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はれ、ときどきなみだ

押し流されるような人ごみの中で彼女は突然立ち止まった。
当然人は彼女にぶつかり、時々舌打ちをしながらまた流れていく。
それでも流れに逆らう彼女を、僕も振り切るようにして彼女まで戻る。

「どうしました?危ないですよ」
「ええ、そうなんだけど」

細い体を踏ん張るようにして立ち、きょろきょろと左右に小さな頭を動かす。

「誰か知ってる人でもいました?」
「そうなのよ。いたのよ、昔の彼」
「へぇ・・・」
「あっ、て思って、振り返ったら見えなくなっちゃって」
「逆方向に歩いて行った?」
「いいえ、同じ方向に歩いていて、わたしが追い越したのよ。で、振り返ったらいなかったの」
「この人ごみですからね。どこかの枝道に入ったんじゃないですか」

僕達は、広域公園内の桜並木に来ている。
普段の時とは違い、大勢の人で溢れていた。
メンバー全員で歩いていたはずなのに、この人ごみで見失ってしまったのだろう。
携帯電話という今では一般になったものがあるからこそ、こうして彼女に付き合っていられるのだ。

「ま、いっか。別に逢いたかったわけではないから」
「ふうん。その割には真剣に探してなかった?」

彼女は僕を見上げふっと微笑む。
いつにない、淋しそうな微笑み。

「ちょっとね、自分を試してみたかったの。彼とばったり逢って、どんな気持ちになるのか」

僕達は歩き始める。さっきと、同じ方向に向かって。
けれどすぐに諦めて、レストハウスに入った。
ここにも人はいるけれど、自動販売機前のフリースペースには二人で立っていられるだけの場所があった。
目の前のスクリーンガラスには、先の桜並木が見えた。
思っていた以上に今日は暑く、桜は満開だった。
僕はシャツの袖をまくり上げ、彼女もカーディガンの袖を少しだけ上げた。

「逢いたいわけではないのに、今の自分の気持ちが知りたい?」

彼女はびっくりしたように僕を振り向き、それから肩をすくめた。

「うん。もう大丈夫、平気って思ってるけど、実際逢ったらどうなのか、試してみたいって思っていたの」
「逢って、また心が揺れ動いたら?」
「そうね・・・でももう大丈夫なのよ。だから大丈夫な自信が欲しかったの」

今度は僕が肩をすくめる、よく分からない、という風に。
スクリーンガラスの前のソファが空く。
僕は彼女の肩を押すようにしてそこへ座らせる。
何か飲むかと訊くと、いらないと言った。

「彼に関して言えば、けっこう立ち直るまで時間がかかったの。報われないのは分かっていたけど、
関係が続くならいいのかなって思っちゃって」
「報われないって、相手は既婚者ですか?」
「そうよ。ダメなのは知ってる」
「可憐が誰かと付き合っているのは承知の上ですが、既婚者とはらしくない」
「分かってる。でも言い訳させてよ。彼とは肉体関係はなかったんだから、一度も。それに・・・」
「深い関係であろうがなかろうが、二人で会っている時点でダメですね」
「分かってる、もう二度としない。だからこそ、試したかったのよ」
「未練があってのことじゃない?」
「ないわ。ちっとも、不思議なくらい」

それはある日突然唐突に訪れたという。
それまでは別れたことが受け入れらず、いつもどこかでつながっていたいと願っていた。
二人で決めたこととは言え、別れを切り出したのは男の方だったからかもしれない。

「吹っ切れたとかそんなんじゃなくて、そうなんだなって思えたの。それまでは街を歩く時も、遠いどこかにいる時も、
いつも彼を探していたの。いるわけがない場所でもね」
「時間をかけて消化できたのかな」
「今でも時々彼のことを思い出すのよ。ラインアプリを開いたり、一緒に行った場所の近くに行ったりすると、もちろん。
でもその時の自分を客観的に見れるし・・・もう、欲しいと思えないの」

スラックスのポケットのスマートフォンが揺れる。
見ると野梨子からだった。
僕達を見失い、心配しているのだろう。
僕は可憐を見つめながら、野梨子に電話をする。

「いる場所は分かってますから。そのままそこで待っていて下さいよ」

多分桜まつりの屋台の列に並んでいる。

「逢えなくて良かったんじゃない?」

そろそろ行こうという風に立ち上がる。

「そうね、そうかもしれないわね。残念だけど」

あなたがいなくても、わたしはこんなに楽しくやっているわ。

彼女はそう言ってやりたかったのだろう。
けれど相手はどうなのか分からない。
もっと楽しくやっているかもしれないし、あるいはまだ好きで、きっかけを待っているかもしれない。
よした方がいい、二人のためにも。
そう、男も女も、心は・・・移ろいやすいのだから。


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