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過去に抱かれて 後編

こんにちは!
ご訪問ありがとうございます!

昨日の過去作に拍手をありがとうございます♪


本日は続き~です。













過去に抱かれて(後編)





「どういう、こと?」
「さっき、豊作さんからこの遊園地について聴いて来ました」

僕は悠理が理解できるように、分かりやすく、豊作さんが述べたままを伝えた。


彼は店と同じように品の良いコーヒーカップに時々触れ、懐かしいものを見る優しい瞳でそれを見ながら僕に言った。

この場所に遊園地を造る事は、僕の中でかなり前から立ち上がっていた企画で、僕にとって最初の事業計画だった。
大学を卒業したばかりの僕が、独りでコツコツとプランニングする姿を見て、悠理の世話役だった彼女が手伝ってくれたんだ。
ここの土地調査の資料を集めたり、企画書を書いたり、二人で夜遅くまでかかってやった。
まだ父にも話していない、僕の中だけの計画にも係わらず、本当に彼女は良く手伝ってくれたよ。
とても聡明な女性でね。素敵な人だった。
仕事をしながら二人、近い将来、建設されるかもしれない遊園地について語り合った。

楽しかったな・・・
彼女も遊園地の話しをする時は、まるで子供のように瞳をキラキラさせてね。すごく嬉しそうに微笑むんだ。

僕はいつまでも彼女がそこにいるものだとばかり思っていたから、父の突然の見合い話にはびっくりしたんだ。
そして、その話を承諾した彼女にももっと驚いた。
僕は彼女と共に夜を過ごす事が、(例え仕事であったとしても)それは余りにも自然だったから、本当に驚いたんだ。

その時になって初めて、彼女が僕にとってとても大きな存在で、大切な人だと気付いたんだよ。

でもねぇ、僕はいつも恋愛に関しては運が無いから、仕様が無いのかなって思ったんだ。
彼女が決めた事だから、僕は何もする事が出来ないってね・・・・・・

あんな形で彼女と別れるなんて思わなかった。
彼女がそこまで思い詰めていたなんて。傍にいながら、彼女の気持ちに気付かなかったなんて。
最低の人間だよ、僕は。
可哀相に・・・どんなに辛かった事か。誰にも言えずにいたんだね。

彼女の死は、僕にとって本当に辛かった。
だからこそ、僕はこの事業を成功させたいと思った。成功させなければいけないと思った。
失敗してはいけない。誰にも頼らずに独りで決めて行かなくては、と。
彼女と共にここまでやってきたのだから。


「彼女は豊作さんを愛していたのでしょうか?」


さあ、どうかな・・・本当の事は分からない。
でも彼女が結婚を決め、その事を僕に告げた時の哀しげな表情を今でも覚えているよ。
僕は残酷にも「おめでとう、幸せになって下さい」と言ってしまった。
彼女は「ありがとうございます」と小さく言った。小さく言って、涙を流した。
僕はその涙の理由に気付いてあげられなかった。


豊作さんはそこまで言うと深い溜息を吐いた。
僕達のコーヒーは完全に冷え切って、濁っていた。


今になって思えば、彼女は「近すぎて気付かなかった大切な存在」。
空気のような・・・なくてはならない程大切な・・・今更だけど、ね。
僕にとってこれからも彼女は「特別な女性」。
絶対忘れない。
せめてそうする事で、僕から命を与え続けていたいんだ。


そう言った豊作さんの瞳は、少年のように輝いていた。

「清四郎君」
「はい」
「君は僕のように後悔してはいけないよ」
「えっ?」
「近すぎて気付かない大切な存在は、誰にでもあると思うからね」



*   *   *   *   *   *   *   *   *   *



帰り道、悠理は岬の遊歩道を歩きながら、すっかり夕陽に染まった海を見つめて僕に問いかける。
寒いのか、細い腕をさすりながら。

「ねぇ、清四郎。お姉ちゃん、自分で命を絶った訳だけど・・・天国に行ったかなぁ?」
「ん・・・宗教的な事はどう言えば良いのか分かりませんが・・・
『天の国は幼子のような人達の為にある』と言いますよ。子供のように心の綺麗な人が行けるんですから、きっと行けましたよ」
「あたい、また会えるかな?」
「会えますよ。悠理は霊感が強い上に子供のようですからね」
「何だよ!子供っぽいってコトかよ!!じゃあお前なんか行けないじゃないか!いつもきったねぇことばっか考えてるじゃん!」
「何ですか!僕はいつも誠意ある行動しかしてませんよ!」

僕等の口論は、遊園地に着くまで続いた。

遊園地に着いた時、魅録に連絡していた事もあって、仲間達が待っていてくれた。

「悠理!バカ、心配してたんだぜ」

魅録はすぐに駆け寄ると、悠理の頭をポカリと叩き、肩に手をかけた。
二人はさっきまでの僕達のように、じゃれ合いながら口論を始めた。

その時、僕の胸がチクリと痛んだ。
何故だか分からない。とにかく僕の胸はチクリと痛み、不快な気持ちを抱いたのだ。



豊作さんが想うあの人は、彼を愛していたんだろうか・・・・・

時々、僕はその事に付いて考えてしまう。
死に至る程、彼女は何に悩んでいたのだろう。
仕え、慕い、愛している男性から自分の気持ちに気付いてもらえず、他の男性との結婚を祝福されたらどう思うのだろう。
財閥と呼ばれる夫妻からの見合い話で、それが断り切れないものだとしたら。
その夫妻が信頼している人達だったら・・・・・


でも彼女は愛されているのだ、今でも。
彼からも、その妹からも・・・・・





あれから、僕は何時も通りに元気に振舞う彼女を見守っている。
何時も通り・・・でも彼女はあの時からほんの少しだけ大人になったのを知っている。
彼女自身が得た辛い経験を越えて、彼女はほんの少し大人になったのだ。
だからこそ、僕は彼女を見守らなくてはならない。
何故なら彼女は、人が思うよりもずっと脆いという事を知ったから。

それに豊作さんから言われた、「近すぎて気付かない大切な存在」について、悠理が関係しているのではと思ってしまうからだ。









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