冬の星空よりも惹かれるもの

いつもよりちょっとだけ早くクリスマス準備。
今日は理事長のミセス・エールの部屋で飾り付け。
学園内にある理事長室は、質素な部屋。
まるでミセス・エールの人柄を象っているよう。
あたしは大好きだ。

野梨子と可憐はオーナメントのレイアウトやメンテナンス。
魅録は天井の飾り付け。
美童はミセス・エールとお茶菓子の買い出し。
あたしと清四郎は、巨大クリスマス・ツリーの飾り付け。
清四郎はツリーの真ん中や下の部分に、野梨子達が用意した雪をイメージする綿やオーナメントを飾り付けている。
あたしはと言えば、脚立に乗ってツリー上部の飾り付け。
オーナメントだけじゃなくって、金色や銀色のモールもいっぱい、グルグルにツリーに付ける。
キラッキラのゴージャスなツリーにするんだ。
時々魅録が上から壊れたオーナメントを投げ付けてくるから、あたしは一番長いモールの先を魅録の頭めがけてみる。
うまい具合に頭に巻けたら、モールの帽子になっちゃうよね。
そんな遊びを魅録としていたら、野梨子に怒られちゃった。

「ミセス・エールと美童が戻って来ますわ。ふざけてばかりいますなら、悠理と魅録のおやつはなしにしましてよ」
「そんなのイヤだも~ん。魅録が最初にやったんだよ」
「悠理がダラダラやってっからだろ?考えてモールを飾れよ。センスねーなー」
「なんだとーっ!!」

「悠理、僕にモールを分けてくださいよ」

少し離れた場所から清四郎が話しかける。

「ごめーん。全部巻き付けちゃった。金と銀と、ひとつずつ外すね」
「そちらは綿はいらない?ちょっと多いみたい」
「じゃあ、交換ね」

あたしは脚立の天板に乗り上げ、ツリーに巻き付けたモールを取る。

「天板に乗るのはよした方が良いでしょう。バランスを崩しますよ、いくら悠理でもね」
「魅録だって天板跨いでるもん」
「そうですけどね。悠理はスカートだし、誰も覗きやしませんけど気を付けた方がいいですよ。ほら、物好きなヤツだっているかも知れないし」
「なにーっ!魅録よりも失礼なやつだな!!」

振り向こうとして、天板の上でバランスを崩す。
けれど得意の運動神経の良さで、天板に座るような形で収まった。

「えっへん!どうだー。スゴイだろ」
「見たくないものまで見えたような気がしますけどね。悠理ですからね」
「や、やだぁ」

今更だけど、ちょっとスカートの裾を伸ばしてみる。
見たくないものって・・・恥かいちゃった。
急に恥ずかしくなって、手にしていたモールをクルクル指に巻き付ける。

「モールが外れました」

目の前に金色と銀色のモールの塊が差し出される。
天板の上でバランスを崩した拍子に外れたんだ。
キラキラのモールの向こう側に、清四郎の顔が見える。
真っ黒の二つの瞳があたしを見ている。
それはキラキラのモールよりも輝いていた。
けれど・・・初めて見るような、不思議な気持ち。
そんな事を考えているとあたしの手からモールが取られ、その瞳がぐっと近付いた。

「どうしました?」
「ううん、なんでもないよ」

あたしはちょっとだけ視線を逸らす。
だって・・・分かったんだ。
不思議な理由が。

ずっと、ずぅっと前。
まだ初等部の頃は、おんなじくらいの背だったから、にらみあいっこばかりで顔を合わせてたけど。
大きくなって、中等部ですっかり仲良くなった頃は、清四郎を見上げてばかりで。

だからいつも見慣れているはずの顔は、本当の清四郎の顔じゃなかったんだ。
本当の清四郎の顔はとても整っていて、真っ黒の瞳は深い色と輝きがあって。
つまりは、とってもキレイだってこと。

「脚立から降りるの、手伝いましょうか?」

清四郎の細長い指があたしの目の前まで伸びる。

「大丈夫。一人で降りるよ」

その手を避けて、あたしはピョーンと飛び降りる。

「綿をあげましょう」

清四郎はビニールに入った綿を取りに振り返る。
戻ってあたしに手渡す時は、見慣れた顔の清四郎があたしを見下げていた。

さよなら。本当の清四郎。

なんて、ちょっとだけセンチになって。ヘンなあたし。


クリスマス・ツリーも整って、ミセス・エールの部屋も華やいで、みんなで楽しくお茶を飲んだ。

「今年のクリスマスは、有閑倶楽部のみんなが幸せに過ごせるようにお祈りするわ」

ミセス・エールは帰り際に、あたし達にそう言ってくれた。

下校の時は、もうすっかり暗くなっていた。
やけに底冷えする夜で、空には黒く怪しげな雲が広がっていた。

「まさか、雪でも降らないわよね」

心配そうに可憐が空を見上げる。

「まだ、雨じゃない?そこまで冷えてないよ」

美童も気になるようで、可憐の横で上を見る。
あたしもつられるように空を見上げていたら、みんなはずっと先を歩いていた。
走って追い付こうとしたら、額に冷たいものが当たった。
もう一度空を見上げる。

「雪、かな?」

後ろから声をかけてきたのは、生徒会室の戸締まりでもしてきたのであろう清四郎だった。

「雪にしては早すぎですよね。暗いから。あ、ほら」

また清四郎の長い指が目の前に差し出される。

「あら、溶けた」
「雪?」
「ええ、多分。あ、また。ほら」

鼻先に清四郎の手のひらが差し出された。
ほんの一瞬、白いフワフワした綿のようなものがあり、でも、すぐにそれは滴に変わった。

「雪。珍しいね」
「積もるかな?」
「まさか」

二人で清四郎の手のひらを見ながら話す。
気づくと、また真っ黒な瞳に出逢った。
嬉しくって見とれていたら、ほっぺたが熱くなるのが分かった。
恥ずかしくなって、また空を見上げる。

「ホワイト・クリスマスも憧れだけど、星いっぱいのクリスマスもいい。キラキラして、好きだな」
「空気が澄んでいる冬の夜空は星が綺麗に見える。確かにホワイト・クリスマスも良いけれど、星空がオーナメントならロマンティックですね」

いつになく優しい声色に、思わず清四郎を振り返る。

「ね?」
「う、うん・・・」

その瞳の輝きは清四郎から発しているのか、それとも外灯のせい?
薄暗い通りの視線の先に見える清四郎の瞳は、冬の星空よりもキラキラしていた。




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