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memory flickers 2

それからは彼女の事後報告として。
あの見合いから九ヶ月後、彼女達は偶然に、頻繁に逢うようになった。
とは言っても、デートをしたりゆったりとした時間を取ったりではなく、たまたま偶然、それはパーティ会場だったり、オフィスビルのロビーだったりした。
その時の彼は悠理を見つけるなり嬉しそうに微笑んだそうだ。
彼女の記憶の中での彼はずっとナルシシストでインテリゲンチャ的であった。
言葉遣いが丁寧で、優しく、無表情な。
けれどなぜか、強く惹かれて、忘れられない存在だった彼。
そんな彼と彼女は急展開した。
とにかく二人は偶然に至る所でよく逢った。
その度に彼は今までの記憶を打ち消すような微笑みを彼女に向けた。
ナルシシストでインテリゲンチャ的であるものの。
それは悠理にだけに向けた特別な親しみを加え、口許だけではない心からの微笑みと彼女は捉えることができた、と言う。

きっと、本当に、悠理はその彼を好きになってしまったのであろう。
恋した人にしか分からない感情なのだから。

「デートの約束とか、これからの二人について話し合った?」

僕は訊く。
けれど彼女は淋しそうに微笑み、首を振る。

「一回もそんな話、したことがないよ」

いつも偶然出逢うから、互いの近況をちょっと話して・・・それで終わってしまうと言う。
悠理らしくなく、すごく緊張して、何を話してよいのか分からなくなった。
彼が質問するいくつかの事柄に答えるのが精一杯だったのだと。
僕が思うに、そんな彼女の様子を彼は感じ取っていたのだと思う。
だから彼も次の約束なんかせず、全てを自然に任せようとしたのかも知れない。

「偶然逢えた時の回数と時間を合わせると、ホント、大したことないんだ。まとめちゃったら、ひょっとして十分間とかそんなもんかも」
「今はそうでも、その内、二人は好きな時に好きなだけ会えるようになりますよ」
「うん」
「いつでも会える距離に、悠理達は存在しているんだから」

彼女は嬉しそうな、ちょっと安心したような微笑みを僕に向けた。
そして悠理は、とても美しい女性になっていた。

二人が出会って一年が経とうとするある日、彼は突然彼女の邸宅にやって来た。
きちんとスーツを着て、エントランスホールで悠理に会いたい旨を伝えた。
彼女が彼の前に現れると、彼は丁寧にお辞儀をした。
最近向ける彼女への微笑みはなかったと言う。
二人は中庭に出た。
夏の陽射しがまだ激しくならない午前中で、小さな噴水が気持ち良さそうに飛沫をあげた。
二人はその周りをゆっくりと歩き、他愛ない天気の話をした。
ここ最近の彼ではないことへの違和感を覚えた悠理は、ちょっと淋しかった。
そしてちょっと他人行儀な態度は彼女を哀しい気持ちにさせた。
だから悠理はそれを紛らすために彼から目を逸らし、まるでどこか遠くを見るように、また全く別の何かに思いを向けるようにしていた。
そうして二人は、せっかく縮めた距離を遠ざけた。
僕から言わせれば、多分、彼は正式に彼女に交際を申し込もうとして来たに違いない。
けれど恋愛に不器用な二人は、互いに溢れんばかりの想いをすれ違えてしまったのだろうと思う。
悠理は時々、彼に目を向けた。
その目は最初に会った時のように表情がなかった。
彼女を目の前に存在する何かのように見つめていただけだった。
彼の指先も靴先も、もう知らない誰かのような気持ちがした。
彼女は“ここまでだ”と思った。
これ以上は、ただ哀しく傷付くだけだと感じた。

結局二人は、また次の約束のないまま別れた。

「多分しばらくは、また逢えない日々が続くと思うし、あたしもそう願っているんだ」
「分からないですよ。偶然街で逢うかも知れないし、また悠理を訪ねて来るかも知れない」
「ううん。多分そうならない」

彼女は言う。
彼女がそう言うのだから、多分そうなのだろう。
この彼女の想いを、これ以上傷付けたくないのであろう。
ピュア過ぎる気持ちが、もう限界に来ているのだ。
かわいそうだけど、僕には何もしてあげられない。
そう悠理に伝えると、彼女は優しげに僕を見上げて微笑んだ。

「清四郎、一年近くずっと傍にいてくれてありがと」
「どういたしまして。僕でいいならいつでも力になりますよ」
「うん。ありがとう。ありがとね」
「いつでも、どんな時でも、僕は悠理の味方だし、傍にいます」
「うん」

それから彼女はちょっとだけ泣いた。
僕が二人の間に立って誤解を解くことはできるけど・・・今はそれを必要としないのだから・・・

通りを吹き抜ける風が熱いアスファルトの匂いを放つ。
この夏、彼女はまたひとつ大人になる。
僕はそんな彼女に触れてみたい・・・と心から思った。




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