲気で、親しみを込めて近付いたあたしを・・・気持ちの入らないような表情で見たんだよね。
近寄りがたい感じって言うのかな。だから・・・

あたしね、今でも乙女のように信じてることがあって(実は!)。
ずっとずっと、ずーーーっっと前なんだけどね。
清四郎と二人だけのステキな経験があるんだ。
その時、一度だけ・・・清四郎はあたしを好きなんじゃないの!?って思える出来事があって。
多分もう、清四郎は忘れてる、いやっ!覚えてないんだと思うけど。
思い当たること、ある?
すぐに思い出せないんなら、それはやっぱりあたしだけのものなんだよね。
独りよがりかもしんないけど、あの時の直感(野性の勘?)を、あたしは今でも信じている。

ねぇ、好きだから、気になるから、遠ざかることもあるよね、清四郎。
でも、何だかずいぶん遠くまで来てしまったよ・・・”


彼女のテキストはここで切れてしまっていた。
僕は彼女からのメールを何度か読み返し、再び暗闇が訪れるのを待って深く深く考える。
それから・・・ゆっくりと彼女への返信を打ち込んだ。


“好きだから、気になるから、遠ざかることもある・・・

その悠理の気持ち、すごくよく分かるよ。
それは多分、自分の思いとは違う現実に傷付きたくなくて、確かめもしないでそこから遠ざかってしまった。
そう言うことだと思うんです。
実際とは違う勝手な想像が相手の真の想いと勘違いして、真逆な夢を見てしまった、お互い。
でも、夢はただの夢だとも思うんです。
ま、悠理に限っては、夢が現実になりかねないから、すごく僕の返事が気になるでしょうねぇ。”


僕はそこでテキストを切り上げ、送信してみる。
案の定、すぐに彼女から返信が届く。


“ばかやろ~っ!!”


ベッド傍のスタンドライトを点ける。
部屋を明るくして、彼女の電話番号が入力されている返信を、僕はスマートフォンを手にしたまま待った。






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