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一年の後

こんばんは。
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本日アップは、今の季節にちょうど良い頃かな・・・と思います。













一年の後





駐車場に着くと、私達はそれぞれに車から降り立った。
気温が高くないものの、風が無いだけ寒さを感じない。
彼は振り向く事無く、気配で私が傍に行くのを待つ。
黒いコートの広い背中を見てから、目線を足元へと移す。
亀裂の入ったコンクリートには、彩り鮮やかな落ち葉が幾つもあった。

もう、そんな季節ですものね。

私はあの人に、心の中で話しかけてみる。

互いの靴を響かせながら、なだらかに続く石段を上り始める。

コツン、コツン、カツリ
コツン、コツン、カツリ

高くも無い石段を上りきると、そこは一面の落ち葉が敷き詰められている。
周りには鬱蒼とした木々が並び、枯れた葉を風に放している。
また、かつては花壇を彩る花々によって作られた日時計は、今は意味も無くノーモンだけが寒々とした空へ向かって聳え立っている。
花壇には何処にも花は無く、日時計のローマ数字だけが虚しく並んでいる。

クシャ、クシャ、クシャリ
クシャ、クシャ、クシャリ

言葉が詰まる。胸が詰まる。私達の関係が行き詰まる。

クシャ、クシャ、クシャリ・・・

苦しい分だけ枯れ葉を踏もう。

「何故、黙っているんですの?私に何かお話があるんではなくて?」

彼の後をゆっくりと追う私を、振り向く。
漆黒の瞳が、私を見つめる。

「この関係に、疲れてしまいました」
「でも、あなたが始められたのですよ?この関係を」

どちらとも無く、深い溜息を吐く。


この景色を忘れないでいような。


あの人は最後の日に、私にそう言った。
丁度一年前だ。
互いの気持ちを言い交わす事も無く通じ合っていた、心。
でも私は両親や親戚の期待通りに、幼馴染と結婚を前提に付き合う事を決めた。
彼からは、未だに愛の言葉一つ貰った事は無い。
彼が他人の言いなりになるなんて、思ってもみなかった。
何故、私を選んだのだろう。

そう、私達は周りの期待通りに付き合っただけ。
そこに愛なんて最初から無かった。男女間の愛なんて、最初から。
だからこの台詞は、どちらが発しても問題など無い。


風がざあっと吹き、私達の間に枯れ葉が舞う。
不安そうな、瞳。
その視線に耐え切れず、私はもう一度鬱蒼とした木々を見つめ、無意味なノーモンを見つめる。

あの人と見た、景色だ。


この景色を忘れないでいような、野梨子。


この景色を忘れないでいよう。この気持ちを忘れないでいよう。

滲みそうな涙を堪え、私達は互いに触れる事無く佇んだ。


あの時は涙を耐える事が出来たのに、今は出来ない。
止め処もなく流れる涙の行方を知る事も無く、私はそこに佇みながら思う。


「大丈夫ですか?」

彼の瞳が、私を覗き込む。

「ええ、ええ。大丈夫ですわ。気にしないで」
「車に戻りましょう」

彼の大きな掌が、私の背を優しく押す。
その優しさが、今まで隠していた狂暴な程の欲望を掻き立てる。


あの人に、会いたい。


「ごめんなさい。ずっと、黙っていましたわ・・・・・私には、好きな人が・・・・・」

一瞬、彼の手が背中から離れてしまった事に寒さを覚えたが、直ぐにそれが当たり前の事となる。

「私、好きな人がいますの」

そう言った途端に、嗚咽が込み上げる。涙が溢れる。

私には、涙を流す資格なんて無い。
彼には、私を慰める義務なんて無い。

私達は、終局を知りながら始めてしまったのだ。


「知っていました」

長い沈黙の後、彼は夕暮れを迎えようとする空に向かって静かに言う。
私はまた一つ、涙を流す。

「かなり前から、知っていました。あなたの中に、別の誰かがいる事を」
「何故・・・・・?」
「何年あなたと一緒にいると思いますか?あなたの事は、語らずとも分かります」


語らずとも?
まるであの人との関係のよう。


「さあ、車に戻りましょう。寒くなってきました」

私は彼の顔を見る。
彼の瞳には、もう、不安は無かった。

「帰りましょう。あなたには帰る場所がある」

風が吹き荒れ始め、鬱蒼とした木々が音を立てて揺れ動く。
枯れ葉が無数に舞い狂う。


私は、この景色をも忘れないであろう。
一年の後、私が見たこの景色を。







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