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新学期の昼下がり。
満足するほど食べた学食のランチと、心地よい窓からの微風。
珍しく誰もいない生徒会室で、窓を開け放してソファに寝転ぶ。

「ああ~キモチいい~。午後はサボりだなぁ」

新学期は授業らしい授業はまだなく、今日だって午後は体育館で応援歌練習。
新入生には辛い時間だが、二年ともなるとお手本になればいい。
不真面目な悠理には意味のない時間になる。

満腹なお腹を抱え、質の良いソファが彼女を眠りへと誘う。
ふわふわと柔らかな風が髪の毛を優しく撫でると、彼女は完全に眠った。

・・・・・・・・・・。

肩が揺らされたような気がして目が覚める。
ピンぼけな視点がはっきりとした画面を彼女の脳に送った時、意外な人物が映った。

「清四郎がサボってる」

びっくりしたように目を何度かパチパチさせる彼は、それから彼女の横に座った。

「応援歌練習だから、それは応援団に任せて、僕は生活指導の先生に頼まれた仕事をしにここに来たの。サボりじゃない」

表情を変えない、真面目な答え。
悠理は起き上がってソファに正座する。
幼稚舎の頃から中等部までははっきり言って仲が悪かったから、偶然にも仲間になった今、それでも苦手な相手に違いない。
いや、正直言って未だにまともな会話ができていない。

「ああ、そっか。応援歌練習もそろそろ終わるよね。あたし、戻ろっかな」
「練習が終わってもクラブの仮入部見学みたいだから、悠理はいいんじゃない?僕の仕事を手伝って欲しいな」
「いいよ。何するの?」
「僕が作った書類に目を通して、誤字脱字がないかどうか確認して欲しい」
「できるかな?誤字かどうかもワカンナイかも」
「分からなかったら僕に訊けばいい」

でも、って彼女は思う。

それって、ちょっと恥ずかしいじゃん・・・漢字なんて分かんないもの。

そこまでの会話を、横にいる生徒会長に目線を移さずしていたものだから、チラッと見た時、未だ無表情に近い顔と出合った。

「時間、あるんでしょ?」
「う、うん」
「クラブ、何だっけ?」
「魅録とあたしだけのロックバンド。ほとんど動いてない」
「ああ」

・・・・・・・・・・・。

ちょっと間があって、それから清四郎は中央の大きなテーブルに着くとノートパソコンを開いた。
カタカタとこちらも心地よい音が続き、やがてプリンターが稼働する。

「悪いが、プリンターから出たやつ、目を通してくれ」
「りょうか~い」

彼女が目を通したのは“ゴールデンウィークの過ごし方”と言う生活指導の書類。
生徒用で、これなら彼女も分かる。
テーブルを挟んだ向かい側に彼女は座ると、ひとつひとつの文字にゆっくり目を通した。
しばらくして清四郎は声をかける。

「どう?気になる文章ない?」
「うん。大丈夫だよ」

この男に限って間違いなんかあるもんか、と思う。
最後の資料に目を通すと、清四郎がノートパソコンを閉じる。
彼女は資料をまとめて綺麗に重ねると、彼の前に押しやった。

「ありがとう。後で先生の所に持って行く。助かった」
「うん」

今度はじっと彼を見つめることができた。
彼は相変わらず無表情で彼女を見ていた。
無表情、でも、冷たさは感じられない。無関心さも、もちろん。
ただ、じっと彼女を見ている感じ。
そこに存在する彼女を認識して、記憶しているみたい。
何か話そうと思った時、清四郎は口を開く。

「魅録とは、中学生の時に知り合った?」
「うん。他校の中学生と喧嘩してた時、止めてくれた」
「そうか。魅録はこの学園に慣れただろうか」
「うん、スゴく。メンバーもいい奴ばっかだって」
「良かった」
「うん」

素直な気持ちでまっすぐ彼を見つめる。
ずっとずっと前から知っている彼の顔。
特別な意味を持たない彼女の視線が、やがて彼の表情のある視線と出合った。
その視線は、その瞳は、悠理の形の良い艶やかな唇を見ているようだった。
けれど彼女は、自分の美しさに気付くほど成長はしていなかったから、ただ彼の視線が恥ずかしさに変わった。
彼女は急に訪れた緊張で顔が強張り、それを伏せた。
彼女の、長い睫毛が僅かに揺れる。

「生徒会の仕事も、すぐに慣れるよ」
「うん」
「今日は、もう帰ってもいいんじゃないかな」
「うん・・・」

じゃあ、と言って彼女は席を立つ。
彼の視線はまた表情を失い、でもしっかり彼女を見ていた。

「ああ、そう言えば、体育部担当の先生に言われてた」
「何です?」
「人数の少ないクラブの活動をどうするかって」
「どうするかって・・・分かりました。これから考えて行きましょう」

悠理は清四郎の視線に応えて、それから背を向ける。
幼い彼女には、これ以上彼の視線には耐えられなかった。
意味を持たないようでいて、どこか甘く切ない感じ。

それは彼女だけが感じたのかも知れないし、二人が、無意識に抱いた想いなのかも知れない。




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