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秋が終わる頃までには

窓の外では色づき始めた枝葉が、風に煽られるように揺れている。
夏とは明らかに違う陽射しが木々の影を黒く、そして長く伸ばし、冷ややかな空気をそこかしこに漂わせていた。

「何を考えてる?」

窓辺に立つ悠理の華奢な背中に魅録は問う。
先程、学園祭を二人で抜け出して彼の家へ来たのだ。
普段の静かな校内とは違って、生徒も競うように盛り上げ、また外部からの来場者で賑わっていた。
今、この場所に自分達がいなくても良いと判断した二人は、生徒会のメンバーには何も告げずに下校した。

「別に」

振り向きもせずに彼女は答える。

「大丈夫なのか?」
「何が?」
「最近・・・」

そこまで言って、魅録は口を閉じる。
最近・・・そう最近、二人で交わされる会話だ。
けれど彼はそれ以上彼女に問わない。
例えその会話を続けたとしても、答えは自分には与えられないと知っていたからだ。

「夜、バンド仲間の所に遊びに行かないか?」
「う~ん」
「明日は学園祭の片付けの頃に学校へ行けばいいんだし、それまでは自由にしてられるさ。今夜だってずっと遊んでられる」
「でも・・・」
「来月ライブがあるから、奴ら遅くまでスタジオで練習してる。面白いぞ」
「今日は止めとく。悪い」

彼女は振り向き、普段の笑顔を彼に与える。

「じゃあ俺とどっか行く?」
「魅録、あたし・・・」
「うん?」
「ごめん。もう帰る」

そう言いながらも、彼女はその場を動こうとしない。
何かに急かされ、裏切られたような感じ。
空虚、あるいは喪失。
今の彼女にはそんな言葉が似合うと彼は思う。

「どこにも出かけなくていいよ。だから、ここにいろよ」
「魅録」
「何も言わなくていいよ。俺も訊かない。だからずっとここにいろよ」
「それは、できないよ」
「な・・・いや。そうか」

けれど彼女は言葉とは裏腹に動かない。動けない。
動けないままでいる。

先日こんなことがあった。
悠理が部長を務める運動部の学園祭準備で遅くなった放課後、部員に進行過程を報告書に書かせた彼女が生徒会室へ書類提出の為に入ってきた。
部屋にいたのは生徒会長の清四郎ただ一人で、報告書内容の説明を簡単に済ませることができた。

「悠理にしては上出来ですね」
「あたしが書いたワケではないもん」
「でも意図がちゃんと部員に伝わってますから」
「部員のデキがいいわけ」
「悠理の指導が良いからですよ。上に立つ者が良いと、自然に周りも整います」
「ありがと。素直に」

それから二人は、生徒会役員としての学園祭の催し物について話し合った。
ただでさえ人気を集める彼等への期待を裏切る訳にはいかない。
けれどあらゆる場所で必要とされる彼等ができることは、初日の開会式直後と思われる。
二人で企画書を作成し、翌日に役員であるメンバーに伝えようとその日は終えた。

「これからはこんな風に、悠理との時間を増やしたいな」
「え?何か生徒会としての仕事が増えたの?」

無邪気にそして純粋に訊く彼女へ、清四郎が普段は見せない微笑みを向ける。

「悠理、そうではないよ。そういう意味では、ないです」

不思議そうに彼女は首を傾げる。

「そうではなくて、僕と悠理だけの、特別な時間を増やして行きたいんです」
「・・・でも・・・」
「何か不満でもあるの?」
「だって、あたし?野梨子じゃなくて?」
「野梨子?何故?」
「だってぇ」
「野梨子と僕はいつも一対として捉えられがちですが、そうではないです」
「そうかな?だって野梨子にとって清四郎は特別だよ。そう言ってたもん」
「ふうん」

そう、野梨子にとって清四郎は特別だと、悠理は知っていた。
彼女が言うように、野梨子本人の話だ。

“清四郎は私にとっては特別な人。幼馴染みでもあり、兄妹のようでもあり、親友でもありますの。でも・・・

私はもっと深い関係を望んでいますの”

野梨子はそのように悠理へ言った。

“望まなくたって、もうそう言う関係じゃないの?はじめっから”
“いいえ。違いますの”

彼女は言う。
まっすぐ、悠理へと視線を向けて。

“私が今彼を望んでも、彼は他の誰かを望んでいるから、駄目ですの”


その時は、野梨子の言う意味が分からなかったが、清四郎との会話によって悠理は覚った。

「僕ではいけませんか?悠理。僕では悠理を満足させられませんか?」

遠回しではある清四郎の告白に、素直に悠理は喜べない。

「待って、待ってよ。満足とか、ナンとか、そんなんじゃなくて」
「では何がいけないか、説明してもらえませんか?」

答えを急ぐ清四郎に、悠理は困り果ててしまった。

「清四郎、あたしではダメなんだよ。野梨子でなくっちゃ、ね?そうでしょ」

まるで一方通行な言い訳に、今度は清四郎が困り果てた。

「悠理の野梨子への心遣いは分かりました。でもね、人を愛するって、時に筋が通らないような理不尽さもあるんです」
「・・・・・」
「確かに、悠理には時間が必要でしょう。いや、誰だってすぐには返事ができませんよね。だから・・・」

だからゆっくり考えて、悠理の素直な気持ちを知りたいのです。

そう言って彼は悠理へ眼差しを向ける。
それは熱を帯びているようで、普段とは違う、異性を感じさせるものだった。


あの時間を取り戻したいと思う。
あの日の、あの二人の時に戻れたのなら、もっと違う言葉で清四郎へ伝えられたのではないかと思う。

突然窓の外の木々が突風で激しく揺れ、悠理は現実へ引き戻される。
それから少し前の、学園祭での出来事を思い起こしてしまう。
生徒達で込み合った体育館で、彼女は野梨子と隣り合わせで歩く清四郎を見つけた。
仲睦まじく顔を寄せ合って話している二人に焦点を合わせてしまう。
その背中をじっと見詰めてしまう。
しばらくすると彼女の視線を感じたように、彼は彼女を振り返る。
まるで始めからその場所に彼女がいるのを知っていたかのように振り返った。
それからあの放課後の時のような優しい自分だけに見せた笑顔向け、彼は彼女を手招いた。
けれど彼女は、何故か振り返らない野梨子の背中を息苦しく見てしまう。
けっして振り返らない野梨子の背中は、悠理を許さないと言っているよう・・・

“あたしは、この場所にはいなかった。
清四郎の笑顔は勘違いで、別の誰かに見せてしまった笑顔だったんだ。
あたしは、はじめからこの場所にはいなくって、だから野梨子は自分の想いを清四郎に伝えることができるんだ。
だって、そう言っていたもん。
この次に清四郎と二人きりになれたなら、自分の気持ちを伝えてみますのって、言っていたもん。

だから、これでいいんだ。
あたしはこの場所に、はじめっからいなかった。
そう、これでいい。これで、いいんだ”

突然腕をつかまれて悠理はそちらへ振り返る。
その時、自分の頬に熱い滴が落ちたのを感じた。

「おい、どうした?ぼうっと突っ立ってちゃ危ないだろ?」

腕をつかんでいるのは魅録だった。
彼は驚いたように彼女を見ている。

「どうして泣いてんだ?どこか痛いのか?」

突拍子もない彼の問いに、悠理は思わず吹き出した。

「目に塵が入っちゃって。すんごく痛くて、瞬きもできなくてさ。動くの忘れてた。やっとこさ涙が出たから、取れた」

彼女の返事に、彼は安心したように微笑んだ。

「ね、学園祭、厭きちゃった」
「俺も。自分達の出番も終わったから帰ろうか?」
「うん!」


「悠理、ここにずっといろよ。何も話したくないんだったらそれでいいから、ずっと俺といてくれよ」
「魅録」
「俺はお前を裏切らない。絶対に。いつでも傍にいて、淋しい思いなんかさせない」

魅録は優しい。
でも、ダメなんだ。
今のあたしは、誰のとこにも行けないんだ。

「魅録ごめん。あたし・・・好きな人が別にいて」
「知ってるよ」
「え?」
「知ってるよ。清四郎だろ?」
「な、んで・・・?」
「だってずっと傍にいるんだぞ。メンバーの誰よりもずっと長く。知ってるんだ、そんなの。知ってて言ってるんだ」
「・・・ごめん。魅録、ごめんね」
「お前が誰を想おうと、お前の自由さ。けれど何があっても、俺はお前が好きだ。お前が別の誰かを好きでも、付き合っても・・・例え誰かに裏切られても。俺はお前を見守っている。それだけは忘れんな」
「ありがと」
「なぁ悠理、気になるなら行けばいい。思い残すことがあるならやればいい。何かを疑うなら知ればいい。辛くなったら、ここに戻ればいいから。俺はいつでも、お前を、どんな風になっても受け入れるから。俺を重荷と感じるなら、思い出さなくてもいいけどさ。けれど、もし、行き場を失ったと言うんなら・・・」
「そんな都合のいいヤツ、いないよ」
「あはは!そっか、そうだよな」
「違うんだ、魅録。あたしは誰のとこにも行かない。頑張って、気持ちの整理をしてみたいんだ、ひとりで。魅録の言葉はあたしのお守り。ちっとも重荷なんかじゃないよ。でもあたしのためなんかで、自分を束縛しないで」
「分かってるさ」
「大事にして」
「当たり前だろ」
「うん・・・なら、安心した」
「うん」
「じゃあ、あたし、帰るね」
「うん」
「また明日ね」
「ああ、明日」

彼女はドア開ける。
部屋へ外の冷たい空気が入り込む。

彼女は、静かに冷たい夜へと溶け込んだ。




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