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イヴの小さな出来事

塞がっている両手を工夫してドアレヴァーを下げ、足でドアを押し開ける。
室内は仄かなスタンドライトの明かりと、アロマの香り。
悠理はベッド近くまで静かに歩み寄り、野梨子の名を呼んだ。
浅い眠りだったのか、野梨子はゆっくり瞼を上げた。

「悠理」
「どう?調子」
「大分良くなりましたわ。清四郎が持ってきていた薬と、悠理の気遣いで」

そう言って悠理に微笑みかける。

「ほら、これ。食べる?」
「まあ、何ですの?ほんのり美味しそうな匂い」
「ミルク粥を作ってきた。黒砂糖を少し入れて、甘くてウマイよ」
「悠理が作りましたの?」
「うん、可憐に教わった。オートミールで簡単に作れた。インスタントラーメンより簡単だった。後、ハーブティ」
「食べたいですわ。お腹が空いているくらいだから、風邪が治りかけているんですのね」

悠理から木製のトレーを受け取ると、それをブランケットの上に置いた。

「トレーもお皿もお匙も木製で、可愛らしいですこと。温まりますわ」
「うん。これで山小屋だったらサイコーだぁ」
「絵本の世界みたい」

そして野梨子は、何度も美味しい美味しいと言ってミルク粥を全部食べ、ハーブティを食後に飲んだ。
近くに椅子を寄せて座っていた悠理は、ずっとニコニコしている。

「野梨子が元気になって良かった~!」
「ええ、悠理のおかげ。でもまさか、クリスマスイヴにこんな事になるなんて。ちょっと風邪気味ではありましたけど・・・」

冬休みを利用して、剣菱が所有する郊外の別荘でメンバーとクリスマスを祝いに来ていた。
パーティの準備や買い物の担当を決めて活動をしようとした矢先、野梨子が急に熱を出した。
清四郎が風邪と判断し、持参していた風邪薬を飲ませ、寝室のベッドで休ませた。
熱がまた少し上がったが、解熱剤で熱と体の痛みが収まり、ぐっすり眠ったことで落ち着いたようだった。

「パーティはどうでしたの?楽しかった?」
「うん・・・でもみんな、野梨子がいないからイマイチ盛り上がらないねって。やっぱ全員揃わないとダメだ」
「まあ。でも、私は二階のお部屋にいますもの。揃っているようなものですわ」
「でもさー、違うんだよ。野梨子のミートパイも食べられなかったし、ツマンナイヨ」
「悠理、ありがとう。とっても嬉しいですわ」
「本当の気持ち。みんなそう思ってる」
「すごく幸せ」
「うん。それに野梨子がいないと、あたしの仕事が増えちゃって大変だったぞ」

悠理はトレーを近くのテーブルに下げ、リラックスしたように椅子に座り直した。

「あら、それは何故?」
「結局あたしも買い出しだけじゃなくて掃除や後片付けや、全部、ぜぇ~んぶ手伝わされたんだから~」
「おほほ。それはお気の毒様。でも可憐は助かったと思いますわよ」
「男って、あれで雑なんだよ!言うこと聞かないし邪魔はするし」
「あれでって?誰のことですの?魅録?美童?それとも・・・」

野梨子が幼馴染みの名前を口にしようとして、けれどもそれを言わなくても、きっと話してくれると思った。
悠理は今、耳まで赤くして唇を尖らせている。
彼女の話は多少前後が違っていても、明確に想像ができた。

いつもなら、野梨子が綺麗に掃除してくれるフローリングやバスルームを悠理が担当させられた。
たまたまバスルームのドアのラッチが壊れかけていて魅録に見てもらったが、道具が充分でないため直すのは諦めた。
乱暴にドアを扱うと鍵が勝手にかかってしまうため、次の利用者が使えないと言うのに、美童以外、魅録や清四郎が使用した後は鍵がかかっていることが多かった。

「清四郎って意外と乱暴だな!何回もドアは優しく閉めろって言ってんのに、また鍵が勝手にかかってる。魅録なら分かるけどさー」
「どういう意味だよ。でも男ってそうだよ、悠理。言われた時だけ、注意するの。すぐに忘れちゃうんだから」

鍵がかかってしまったドアを直しながら、魅録は言う。

「清四郎だってああ見えてけっこう雑なとこ多いよ。品行方正な振りした、ただの男だよ」

けれどその魅録の言葉が、悠理の胸を貫いたのを、話に耳を傾けていた野梨子には分かった。

それに、こんなこともあった。
料理だけはムリだと言い張った悠理と魅録に代わって、美童が包丁を持ったが、不注意から指を切ってしまった。
もう包丁は怖くて持てないと言う美童の更なる代わりに、料理担当は可憐と清四郎になった。
こだわり過ぎて時間がかかる清四郎にメンバーのブーイングが飛んだが、悠理に味見を頼むとびっくりするくらい美味しい。
きのこのシチューも、ローストビーフも。

「うま~い!清四郎、天才だよっ!可憐や野梨子の手料理もうまいけど、清四郎のは男のこだわりって感じがするよ」
「そうでしょう。美味しいでしょう」

いつになく嬉しそうな清四郎を見て、悠理はおかしくなる。
そんな清四郎は、料理の手を止めて悠理を見つめる。

「デザートのケーキも焼いちゃおうかな。可憐に代わって」
「あはは。それはムリだよ!可憐は気合い入れてたもん。それにさっきまで、料理なんて、胃に入れちゃえばおんなじでしょって言ってたの、誰だよ!」
「悠理、男って、単純なの。可愛いんですよ。女の子に褒められると、やる気スイッチが入っちゃう」
「女の子・・・?」
「そう、女の子。悠理は女の子でしょ、ちゃんとした。野梨子に代わって、充分な働きをしました」
「そ、それは、清四郎がちゃんとしないで雑にばっかするから!ゴミだって、燃えるのも燃えないのも一緒だったぞ!」
「ま、それだけ悠理が神経使って頑張ってるって証拠です。良かったじゃないですか。花嫁修業ができて」
「ば、ばかやろーっ!!!」

ほほほ、と野梨子は笑う。
悠理の、困ったようでいて嬉しそうに話す姿が微笑ましい。
今回の自分の風邪が引き金に、空回りばかりしていた親友達がちょっと進展しそうで嬉しくなる。
互いが、もっと意識してくれれば良いのだけれど。
まあ、これからも見守り続けなければ・・・そう野梨子は思う。

悠理の話が終わる頃、部屋のドアがノックされる。
どうぞ、と伝えると、魅録が顔を出した。

「どうだ?調子」
「悠理のおかげで大分良くなりましたわ。明日には熱も完全に下がりそうです」
「そりゃあ、良かった。悠理、頑張ったもんな」

部屋へ入り、二人の傍に立つ。
魅録の言葉に、悠理はにっこり微笑んだ。

「うん!」

それから手にしていた物を、彼は野梨子へ差し出した。

「まあ、これ、素敵!」

見ればそれは、小さなクリスマスツリー。
スイッチを入れれば、内側からライトアップされる。

「わぁ、キレイだな~。魅録が作ったの?」
「ああ。カワイイだろ」
「ええ、とっても」
「少しでも野梨子に、クリスマス気分を味わって欲しくてね」
「嬉しいですわ、魅録」

悠理は二人を察して席を立つ。

「じゃ、ちょっとこのトレー、片付けてくるね」

ドア越しに、野梨子は言う。

「ありがとう、悠理。素敵なイヴを、本当に」
「うん。おやすみ、野梨子。メリークリスマス」
「メリークリスマス。おやすみなさい」

悠理は、静かにドアを閉めた。


階下のキッチンに戻ると、清四郎がダイニングのカウンターの前に立っている。

「お疲れさま」
「清四郎・・・」
「野梨子は、落ち着きましたか?」
「うん。あたしが作ったミルク粥を美味しいって、全部食べてくれた。
少しお話しして、今は魅録と話してる」
「そうですか、良かった。今ね、悠理のためにコーヒーを作っていたんです」
「ありがと」
「悠理も今回は頑張りましたね」
「魅録にも褒められた。でも、いつも頑張ってるんだけどなぁ~」
「あはは!それは失礼。いつも以上に頑張りました」
「うん!楽しかったね。野梨子、明日には熱も下がりそうって。帰る前に、ちょっとクリスマスっぽいことまたやろうよ!」
「良いですね。僕が朝からケーキを焼きましょう」
「今度こそ?」
「ええ。今度こそ」

清四郎は悠理へ、マグカップいっぱいのコーヒーを注いで手渡した。

「ありがと。いい香り~。コーヒーを淹れるのもうまいんだ、清四郎」
「悠理って、褒め上手なんですね。そういう女性を妻にすると、男は出世しますよ」
「え・・・?や、やだ~。照れるじゃんか」
「ほら、男って、女性に褒められるとやる気モードになりますからね」
「清四郎も?」
「もちろん、僕も。カワイイもんでしょ?」
「うん。カワイイ」
「好きになった?」
「あはは!ずっと前から好きだよ」

互いが発してしまった言葉に、思わず照れて視線を逸らす。
清四郎はカウンター横の小さな窓のカフェカーテンを引き、ガラスに顔を寄せる。

「おや、雪のようですよ」
「え?ほんと?」

悠理も近寄って一緒に窓に顔を寄せた。

「ほんとだ~、雪・・・ねぇ、積もるかな」
「どうでしょうね。積もるまではないかもね」

二人で雪が舞う夜空を眺める。
ガラス越しの冷気が伝わるが、互いを感じる温もりの方が強い。

「ハッピークリスマス、悠理」

清四郎を振り向くと、すぐ近くに笑顔が見える。
悠理は嬉しくなってそれに答える。

「ハッピークリスマス!清四郎、ありがと」

そして二人は同時に願う。

来年は・・・二人でクリスマスを迎えられますように、と・・・





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