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push me away side:y

生徒会室内にある簡易給湯室。
あたしは小さな流し台の前に立ち、蛇口とにらめっこする。

「う~ん。水なんて漏れてないよな~」

今度はレバー部分を上げたり下げたりして、水の出を確かめる。

正直よく分かんないけれど、異常はないよな。

なんであたしがこんなことしてるかって言うと、可憐に急に頼まれたんだよね。

「校務員さんに言われたのよ。
学校の水道料金が例年に比べて多くなってきているって。学校中の蛇口を閉めても水道メーターのパイロットが回っているから、そちらの部屋で使用している蛇口から水漏れしてるんじゃないですかって。
こちらでは合鍵を預かってなくて確認できないから、自分達で調べて報告して欲しいって。
わたしと美童は今日それぞれデートだし、野梨子はお茶のお稽古って言っていたし。ごめん悠理。魅録と調べてくれない?得意分野でしょ?」

勝手なこと、言うよね~。
そんな魅録はバンドのお稽古だって、さっさと帰ったよ!

「清四郎が生徒指導室にいるから、戻ったら見てもらえよ」

ちょっとみんな~、勝手すぎやしない?
面倒なのは全部“あたし”なの?
いくら一番暇人だからと言って、ひどいよね!

とにかく!給湯室は大丈夫。
で、次はトイレ。って、どこも漏れてないって・・・
あちらこちらと歩いていると、清四郎が生徒指導室から戻ってきた。

「おや、珍しい。一人?」
「待っていたんだよ~」

事情を一通り話すと、清四郎が面倒くさそうに言う。

「そんなの、見ればいいだけでしょ。水が漏れてないならそう校務員に伝えたらいい。きっと地下の水道管ですよ。管に故障でもあるんじゃないんですか」
「うん」

あたしはもう一度流しやトイレを見直し、普段ほとんど使わないシャワールームにも言ってみた。
思った通り、床のユニット部分はカラカラに乾いていて、靴のまま一畳もない室内に入った。

「どう?漏れてます?」

突然後ろから清四郎が声をかけるものだから、びっくりしちゃって思わず声をあげてしまう。
それを聞いた清四郎も声をあげて笑う。

「なんだよ、来てくれるんなら見てくれよ」
「ハンドルをちょっと捻って見てもらえます?」

言われた通りハンドル部分を捻る・・・

「ぎゃあ~っ!」

錆び臭い、冷たい水がシャワーヘッドから勢いよく出てきた。
フックから外して捻るべきだった。

「やだ~」

びしょ濡れのあたしをおいて、清四郎はいなくなった。

「今タオル持って行くから」

と、向こうの部屋で言ってるみたい。笑いを含んだ声で。
あたしは濡れてしまった制服を諦めて、ハンドルやシャワーヘッドからの水漏れを確認する。

「どう?漏れてます?」
「う~ん、漏れてないな~。シャワーヘッドから水がちょっと滴るのは仕方ないいよね」

今度はヘッドを手に、ハンドルを何度か捻ってみる。

「ねぇ、ハンドル近くの壁の向こうから変な音が聞こえる」
「壁の向こう?」
「ゴゴォ~って」

あたしが清四郎と入れ替わろうと後ずさった時、押すようにして清四郎が入ってきた。
何も言わないで、あたしを閉じ込めるようにして。
えっ、て思った。一瞬だけ、頭の中が真っ白になった。
けれどすぐに意識が戻るように“どうしよう”って考える。
狭苦しいシャワールームで身動きできずにいると、左側の腰を手で押さえられた。
シャワーヘッドを持つ右手に、後ろから清四郎の腕が回りその手に重なる。
驚きの余りに声も出ず、体も動かない。
重なっている手のままシャワーヘッドを確認するように動かし、あたしの手から静かに外すとフックに返した。

どうしよう、どうしよう・・・

清四郎は何も話さない。
あたしは、声すら出せない。
まるで他人の手を見るようにして、自分の手を見ている。
その手には、清四郎の手が重なっている。
後ろから抱かれるように、体温が感じられる。
あたし達は、しばらくそうしていた。
数秒だったかも知れないし、数十分だったかも知れない。
やがて頭の後ろに、あたしの髪の毛に、熱い吐息がかかった。
そうして・・・清四郎の体は離れていった。


✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳ ✳


あの後、あたしは、まるで何事もなかったかのように振る舞った。
帰り道も、次の日も、その次の日も。
みんなと一緒に遊びに行った時も、勉強を教わっている二人の時間にも。
そして清四郎も、あの日に触れることはなかった。
さりげなく目で追っても、それらしい素振りすら窺えなかった。
お互い・・・なかったこととして、ただ時間が過ぎた。
あたしの中に、あの日の記憶だけが取り残されている。

清四郎、どういうつもりだったの?
あたしを、からかったの?

そうなら、そうだと言って欲しかった。
冗談だよ、悠理。真に受けたの?って、嘘なら笑い飛ばして欲しかった。
普段と変わらない態度が冷たく感じられて、それがあたしには辛かった。
そしてどこかで・・・自分だけの時を刻み、あの出来事が真実なのだと思いたくなった。

出来心だったんだね、ただ。
清四郎には過去の、過ぎた記憶なんだね。


あの日からあたしは、ちょっぴり大人になった。
時に男は、出来心で少女を女に仕立てあげるんだって知った。

清四郎、あたしは“恋”を知る前に、踏みにじられたような気持ちさ。
そうして憎もうとして、どこかで求める自分が悲しかった。





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