FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

きみの瞳に映るのは

日曜日の午後の事だ。
僕は少し早い期末テストの勉強会の為に剣菱家を訪れた。
せっかくの日曜日とテストにはまだ時間があるとあって、悠理からは大反対の抗議を受けたが、正直今から始めたって遅いくらいと思っている。
まずは小学校の教科書から開かないといけないくらいなんだから。
彼女の部屋のドアをノックすると、は~いと暢気な声が聞こえて、それからゆっくりドアを開けた。

「お邪魔します。おや、もう机に向かって。雨でも降るんじゃないかしら」
「え~。雨が降るなんて、お天気で言ってないもん」

分かってないな、と思ったけど、そこはスルーした。
説明が面倒だし、それに彼女は勉強なんかしてるのではなくて、アルバムのような小冊子を見ていたからだった。

「勉強かと思った」
「まさかー!」

そこでやっと彼女は僕を振り返る。
頬がちょっと紅潮して、目が潤んでいるように見える。

「じゃあ何をしているの?写真?」
「う、ん」

隠す訳ではないけれど、冊子を開いたまま伏せて、僕には見せたくない感じ。

「それ、見せて下さいよ」
「だぁめぇ~」
「どうしてぇ?」
「だって、見てもつまんないよ、きっと」
「そんな事ありませんよ。悠理の写真とかメンバーのなら面白いです」

僕がちょっと手を伸ばすと、その冊子に彼女の手が先に置かれた。
相変わらず、スピードだけは敵わない。

「分かった。変な写真でしょ?」
「いや、普通」
「じゃあ、いいじゃないですか」
「ダメダメ。つまんないから」
「ふうん」

変じゃなくても、気になる。
こうなると、とことん見たくなる。
だから僕は、彼女の後方を目を見開きながら指差した。

「あ・・・悠理の後ろに何か見える・・・」
「ぇぇええっ!!!」

一瞬の内に真っ青になって僕の首にしがみつく。
身体中ガタガタ震えているのが伝わって来る。
ちょっと申し訳ない気持ちになりながら、僕は冊子に手を伸ばし、表紙をめくった。

「んん?あれ?」

最初のページから、彼女が笑顔で写っている。
広い高原のような場所で、笑顔の後ろには青い空と白い雲、それは美しい写真。

「本当に普通の綺麗な写真、ですね」
「へ?」

僕の声にびっくりしたように、彼女は首に腕を回したままで振り返る。
途中、首筋に彼女の温かな息が触れた。

「え?何?ちょっ・・・」

今度は僕を突き放すようにして真正面を向く。

「騙したなぁ!?」
「だって見たかったですもん。言った通り、普通の写真。でも・・・」

そう、でも、悠理がとても綺麗に撮れてる。
笑顔があまりにも美しくて、彼女じゃないみたいだ。
目線はしっかりレンズを向いていて、カメラを向けている相手に微笑んでいるみたい。
僕がそう伝えると、違うんだと答える。

「カメラマンは魅録?」
「うう・・・ん」
「じゃあ誰?」
「誰って・・・清四郎の知らない人」
「バンド仲間?バイク?魅録の友達?」
「関係ないから、いいじゃん」
「気になるじゃないですか、だって」
「なんで?」
「ふざけた顔の悠理しか知らないもの。こんなに綺麗な笑顔を見せるなんて、誰にって思うでしょ、普通」

あはは、って、力なく笑う悠理が小さく見える。

「去年の今頃に撮ったの。近くの広域公園だよ。天気がとってもよくって暖かい日曜日だった。ちょっとおしゃれして行った日で、遊歩道を散歩していたの」

最初は風景写真を相手は撮っていた。
色づき始めた木々の葉がとても美しく、まるで今日と言う日を歓迎されたかのように心が弾んだそう。
その日に選んだ服装がその光景に溶け込むように自然だと言って、相手は悠理を中心に撮り始めた。
恥ずかしいから嫌だと彼女は言ったけれど、動きに合わせてシャッターを切るものだから後は自由に撮らせていたと言う。

「すごく良く撮れている写真だけ選んでプリントしてくれて、こうしてアルバムにして」

悠理は観念したように薄型の小冊子、アルバムのページをめくって見せる。
時々拗ねたようにした表情もあるけれど、それすらも普段と違って大人びている。
けれどその多くは本当に綺麗な笑顔の彼女。

「だって、綺麗だよって言ってくれたから」
「分かるよ」

それから彼女は言葉を失ったように口元を覆い、泣いているかのように目を伏せた。

「この写真撮ったの、魅録でしょ」

しばらくそのままの状態だったけれど、ゆっくりと頷く。

「魅録があたしを綺麗だと言ってくれたの。でも、違ってた」
「悠理は綺麗だよ」
「そうじゃなくて、あたしが言ってるのは、綺麗だと言っても好きとは違うってこと」
「魅録が悠理を好きだから綺麗だと言っているのではなく、客観的に綺麗だと言っていると言う事ですか」
「客観・・・分かんないけど、好きと綺麗は別で、今日の悠理はすごく綺麗に見えるって」
「僕から見ても、その写真の悠理は綺麗だ」
「ありがと・・・でも、魅録の気持ち、今なら分かるなって」
「どのように?」

悠理はクスッと笑って僕を見上げる。
その目は、写真以上に大人びて見えた。

「誰かを好きになると、目に見える何もかもが美しく見える」

彼女の言葉だ。

「優しい気持ちにもなる」
「悠理が?」
「魅録が」
「ふうん」
「美しい風景もその日、たまたま綺麗に見えたあたしも、あたしが好きだからじゃなくて誰か別の人を好きだから。そしてその想いが通じ合いそうだったから」
「・・・・・」
「後日談」
「野梨子」
「うん」
「なるほど。罪な男ですね、魅録は。悠理は魅録が好きだったんですね」
「好きだと気づいたのは後でね。いつも一緒にいたから」
「きっと悠理も魅録に恋していたから、綺麗な表情になれたんですね」

魅録は野梨子が好きで、野梨子も魅録に好意を持っていて、二人の恋が成就しそうだったから魅録は幸せだった。
その気持ちが、目に映る何もかもを美しく捉えた。
そして悠理は、魅録への想いと魅録からの言葉で綺麗になった。

「でも今の悠理は、その写真よりも綺麗ですよ」
「ばぁ~か」
「本当に。綺麗で、ちょっと大人になって、優しくなって」
「褒め過ぎだろ」

けれど僕に怒る風でもなく、天井を見上げるようにして考えている。

「この一年、辛い時もあったけど。う~ん・・・なんかね、赦すって事を覚えたような気がする」
「魅録や野梨子を?」
「ん・・・分かんないけど。二人が幸せならいいなって」
「はぁ~。大人ですねー、やっぱり。嫉妬しない?」
「清四郎は野梨子や魅録に嫉妬するの?」
「しますよ。いいなぁ、楽しそうでって」
「あはは。それはね、あたしも」

きっと何度も何度も泣いて、傷付いた心を涙で癒して。独りで。
けれど時間と言う強い味方が、悠理を大きく成長させたのだろう。

「もともと持ってる悠理の仲間思いの優しさも成長のひとつかな」
「え?なーに?」
「ううん。僕には今の悠理は魅力的に映りますねー」
「そーだろー。清四郎はあたしに恋してるだろー」
「あ、そうかも知れませんね。悠理を綺麗って思えてるんだから」
「褒めてんの?けなしてんの?」
「褒めてるんでしょ。何回も悠理を綺麗って。こんなの初めてでしょー」
「ヒド~イ」
「どうしてぇ?」

今日は勉強会にはなりそうもない。
だって本当に悠理が綺麗に映るんだから。
正直、ちょっとドキドキしてきて、勉強どころではない僕。

もう少しこのまま、悠理との距離を楽しもう。
僕は悠理の言葉を胸に、ひとつ自分も成長したような気になった。




拍手・ランキングへのクリックをありがとうございます!
ランキングへ参加しています。
にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村



二次小説ランキングへ

スポンサーサイト
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。