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another page volume 2

美童の新しい彼女の家に悠理と共に遊びに行った時だ。
その人は、今までの美童が付き合ってきた女と違って、何と言うか、普通の人っぽかった。
こんなこと言うのは失礼かも知れないけれど、特別な美人でもないし、知的なイメージもないし、住んでいるマンションだって一流とは言えない。
築年数も経っていそうだし間取りも悪く、何と言っても狭かった。
それでも彼女は部屋を小綺麗にして、質の良い家具を置き、独り暮らしを楽しんでいるようだった。
何でだったのだろう?
俺はその女性と少しの間二人っきりになった。
美童達は・・・確かお茶菓子を買いに出掛けてしまったんだ。
悠理と、そうだ、駅前の洋菓子店まで行ってくるって。

「彼女、パソコンの調子が悪いって言ってたから、ちょっと魅録見てあげてよ。僕は悠理とケーキでも買ってくるから。頼むね」

普段のデートなら、俺なんか絶対誘わないくせに、なるほどこう言うことなんだってその時思った。
行く前までは、美童と彼女と・・・何で俺って思って、あぶれるのが嫌だから悠理を誘ったんだ。

「あ、あの、パソコンの調子が悪いって美童が・・・」

彼女が小さなリビングの窓を開けたのをきっかけに、その細い背中に声をかけた。

「そうなの。時々ネットが途切れちゃうの。それに電話も。通話の途中で急に音がなくなって、その後に切れちゃうのよ」

二月にしては暖かい日で、窓から入る外の空気は春の匂いがした。
美童達がいた時まではあまり話さず、静かに微笑んでいるばかりだったから大人しい人だと思っていたけど、声をかけると意外にも人懐っこい感じで応えた。
確か俺達よりもずっと年上だと聞いた。

「何時ぐらいから?」
「えっと、けっこう前よ。去年の秋頃からかしら」
「ふうん。モデムとか、正常です?ランプが点滅とか点灯とか」
「そんなの、私分かんないわ」

女性らしい回答だ。

「モデム、何処にあるの?」
「そこよ。そこのパソコンデスクの下」

さっきの窓の隣に、組立式のパソコンデスクがある。
一番下の段に、ひっそりとモデムとwifiルータが並んであった。
見ただけですぐ分かる。
VDSLランプがタイミングよく点滅していたから。

「VDSLのリンクダウン」
「リンクダウン?」
「まぁ、回線未接続ってことです。電話会社に連絡とかしてます?」
「いいえ。まだだわ」
「マンションの管理人は?」
「それも、まだよ」

俺はモデムを手に取り、電話機ポートやLINEポートを確認する。
コンセントに無理な配線もなく、けれどVDSLランプだけは時々ゆっくりと点滅した。

「う~ん。ちょっと外の集合装置を見てきます」

ポカンとした顔で俺を見上げ、首を傾げる。
とても年上の女性には見えなくて、何故か可愛いと思った。
外の保安器内の集合装置のポートには異常は見られない。
彼女にそう伝えると、最近ネットの切断頻度が多いから、週明けにでも電話会社に連絡してみると答えた。

「多分モデムの交換とかになると思う。設定料金くらいは取られるぞ」
「仕方ないわ。見ていただいてありがとう」
「一応、管理人にも連絡した方がいい。中の配線設備が原因だと、管理人が負担しなくちゃだから」
「分かったわ。ねぇ、コーヒーを淹れるから、もう休んで」

彼女はそう言ってキッチンのカウンターの上にあるコーヒーメーカーのスウィッチを押した。

「切断が始まるちょっと前に、部屋の模様替えをしたの。多分その時に、モデムを倒すとかしたんだと思うわ」

コーヒーメーカーから湯気がゆっくり立ち上り、室内にはコーヒーの良い香りが漂った。

「そう言えばその時、電話線を無理に引っ張ったような・・・」

俺は、モデムから繋がる電話線を辿る。
モジェラージャックはキッチンのカウンターの裏にあった。
その下で、電話線はとぐろを巻いている。
異常はないようだったが、もう一度、今度はモデムまでの線を手で触れながら辿る。

「あ、リンクダウンが始まったわ!」

その場所で、電話線が少しだけ膨れている。
手を離してしばらくすると点滅が収まるが、また触れると点滅が始まった。

「電話線が原因かも、かぁ」
「やだ、ごめんなさいね。外まで行かせて電話線なんて」
「ここで接触不良してたんだ」
「見せて」

カウンターに二人分のマグカップを置くと、彼女は俺の隣までやって来た。
持っている電話線に彼女の手が伸びると、俺の掌でその膨らみを確かめた。

「どうして膨らんでいるの?」
「触った感じ、中で線が捻れてるから。何処か一本、切れてるのかも」
「ここに?こんな細い線に何本か入っているの?」
「多分四本くらい」
「へぇ、ここにね。よく分かんないけど、そうなのね」

彼女の細い指が触れ、長く真っ直ぐな髪の毛も触れた。
けれどそれらは、すぐに俺から離れていった。
彼女は窓を閉め、そして一瞬だけ、親密な空気が流れた。
言葉は互いにないけれど、振り向いた時に視線が交わり、見えない何かが胸の奥へと入ってきた。

「美童からさっきメールが届いて、駅前の洋菓子店が臨時休業だから、悠理ちゃんともう少し先まで足を伸ばしてみるって」

コーヒーが淹れられ、俺はカウンターのスツールに座る。

「そう。ねぇ、どうして美童なんかと付き合うの?」

俺は素直に訊いてみる。
いや、本当は美童に訊いてみるべきだったのかも。
あいつが、どうしてこの女を選んだのか。
特別綺麗でもなく、正直印象に残りにくい。
ただ、時々見せる笑顔に心が惹かれる。それだけだ。

「分かんないわ。だって美童がここに来たがるんだもの。多分箸休め程度じゃない?」

そう言って彼女は気さくに笑う。
そこには嫉妬や僻み何て感じられない。

「魅録君が言いたいことは分かってるわ。普段美童が選ぶ相手とは程遠い女だと思っているんでしょう?」
「ごめんなさい」
「良いの、知ってるから。でも、多分私は、会っていて疲れないんだと思うわ。美童の住む世界と私は全然違ってるんだけど、そこに新鮮な、あるいは癒しのようなものを感じているんだと思うの」

彼女は、さっきとは違う表情を見せる。
無邪気な笑みは消え、大人の女の笑顔になる。

「美童はね、私ともう少し先の関係を求める時もあるの。でも私は、求めていない。だってそうなっちゃったら、美童はここに居場所をなくすって分かってるから。彼にも、骨休めは必要だって思うしね」
「だから、あんたの気持ちを犠牲にするの?」
「犠牲?そんな大袈裟に捉えてないもの。美童はいつかここを去るわ。それは今日かも知れないし、明日かも知れない。でもだからと言って、お互いを傷付けなくても良いと思うの」
「傷付ける?」
「気休めで、そんな関係になってはいけないでしょ。それに、何時か来る別れを知っていながら、傷付く必要はないもの」

全く、その通りだと思った。

程なくして、美童達が戻ってきた。
コーヒーを淹れ直し、買ってきたケーキを食べ、みんなで話をしていると別れの時間になった。
俺と悠理はこれからバンド仲間と約束がある。
美童はもう少し彼女といると言う。

「電話線を新しいのに換えて様子を見るといい。それでもリンクダウンが続いたら、電話会社と管理人に連絡して」
「分かったわ。ありがとう」

帰り際にそう伝えて、俺は彼女と別れた。
多分もう、会うことはない。
帰り道、悠理が俺の腕に自分のを巻き付けて、しがみつくようにして歩く。

「ナンだよ。歩きづらいぞ」
「魅録、あたしのこと好き?」

少し前から、俺と悠理はちょっとだけ先の関係になっていた。

「何で?」
「だって・・・急に訊きたくなったんだもん」

今の俺は、悠理にとって不安の材料でしかないんだろう。
気持ちが、ちょっとだけ逸れているから。
悠理の野生の勘はホンモノだからな。

「イチイチ、そんな分かってること訊くな!」
「分かって・・・」
「黙って俺のこと信じろ!」

返事の代わりにしがみつく腕に更なる力が加わる。

「あたた。力入れ過ぎ~」

照れ隠しに、俺は言う。
そして、ふっとさっきの女の笑顔を思い出す。
惹き付けられるような、大人の女の顔・・・でも、きっとすぐに忘れるんだろう。

本気になるって選択は、あの人にはないのかな?
美童相手に、そんな危険をおかすワケないか。
それとも美童を大切にするからこそ、本気にならないのか・・・
あの笑顔の裏に、大人の優しさと寛大さと、哀しさがあるんだろう。

あんたのことは忘れた方がいいんだろうね。
名前すら、覚えていないし。
ただ、俺が大人になるなら、あんたのような大人になりたいって思うよ、本当に。

俺は、不安そうに見上げる悠理の肩に腕を回した。




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