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秋晴れの日に、公園で

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本日アップは、“charm”60000ヒットの記念作品です。。と言っても、6年前・・・













同好会の会合が長引き、悠理との約束の時間が随分と過ぎてしまった。
午後三時に、僕の自宅近くの喫茶店で待ち合わせをしていたのだが。
降り注ぐ午後の太陽の陽射しを背に受け、僕を待つ彼女の後姿が見える。
と同時に僕の胸はきりりと痛み、遠い昔の記憶が呼び起こされた。





秋晴れの日に、公園で





珍しく母親と出掛けた帰り、僕達は公園を散歩しようと車から降り立った。
いつもはこのようにして午後を過ごす事がほとんど無い僕は、母親に手を握られて砂場の近くまでやって来た。
恐る恐る砂場に入ってしゃがみ込み、砂を両手ですくってみる。

「清四郎ちゃん、終わったら手をちゃんと洗うんですよ」
「はい、お母さん」

それは僕が五歳の秋で、空気は乾燥し、思った以上に陽射しが眩しかった。
両手一杯に砂をすくい上げ、その手の間からさらさらと音を立てて落とす。
僕はそんな単純な作業に夢中になり、何度と無く繰り返した。
母親は厭きれて近くのベンチに座ると、ぼんやりと公園の景色を眺めていた。


「清四郎くーん!!」

誰かが僕の名前を呼ぶ。
キョロキョロしていると、後ろから母親が声をかける。

「あら、同じ幼稚舎の子じゃない?名前は分からないけれど、見かけた事あるわ」

立ち上がって声のする方を見ると、数人の子供達が走って来る。
僕も名前は思い出せなかった。多分、隣のクラスの子と・・・悠理だ。

「!!」

僕はいつも彼女に皮肉ばかり言われていたから、正直、その場にいるのが嫌になった。
雲海和尚に弟子入りしたばかりで、まだまだ彼女には敵わない。
出来れば、さよならと言って帰りたかった。
でもそんな事が出来る訳も無く、後から着いて来た母親達と自分の母親は、楽しそうにおしゃべりを始めてしまった。
そこに剣菱家の執事である五代さんもいたが、心配そうに悠理を近くで見つめていた。

「砂場で遊ぼうぜ!」

隣りのクラスの子が言う。

「おー!!」

皆、持って来たプラスティックのスコップ等で上手に遊んでいる。
山を作ったり、穴を掘って石を埋めたり。
悠理は裸足になって砂を蹴っている。

「嬢ちゃま、靴を履いて下さいませ。そろそろ車に戻りませんと」

五代さんが何を言っても聞く訳でもなく、彼女は友達が作る山を蹴り崩したり、穴を埋めたりしている。
僕は彼女が怖くて何も言えず、時々母親の所に戻っては靴に入った砂を取ってもらっていた。
その度に、皮肉を込めた視線で彼女は見ている。

子供達の中には別の幼稚園の子も数人いて、その中の一人の母親が気を使い、自動販売機から缶のココアを買って来た。
僕達は喜んでそれを受け取った。でも結局、五代さんが彼女に皆の分のお金を渡していた。
僕は母親に缶のプルタブを取ってもらい、熱くないようにハンカチでくるんでもらう。
ちょっと恥ずかしかったけど、その方が飲みやすい。
陽射しがあっても秋風が冷たい午後だから、ココアで身体が温まる。

「今度はジャングル・ジムで遊ぶぞ!」

悠理が叫ぶ。
誰よりも早くココアを飲み終え、一番にジャングル・ジムへと駆けて行く。
皆も追うように走って行く。
僕は焦り、ココアを飲み干そうとして口の端から溢し、洋服を汚してしまった。
母親はハンカチで拭いてくれたけど、その染みが取れる訳も無い。

「あらあら。帰るまで我慢してくれる?」
「うん・・・」
「清四郎ちゃん、ジャングル・ジムなんて登れるの?大丈夫?」
「うん、大丈夫」

僕の返答に安心したのか、母親はまたおしゃべりに夢中になった。
本当は、ジャングル・ジムに登れなかった。
公園で遊ぶ事が少なかったし、幼稚舎にあるのも近付いた事は無い。

「清四郎くーん。早くおいでよー」

僕はちょっと憂鬱な気分でジャングル・ジムに走りより、皆が登るのを見る。

「清四郎くんも登っておいでよ」
「誰が先に一番上まで登れるか」
「早く、早く」

手を掛け、足を掛けても一番下の段が精一杯。

「ナンだ、登れないのかよ」
「怖くないよ」
「早くおいでよ」

皆が口々に言うけれど、怖くてそれ以上手も足も動かない。
チラリと悠理を見上げると、既に彼女は一番上によじ登り、冷たい視線で僕を見下ろしている。
五代さんは心配そうに、無理をなさらずにと言ってくれた。
僕はそのまま降りようと思ったが・・・

「僕が教えてあげるよ」

名も知らぬ隣のクラスの子が言う。
その言葉をきっかけに、悠理以外の皆が手伝ってくれる。
何とか三段目まで(五代さんにお尻を支えてもらい)登った時、信じられない事が起こった。
悠理が僕の手を引っ張ってくれたのだ。

「・・・ありがとう、悠理ちゃん」

彼女はフンっとそっぽを向いてしまったけど、僕達の手は繋がれたままだった。
僕は不恰好なままで、彼女とジャングル・ジムの一番上から高い秋の空を見上げた。
空は何処までも淡青色に澄んでいて、それは僕に、希望とほんのちょっとの勇気と優しさを与えてくれた。


今になって思うのは、彼女があの日、あの時だけ僕に優しかったのは(それはとてもぶっきらぼうな優しさだけど)、多分野梨子がいなかったからでは無いだろうか。


それから僕達は帰るまで、鬼ごっこをして遊んだ。
広い公園の敷地内を逃げ走るのはとても大変で、僕と隣のクラスの子と悠理は、道路に面した建物の裏に隠れた。
もちろん、隠れようと言ったのは、悠理。

「ここに隠れていようぜ。鬼が来たら、この石を投げて近付かせないようにしようよ」
「ぶつけちゃあ、危ないよ」
「ぶつけるんじゃないよ、びっくりさせるだけだい」
「でも・・・僕そろそろ帰んないと・・・お母さんが待ってるし」
「大丈夫だよ。お母さんが先に帰ったら、僕の家に泊めてあげる」
「うん・・・」

僕達は建物の裏の壁により掛かり、いろいろな(今思うと実にくだらない)話をして鬼が来るのを待っていた。
悠理は僕達の話を聞いているのかいないのか、つまらなそうな顔で座り込み、石を投げ続けている。


「清四郎ちゃん、清四郎ちゃん!何処にいるの?」

母親が心配して僕を探しに来る。

「はーい。何、お母さん?」

僕は建物の裏から顔を出す。

「清四郎ちゃん、こんな所で何をしているの?さあ、もう帰りますよ。手を洗いに行きましょう」
「はい」

他の子供達ももう、鬼ごっこは止めている。
手洗いを済ませ、僕と母親が公園の駐車場に停めてある車に乗り込む。

「清四郎くーん」

先程の子供達が車を囲む。
彼等もまた、帰るのだ。

「明日もここに来てね」
「約束だよ。待ってるからね」
「指きりげんまん 嘘ついたらはりせんぼん のーまーすっ」
「バイバーイ!!」
「バイバーイ」

皆が手を振り、車は発進する。
彼女はまたつまらなそうに見ていたが、皆が走って車を追いかけ始めると一緒に走り出す。

「悠理ちゃん・・・」

僕は必死に手を振った。
一緒に遊んでくれた彼等に。また、ぶっきらぼうな彼女に・・・

「お母さん、明日何時に公園に行こうか?」
「あら、でも・・・」
「だって僕、みんなとお約束したから」
「明日は野梨子ちゃんのお家で、お茶のお稽古でしょう?」


でも結局その日の夜、僕は熱を出してしまう。
父親に直ぐ診て貰い大事には至らなかったが、次の日は幼稚舎を休んだ。
お茶の稽古も休んだ。
外は小糠雨が降り続き、前日とは打って変わって凄く底冷えがした。
たまたま遊びに来た祖母を見送る為に、僕は反対されながらも車に乗り込んだ。
真冬のような格好をする事を条件に、車に乗るのを許可された。

そこまでして何故車に乗るのか。
何故なら駅に行くには、あの公園の直ぐ傍を通らなければならないからだ。

駅に向かう途中、車の窓から公園内にある建物の裏手を食い入るように見た。
道路に面している為、建物の裏手と言えども良く見える。
でも残念ながら、そこには人影がなかった。
僕は不思議な痛みを覚える。
駅の帰り、もう一度人影を捜す。

「あ・・・」

悠理ちゃんが・・・

五代さんに傘を差してもらいながら、彼女はぬかるんだ地面にべったりと座って石を投げている。


僕を、待っているんだ。


でも僕は母親に何も言えないまま、公園を後にしてしまう。



*  *  *  *  *  *  *  *  *  *



喫茶店で僕を待つ彼女の背中を見て、あの時の事を思い出した。
ずっとずっと、忘れていた。

「悠理、すみません。会合が長くなってしまって」
「ん・・・」

眠そうな彼女の顔が上がる。
テーブルの上にはパフェやケーキ、ココアの残骸がある。

ココア?

「へーきだよ。いっぱいおやつ、食べたし。こんなこと・・・」
「初めてじゃあないから?」

びっくりしたように僕を見る。

「なに、それ?」
「いいえ。さ、僕も温かいココアを飲もうかな。悠理ももう一杯どうです?」
「飲むけどさ?」
「ココアを飲んで、公園にでも行きませんか?」
「へ?」
「僕はもう、ジャングル・ジムも上手に登れるし、鬼ごっこの鬼からも上手に逃げる事が出来ます。
今から飲むココアだって、一人で上手に飲めますよ」
「なんの話さ?」
「だからもう、お前に淋しい思いはさせません」
「んん?」

不思議そうな表情で首を傾げる彼女。
その表情はあの頃と変わらない。

お前は忘れてしまったんですね。僕の荷が、ちょっとだけ軽くなった気がします。
でも、悠理・・・
もう、あんな思いはさせませんから。
決して、ね。







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