FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

二日の日の夢から

大学生になって独り暮らしを始めて、すっかり習慣になった部屋の掃除。
でも苦手なのはもちろん変わらないから、あたしはドライシートで簡単に拭き掃除をする。
だって全室がフロアリングだから、すぐに終わっちゃう。
家具と家具の間もベッドの下も。
部屋の隅々まで簡単拭き掃除~♪なんて呟くと、何だか掃除のコマーシャルみたいだ。
だから毎日学校から帰ってくると缶ビールを左手に、ワイパーを右手に拭き掃除をする。
ちょっと楽しみもないといけないからね、ビールだって必需品。
こうしてちょこちょこやっていれば、特別な時間はもうけなくたっていいもん。
そうしてベッドルームまで掃除する。
部屋数の少ないマンション生活だから、短時間で終わってしまう。
あたしはベッドの下の綿ぼこりを最後にと、しゃがみこんでワイパーをぐっと普段以上に奥へと滑り込ませた。その時・・・
ちゃりん、とワイパーに何かが当たった音がした。
座り込んで顔をベッド下に入れても、暗くて良く見えない。
あたしはもう一度ワイパーを左右に動かし、音を聴きながらそれを押し出した。

「あ、これ・・・」

それは以前の同居人の持ち物。
銀色のクローバーと鈴のキーホルダーが付いたこのマンションの鍵だった。

「なんだ、こんな所にあったんだ。なくしたって、確かあいつ」


もう一年以上も前になる。
あたしは清四郎と同棲(高等部の頃には考えもしなかった!!)していた。
倶楽部のメンバーとの週末の飲み会で、二人酔いに酔って独り暮らしを始めたばかりのあたしのマンションにふらふらになって帰った。
真夜中も充分に過ぎた時間だ。
酔いに任せてって言ったら良くある話じゃん、って耳が痛くなるほど言われるんだろうけど、その通りにそんな関係になった。

「まさか悠理とこんな関係になるとはね」

翌朝、って言うか、昼近くに目覚めたセミダブルのベッドの中で清四郎が天井を見上げながらそう言った。
言葉を失って丸くなっているあたしを尻目に、清四郎はベッドから出て勝手にシャワーを浴びてキッチンで二人分のコーヒーを作ってくれた。
会話がほとんどないまま、キッチンで立ったままそれぞれコーヒーを飲んで・・・その後は・・・何かあったかな?
何をしたか覚えてないけど、あたしがシャワーから出た時には清四郎は帰り支度をしていた。

「じゃあ、気を付けてね」

あたしは言う。
そしたら意外な言葉が返ってきた、そうだ。

「またここに来ても良いか」

そう清四郎は言ったんだ。
あたしは“ここに”と言う意味を取り違えて、と言うか、深く考えないで“いいよ”
と答えた。
月に何回か行われる週末の飲み会の後、清四郎はあたしのマンションに泊まった。
帰りのタクシーに紛れて一緒に帰ったり、別々の帰りでも、清四郎はマンションに来て泊まったんだ。
そうしている内に月に何度かが毎週末になり、終いには一緒に暮らしていた。
清四郎の図々しさは昔っからだから、着替え等の私物も持ち込んですっかり二人の部屋になっていた。
それから・・・?それからどんな生活を送ってたかな?
同じ大学でもメンバーそれぞれ学部が違うし棟も違うし、以前のように毎日会う訳でもなかった。
最初の内こそだったけど、いつしか週末の飲み会も頻繁ではなくなった。
だから、あたし達二人の同棲は、誰も気付いていない。
過去になった今も、そう。
そして、多分、鮮明な記憶として残ることがないような生活だったんだと思う。
断片的には覚えていても、それが繋がるようなことってないから。
でも、この鍵のことは覚えている。
この鍵は、二人が最後の時を迎えた原因だったもん。

あの日、しつこいほどになった真夜中のドアフォン。
あたしはベッドの中に独りで寝ていて、スマホの着信音で目が覚めた。
びっくりして手にしたら、清四郎だった。
同時にドアフォンも鳴っていて、真夜中だったから普段以上に音が大きく感じた。
セキュリティが強化されてるマンションではなかったから(独り暮らしなんてすぐに厭きるだろうって、豊作兄貴が安易に見つけたマンションだったし)、玄関のドアの向こうには不機嫌な顔で清四郎が立っていた。
急いでドアを開けたら、清四郎は夜の匂いさせながら入ってきた。

「ずいぶん遅いね。自分で鍵開けて入って来ればいいのに。あたし寝てたんだけど」
「数日前から鍵をなくして見つからない」
「鍵がなくて遅いんなら、自分ちに帰りゃいいだろ。それに最近、こっち来たり来なかったりで、待ってらんないよ」
「別に待たなくてもいいよ。研究で忙しいんだから」
「だってこんな遅い時間!起こされて迷惑」
「悪かったね。明日にでも合鍵作っておいて下さいよ」

嘘ばっかり!
あたしはそう言いそうになった。
なんでかって?だってあたし知ってたんだ。
清四郎、同じ学部の研究員の女の子と仲良くなったってメンバーが噂してたから。

「合鍵を作る相手、違うんじゃない?」
「は?」

あたしの顔なんか見ないで、清四郎はキッチンの冷蔵庫から缶ビールを取り出して飲んでいる。

「みんな知ってるよ。新しい彼女ができたんだって」

しばらく天井を見上げ何か考えるようにして、それからあたしを蔑むように見た。

「サイテーだな、悠理。嫉妬ですか?そんな根も葉もない噂を信じて」

その時あたし、清四郎は嘘吐いてんだって信じきっていた。
正直、その頃の清四郎は帰宅が遅いかここに帰ってこないかだった。
もともと会話が多い、普通のカップルのようなラブラブな生活なんかじゃなかったし、それに好き合っている訳じゃなかったから。
そう、心が通じ合っている、恋人同士なんかじゃなかったんだから。

「根も葉も?見られてんだから仕方ないだろ!」
「見た?何を?一緒に話したり歩いてるだけで付き合ってるですか?じゃあ僕は、今まで何人の人と付き合ってきたんでしょうね」

これ以上話したって埒があかないから、あたしはベッドルームに戻った。
もうすっかり目が覚めちゃって、清四郎がシャワーを浴びて隣に滑り込んできた時は、背中を向けて寝た振りをしていた。
あたしが寝ていないのは分かったみたいで、清四郎は暗闇で言った。

「ここの合鍵はもう見つからないだろうし、作り直す必要もない」

それから・・・清四郎はあたしを抱いた。
ゆっくりと丁寧に。こんなに優しく抱かれたのは初めてだった。
そして、それが最後だった。

朝になって清四郎はまた出かけたけど、もう二度とここには帰ってこなかった。


気持ちは今も平行線で、交わることはない。
時々学校の講堂や食堂で会うけど、別段変わらない。
一緒にランチしたりお茶したりするけど、不思議なくらい普通に過ごせる。
だからメンバーも今になっても気付かないんだろうな。
あたし達、二人の過去に。
あれからも、二、三ヶ月に一度くらいはメンバーと飲み会を開いている。
一緒に飲んで、話して・・・でも、帰りが一緒になることはない。
最初の頃は、ちょっと部屋で待っていたこともあったけど、もう、全然。
心の中にぽっかり穴が開いた感じはあっても、泣くことはなかったし。
そんな正月明けの飲み会で、カウンターの隣の席に清四郎が座る。

「どう?元気?」
「うん」
「あれから・・・」
「ん?」
「僕の噂なんてすぐに消えたでしょ?」

一瞬、なんのこと訊いたのか分かんなかった。
でもあたし達の間に流れる空気で気が付いた。

「ああ、まあね」

ストレートで飲むウィスキーは胃にしみる。
チェイサーを一口飲んだ。

「昔から僕を知る悠理が、あんな噂を信じるなんてね」

突然一年以上も前の、終わったあたし達の話をされてもね。
この間、偶然清四郎の合鍵をベッド下で見つけて、今夜のタイミングも偶然?

「みんな信じてたもん」
「僕を信じないで?」
「・・・・・」

言葉につまっていると、足元でちゃりんって音がした。
二人で覗き見ると、清四郎のスツールの近くに落ちていたそれを手に取った。

「あ・・・」
「これ」

あたしのマンションの鍵。それとこの間ベッドの下で見つけた合鍵。
何となく、ちょっと懐かしくって、二つを銀色のクローバーと鈴のキーホルダーで繋げていた。

「悠理が持っていたの?」
「ううん。この間ベッドの下を掃除したら見つけたの」

そう口にして、周りを気にする。
悪いことしてるみたいな気持ちになって。
でも、みんなそれぞれ会話を楽しんでいる。

「そんな所に落としていたんですね」

それから清四郎は、いたずらっ子のような顔をして鍵をジャケットの内ポケットに入れる真似をした。

「僕のだから返してね」
「へ?ヤダよ。あたしの部屋のだもん」

清四郎の手から奪い取ろうとすると、上手い具合にかわされた。

「そんな鍵持ってたって、どうしようもないよ」
「またこれから使います」
「・・・な、んで?」

清四郎は内ポケットに完全に鍵をしまいこみ(あたしの鍵も付いてるのに!)、それからウィスキーを一口飲んだ。

「僕の噂はただの嘘だった。でしょ?」
「う、うん」
「研究で忙しい僕が、たまたまベッドの下に鍵を落としただけだった」
「・・・・・」
「真相は単純で、それは明かになった。だとしたら?また以前の生活に戻っても差し支えないんじゃない?」
「で、でも」
「何か問題でもあります?悠理に好きな人ができたとか、付き合っている彼がいるなら諦めますが」
「う~ん」
「いないんでしょ?」
「さ、さぁ~」

清四郎は内ポケットから鍵を出し、あたしの目の前で振って見せる。
鈴が音を立てて揺れた。

「言うこと聞かないと返さないから」

子供みたいなこと言うな~。いつからこんなになっちゃったの?

「どうして?悠理。良いでしょ?またやり直そうよ」
「・・・・・」
「あの部屋で、こんどはきちんとした形で」
「ん・・・」
「悠理がこうして僕のキーホルダーと鍵を自分のに付けてた理由が、全てを物語っているように思えるんですが。それとも別の理由があるの?」
「ちょっと、懐かしくって」
「過去のことで終わらせたい?」
「・・・・・急に、そんな。分かんないよ」
「うん。分かんないですよね」

それからしばらく、カウンターの向こうをまっすぐ見つめながら、それぞれのグラスを傾けた。

「分かんないよ。でもあの時は、ヤキモチ焼いていたんだと思う。でもうまく言えなかった。だって、中途半端な付き合いだったから」

あたしは言う。まるで自分に言い聞かせるように。

「うん。分かるよ。それは僕にも責任がある。照れもあるし、気持ちを確かめる前に関係を持ってしまったからね」

ナンだかドキマギしちゃう。
みんなに聞こえちゃったらどうしよう。

「あれから僕はね、真相が明らかになるまで待っていようと思ったんです。だって僕は嘘吐いてないですからね。強みです。でもなかなか、悠理は僕を認めようとしてくれない。うん、そうじゃないか。ただの噂と分かっても、過去の出来事として終わらせてしまおうとしている。ね?」
「だって、気持ちは未だに分かんないから。好きでもないのに、どうもできないよ」

清四郎はびっくりしたようにあたしを覗き込む。

「好きじゃない?それなのに一緒にいたの?まさか!?」
「ちょっ!声でかいよ!」

もちろん、周りには聞こえていない。
だって、誰もあたし達の会話を聞いていないどころか、みんなそれぞれだもん。

「そう言うすれ違いもあったんですよね、きっと。だからこそ、今度はきちんとした形にしたいんです」
「うん。分かった」

子供みたいな笑顔が広がる。
今夜の清四郎は、ホント、子供みたいでかわいいな。

「でも偶然って重なるよね。この間鍵を見つけたのも、今夜の話も」

笑顔は、あたしにも移る。

「実はね、お正月二日の夜の夢で、合鍵が見つかる夢を見たんです」
「へぇー」
「ベッドの上で悠理が泣いて起きて。慌てて僕は、何度も大丈夫って。鍵はほら、もう見つかってあるからって」
「正夢?初夢?ん、違うか」
「だから、今度悠理に会ったら話をしないとって思ってた。そしたら、やっぱり」

清四郎ったら、楽しそう。
でも、素直に嬉しいよ。

「悠理の夢関連は、絶対ですからね」
「あはは・・・」
「だから、今度こそ、きちんとした形でやり直しましょうよ」

それはまるで、懇願するみたいに。
清四郎が、あたしに・・・嘘みたいだ。

「お願い」

だからあたしは、二人の鍵が付いたキーホルダーを握る清四郎の手にそっと触れる。

「いいよ。分かった。あたしもそうしたい」

そう、返事をしながら。

そして、その後、メンバーと別れて、あたし達は二人でタクシーに乗り込んだ。





拍手・ランキングへのクリックをありがとうございます!
ランキングへ参加しています。
にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村




スポンサーサイト
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。