the sequel to note 

簡易給湯室の小窓から夕方の陽射しが細い通路へと延びる。
どこか懐かしいその光の色と優しい肌触り。
今となってはたった数分の過ぎたひとときでも、淡い記憶は彼女の中にしっかりと残されていた。


あの新学期からしばらくして、悠理は体育部担当の先生に頼まれた書類を届けに菊正宗家に向かっていた。
中身に目を通していなくても分かっている。
人数の少ないクラブの活動をどうするか、と言う課題が提示されているに違いない。
珍しく放課後早く下校した生徒会長を追うように向かう彼女は、ちょっと気が引けてならない。
普段は遅くまで生徒会室で仕事をする彼が早く帰宅するのは、よほどの事情があるに違いない。
けれども教師に頼まれた用事。しかも体育部担当となると自分にも多少の責任がある。
仕方なく、彼女は菊正宗家のインターフォンを押した。
程なくしてスピーカーから女性の声が聞こえた。
何度か訪れた時に会ったこの家の家政婦でもなく、彼の母親でもなく・・・でも聞き覚えのある声・・・

「あ、あの・・・学校の先生に頼まれて」
「あら、悠理ですのね、その声。ちょっと待って下さいな。今ドアを開けますわ」

玄関のドアはすぐに開けられた。
その奥には声の主で、今日も顔を合わせた仲間の一人がこちらを見て微笑んでいる。

「ちょうど帰る所でしたのよ。明日の打ち合わせで」
「あした・・・?」

彼が早く帰宅した理由と隣人の野梨子の言葉がうまくリンクしないまま、ぼんやりした表情を彼女に向ける。

「母様のお茶会の手伝いを清四郎にしていただきたくって。昔からの恒例の行事で、放課後の活動よりも優先させられてますの」
「うん」
「ああ、清四郎に用事ですのね。呼んできますわ。私はこのままお勝手からお暇しますので、ごきげんよう」
「ん・・・」

一方的に話されて、それでもまだ内容を飲み込めていない。
けれども、悠理の胸はチクチクと痛み始める。
もうひとつの理由が分からないままに。

それから、清四郎が現れるまでの数秒、あるいは数分だったかも知れない。
玄関ドアの小窓から夕方の淡い陽が射し込むのを見ていた。
長い廊下を照らすそれは、どこにでもあるようで懐かしい。
多分自分は前にこの光景を見ているに違いないと思う。
前・・・仲間と一緒にここに訪れた時か、それとも。

「やぁ、どうも。学校の先生に頼まれたって?」
「はい、これ。渡してくれって頼まれた」

彼女は彼が差し出した掌に先に頼まれたA4版の封筒を押し付けると、後ずさるようにドアノブに触れた。
けれどもう一方の彼の腕が伸び、呼び止めるように何度か手が動く。
悠理は困ったように立ち止まり、彼の次の行動を待った。
彼はゆっくした動作で封筒を開け、中の書類を確認する。

「ああ、ほら、悠理が言ってた、部員数が少ない体育部の今後について協議しようと言う、あれ」

更に、じっくり書類に目を通し始める。

「う~ん。僕と悠理と、各部長とで話し合う。ふうん・・・存続については・・・」

清四郎は悠理が紙面を見なくても分かるように端的に説明をする。

「面倒なの?」
「大丈夫。僕も出席するし、悠理はなんの心配も要りません」

それから彼は、書類を下ろして彼女に顔を見せる。
彼女の視線を捉えにっこりと微笑んだ。

「大丈夫・・・?」
「大丈夫。僕がいるから」

彼の肩に、先ほどの陽が射し込む。
ゆらゆらと優しく揺れる淡い光は、彼女に甘く切ない想いを与える。

この微笑みが、自分だけのものならいいのに。

帰路につく頃、彼女はそう考える自分に疑問を抱く。

なぜ?どうして?

けれども彼の微笑みは、自分よりもはるかに彼を知る誰かにより多く与えられるのだと、胸の痛みを覚えながら言い聞かせた。





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