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大切な約束

あれは、確か二年前のお正月だった。そう、よく覚えている。
あたしは豊作兄貴の使いで休み中にも関わらず、急遽デザイン会社からイベント用のデザインラフを受け取りに出掛けた。
デザイナーだって正月休みだったろうに、兄貴に無理矢理、ラフをプリントアウトして欲しいと頼まれるなんて気の毒に思う。
あたしも、でも、こうして社会人になると、休み返上になっても仕方がないことなんだって思えるようになった。
ちょっと大人になったんだと思う。
無事に兄貴のオフィスにラフを届け、あたしは買い物客で賑わう駅前のショッピングモールをぶらぶら歩いた。
急なことだったから、予定していた仕事仲間との映画もキャンセルにしていたし、夕方前にはもう一度兄貴のオフィスから打ち合わせ後のラフをデザイン会社に持って行かなくてはいけなかった。
家に戻るにも中途半端な時間で、あたしは混み合うパスタ専門店でちょっと遅いランチをしようと列に並んだ。ちょうどその時・・・

「あれ、悠理?悠理ですよね?」

突然横から肩を掴まれ、あたしはそちらを振り向いた。

「あ、あぁっ!わぁ!」
「やっぱり悠理だ」
「せぇ、清四郎!」

それは幼馴染みの清四郎だった。
高等部まで同じ学園で遊び仲間、でも大学は、清四郎はメンバーとは違う大学、医大に進学した。
それ以来、清四郎は忙し過ぎて年に数回しか会えず、また研修医として地方の病院へ勤務が決まってからは、ほとんど会うことも連絡を取り合うこともなかった。

「またどうしてこんなとこ?」
「正月休みでね、ちょっと。明日には戻るけど」
「えー。連絡くれれば、みんな揃えたのに・・・」
「ごめんなさい。ゆっくり時間が取れそうになかったものだから」
「ううん、いいよ。相変わらず忙しいんだね」
「ええ、まあ。それより悠理、ちょっと僕とお茶しません?」
「え?でも」
「三十分くらい。いいでしょ?食事がまだなんだろうけれど、この店は混み過ぎで、待つには時間がないんです」

あたしの返事なんて聞かないまま、清四郎はあたしの肩に腕を回すようにして列から外した。
そんな突然の行為に、自分より周囲が驚いたようで、羨望のような眼差しを受けた。
だって・・・清四郎は高等部の頃よりまた少し身長が伸びていて、上品な大人の男性になっていたから。
あたし達はモールのレストラン街から出て、地下の喫茶店へと入る。
客で混んではいたものの、席に座ることができた。
ホットコーヒーを二人分注文すると、ふっとお互いの目が合った。

「ずいぶん綺麗なお嬢さんになりました。正直、最初は気付かなくて、実は何回か横を行ったり来たりしていたんです。知ってた?」
「まさか、知らないよ!」
「そうですよね。でね、ちょっと顔がこちらを向いた時、やっぱりって」
「清四郎だって。声掛けてくんなきゃ分かんなかった。ほとんど大人じゃん」
「あはは。ほとんどって、どんな意味でしょ。まあ、でも、良かった元気そうで。本当にみんなのこと心配してたし、会いたかったんですよ。でも・・・」
「地方研修医は忙しい、でしょ?」
「その通り。休日を利用して遊びにも行けないんですよ」
「もっと近くで研修できなかったの?」
「できなくはなかったけれど、地方の病院の方がたくさんの経験を積むことができるんですよね」
「ふうん。だから、あえて」
「ええ」

運ばれてきたコーヒーを静かに飲む。
今ここで清四郎とこうしていることがとても不思議に思える。
たった十分前まで、あたしは賑わうショッピングモールの中でたった独りでいたのに。
正確な時間までは分からないけれど、残されたあたし達の時間は少ないはず。

「でも、元気でいるんだね」
「もちろん。お陰さまで」
「良かった」

清四郎はカップをソーサーに戻し、もう一度あたしを見て微笑んだ。
それは初めて見る、はにかんだ微笑みだった。

「研修をしている時ね、悠理のこと良く思い出すんです」
「え?」
「悠理って、いつもメンバーのために笑って、泣いていたでしょ」
「そ、そうかな?」
「感受性が誰よりも強くて、だからトラブルばかり持ち込んで、みんなが合わせるのが大変だった」
「あはは・・・」
「病院っていろんな考え方の人がいるから個性も強くて、誰かのために笑ったり泣いたりすることなんて少ないんですよね。残念なことだけど、自分のために誰かを蹴落とすようなことも実際にあるんです」
「・・・・・」
「社会のいろんな所で、こんなことは行われているんだろうけれど。そう言う時に、悠理を思い出すんです。誰かのために笑って泣けるのは、本気で誰かを愛していることだから」
「清四郎・・・」
「僕は悠理の純粋なほどに真っ直ぐで、不器用なくらいに正直なところが大好きなんです」


清四郎は、この話をあたしに伝えたかったのかも知れない。


あたし達は喫茶店を出て地上へと階段で向かう。

「悠理も、豊作さんの元で頑張っているんでしょ?」
「まあね。こき使われてるよ!今日だってせっかくの正月休みに呼び出されて。
また会社に行かなくちゃいけないんだから!」
「おや、仕事中でしたか?それは失礼しました」
「ううん。偶然でも清四郎と会えたから嬉しかった。本当に」
「僕も。メンバーの誰より、悠理に会いたかった」

その言葉に驚き、ちょっと頬が熱くなるのが分かる。
あたしったら、赤くなってるかも。
モールのフロントまで来て、あたし達は立ち止まる。
さよならの時間だ。
別れ際に、清四郎は右手を差し出す。
だからあたしも、その手に自分の右手を重ねた。
思わず強く握られて、びっくりしてしまう。

「悠理の手、こんなに小さかった?」

言葉を失い、何故だろう、鼻が痛くなって目の辺りが熱くなってきた。
清四郎が、だんだんぼやけてくるよ。

「悠理、落ち着いたら大切な話があるんです。その時は連絡しますから、それまで元気でいるんですよ」

握った手は今度、あたしの頭をポンポンと触れる。

「体を大事に。じゃあ」

清四郎の温かな掌はあたしから離れ、体も離れて行く。
後ろ向きで上手に歩きながら、あたしにその手を振っている。
あたしはと言えば、さっきから言葉を失ったままで、お互いが離れて行くって言うのに、何もできないまま突っ立っている。
頬に負けないくらいの熱い涙がいくつも流れているのが分かる。


行かないで、清四郎。お願い・・・行かないで。


涙で曇る目を何度も拭いながら、最後に、清四郎に向けて大きく手を振った。



✳ ✳ ✳ ✳ ✳   ✳ ✳ ✳ ✳ ✳   ✳ ✳ ✳ ✳ ✳



二年経った今年のお正月に、すっかり疎遠になった年賀状があたし宛に数枚届く・・・
その中に、懐かしい差出人の名前があった。
急に心臓がドキドキして、冷たい汗が背中に流れたように思えた。
裏返すとかわいい今年の干支のイラストがあり、あたしは書かれている文章に目を走らせる。

そこには近々こちらに戻って来ると言うことと、あたし達の近い将来について、アイツらしい“提案”が書かれていた。




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