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意味のある偶然

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さて、本日も過去作アップですが・・・
何の続きだったのか・・・自分でも忘れてしまいました・・・
すみません。。














僕は時々、あの公園を歩く。
もうあれから何年と言う月日が経ってしまったけれど。
それでも、心のどこかで期待してるのかもしれない。
まだ僕を待っている事に・・・





意味のある偶然





僕はその瞬間、体中総毛立ったのを覚えている。
こういう現象は、気温変化や恐怖以外でも起こる物なのだと初めて知った。
そして次の瞬間、体中の毛穴から汗が噴出した。
心臓が早鐘のように鳴り、手足が震え出す。
どうしようかと思いながら立ち止まり、冷静さを取り戻す為に近くの滑り台にもたれた。
時々彼女の様子を、象の形をした滑り台の陰から盗み見、空を仰ぐ。
僕はどうして良いのか全く分からず、手の汗をハンカチで拭いた。
週に何度かこの公園を訪れ、それをもう何年も習慣にしてきた。
なのに、一度だってこんな偶然は無かった。


でもその時、しゃがんでいる彼女を覆うような影が近付いた。
学園では見ない容貌に、目を見張った。










俺はロック仲間と別れた後、初めての通りをブラブラと歩いていた。
バスも電車も便利だが、この季節、歩くのだって悪くない。
もう殆ど人の気配がない公園の横を通り過ぎようとした時、彼女がいた。


剣菱 悠理


あいつ・・・忘れるワケがない。
何度か喧嘩の場で出くわした。
ガリガリに痩せているくせに、動きが早くてすんげえ強かった。
短気で喧嘩っ早いけれど気のいい奴で、何回か出くわしている内にすっかり意気投合しちまった。


「よお、何してる?」
「あ、松竹梅」
「捨て犬か?」
「うん」

砂場近くにしゃがみこんで、彼女は仔犬に何か食わせていた。


「って・・・何食わせてんだよ」
「何って、アイスに決まってんじゃん。何に見えんのさ?」
「コイツにアイス食わせて、虫歯になったらどうすんだよ。お前が飼うのか?」
「うう~ん、飼いたいんだけどさあ、うち猫いるし。父ちゃんと母ちゃんがダメだって」
「ふうん・・・なあ、ちょっと抱かせろ」


俺は犬を抱き上げる。
生後何週間だろう。
俺に抱かれて、小さく震えている。
体全体は茶色の短い毛で覆われ、鼻の周りが真っ黒、ついでに口の周りはアイスでベタベタしている。
雑種だけど、良い犬だ。
鼻と鼻をくっつけると、不安そうな瞳と出合った。


「お前んトコで飼えない?」


彼女も同じような瞳で俺を見上げる。


「無理だな・・・うちにもいるし」
「何?」
「コリー」
「わあ、カワイイだろうなー」
「見たい?」
「うんっ!!見たい♪」


今すぐにでも見たい感じの彼女に、思わず笑みがこぼれる。

これが、あの飛び蹴りする同じヤツなのか・・・


「あ、でも・・・今日はダメだぜ」
「ええ~、なんでぇ?」
「親戚のおばさんが来てるからな」
「ふうん」


本当は違う。
母親である”千秋さん”が帰っているからだ。
いろんな意味で面倒は避けたい。


不満そうな彼女とベンチに座り、仔犬を交代しながら抱いた。
犬はすっかり俺達に懐いた。


「なあ、こいつ、きっとあたし達を父ちゃんと母ちゃんだと思ってるんだ」
「へっ?」


彼女は真面目だった。
ちょっと頬が熱くなる。


「どうにかして飼いたいなぁ」
「だって、無理だろ?」


結局その日は、公園内の建物の裏手に置いてある、彼女が作ったダンボールの犬小屋にそっと入れた。
仔犬は淋しそうに俺達を見上げていた。










気がつくと僕の両手の拳は、視線を向けて初めて意識が与えられたように不器用に開いた。
二人がどういう関係なのかは分からないが、僕が出て行く場面ではなさそうだ。
喧嘩をしてるのなら、彼女を助けに出て行っても不自然ではないが、
彼女なら僕の助けなんて必要としないだろう。
それに・・・二人は喧嘩どころかベンチに並んで座り、仔犬を抱きながら親しそうに話をしている。

先程の緊張や動悸は消え、夕方の涼しい風が僕の心に入り込んできた。

僕は相変わらず身動きがとれず、二人を見送ってから滑り台の陰を出た。
それから二人が行った建物の裏手に回る。
そこには、縒れたダンボールの中で仔犬が震えていた。
手を出しても抵抗せずに、震えたままじっと座っている。
僕は仔犬を抱きかかえ、建物の壁に寄りかかる。

でもその仔犬は、あの二人の関係を僕に伝えてはくれなかった。










あたしは今日も学校帰りにこの公園にやって来た。
カップアイスを2個持って。
だってここには、あたしを待っているカワイイ仔犬がいるんだもん。
仔犬とは5日くらい前に知り合った。
ゾウさん滑り台の、おなかの部分のトンネルで涼んでいたらコイツがやって来た。
座り込んでうたた寝してたから、すっごくびっくりした。
急に膝の上のっかって、じゃれてくるんだもの。


「おーい!来たぞー!」


建物の裏手に回ると、見慣れた制服の背中。

誰だ。

ソイツはあたしの気配に気が付いて、ゆっくり振り返った。


「ああっ!ナンでお前がこんな所にいるんだよっ!」


同じ学校の菊正宗。
学校で一番苦手なヤツ!
いや、一番はこの男にべったりのあの女っ!!
くう~っ、こんな所でこんなヤツに。


「その犬はあたしのっ!返せ!」


菊正宗から仔犬をひったくると、あたしはしゃがみこんで持っていたアイスを食べさせる。


「犬に・・・?」
「悪いかよ?」
「犬がアイスクリーム食べるなんて知らなかった」
「ええ~知らないの?だってアイスクリームじゃん。キライなヤツなんているのかよ?」
「でも、犬でしょ?」
「うっ・・・」


菊正宗はあたしの横にしゃがみこんで仔犬を覗き込む。


「ふうん」
「ナニがふうんだよ。ナンでお前がこんな所にいるんだ?」
「家の近くだから。そこを通ったら、この仔犬が見えたんで」
「あ、そうなんだ」


仔犬を覗き込む菊正宗の耳がスッゴク真っ赤。
よく見ると、ほっぺも首も真っ赤。


「ねえ、熱でもあるの?」
「え?なんで?」
「だって、真っ赤だもん」


お互いに顔を見合わせる。
その距離に、あたしまで顔が熱くなるのを感じた。
ちょっと気まずい雰囲気に、仔犬がもう一つのアイスをせがむ。

あたしの手の中で残っていたもう一つのアイスが溶けて、歪んだフタの隙間から溢れ出た。
仔犬は、汚れてしまった制服のスカートやらあたしの手を舐める。


「大丈夫?」
「うん、平気。替えあるから」


あたし達はもう一度顔を見合わせる。
お互い、いつも通りの顔色で。


「ねえ、そんなコトより」


あたしは予てからの大問題を投げかける。


「コイツ、お前んトコで飼えない?」
「この犬・・・?」
「うん」


すぐに発せられない返事に、その答えを知った。








僕達はあの日の彼等のようにベンチに座り、交代で仔犬を抱いた。
でも抱いているだけでは飽き足らず、彼女は仔犬を持ったままジャングル・ジムによじ登る。
僕も慌てて追いかけた。


「ほら、眺めがいいだろ?」


ジャングル・ジムの天辺で、仔犬を更に空高く掲げる。


「可哀想ですよ」


登るには不釣合いな年齢と意識して、少し恥らいながら彼女を見上げる。


「なんで?」
「知らないんですか?犬って高い所が嫌いなんですよ」
「え?・・・へえ・・・そう?」


彼女は胸に仔犬を抱き寄せ、頬摺りする。


「ホントだ・・・震えてる・・・ごめんな」


これが学園で問題児の彼女とはね。
あの日の、僕に一瞬だけ向けた優しさが、今は其処彼処に溢れている。
僕はジャングル・ジムの途中まで登り、彼女に手を差し出した。


「さ、こっちに」
「うん」


大事そうに仔犬を僕に渡す。
心配そうな視線が僕に向けられた時・・・彼女は眩しそうに目を細めた。


「あ・・・」


遠くに向けるような視線を僕に投げかける。


「どうしました?」


その視線、その表情のまま、彼女は静かに首を振る。


「・・・・・ううん、なんでもない。なんかちょっと、ヘンな気持ちがしただけ」
「ヘンな?気分でも悪いんですか?」
「ううん、そんなんじゃない。大丈夫。コイツ頼む」


僕はその時、ほんのちょっと期待した。
もしかして、あの日の事を思い出したのではないかと。

でも、そうではなかったようだ。










太陽の陽射しとジャングル・ジム、菊正宗のどこか不安そうな表情があたしに遠い昔を思い起こさせた。
まるで映画のフラッシュ・バックか、何かみたいに。
でもそれがなんの記憶なのかは分かんない。
胸がキュッと締め付けられる、そんな思い出。
なんだろう?


その思い出は、あたしをこの公園に引き寄せる要因?ってやつなのかなって思う。


時々・・・迎えの車を途中で降りてこの公園で過ごす時がある。
どうしてなのかは分かんないけど、とても懐かしくて、ちょっと苦しい感じがするんだ。

でも理由なんてもういいや。
だって、こんなカワイイ仔犬ちゃんに会えたもの。










「あの時の公園の、仔犬?」


記憶を辿ってやっと思い出したようだ。
悠理は男山とじゃれあいながら、きょとんとした瞳を向ける。


ああ、あれね。


彼女にとってはもう、大した出来事ではないのだ。


「しばらく公園に通ったんだけど、ある日行ったらいなくなってた。
きっと誰か善い人に拾われたんだ」
「なんだ、そっか」
「なんで今更。気になってたの?」
「だって俺、あいつの父親だもん」
「へ?」


ほらな、やっぱ忘れてる。
あの犬の両親って、俺達二人じゃなかったのかよ?


「親にとって、子供はいくつになっても子供なんだ」
「はあ?」
「どうなったんだろな、あいつ」


男山にほぼ押し倒された(?)状態の彼女を悩ましく(??)見つめながら、ちょっと落胆してみる。
あの出来事をきっかけに、俺達喧嘩友達の枠を超えたんだろが。


俺にとっては、意味のある出来事だったんだぜ。










仲間となった今でも、彼女があの日の僕達を思い出す事はないようだ。
偶然に遇ったあの日も。
偶然を装ったあの日も。
彼女にとって、あの記憶は・・・通り過ぎた一齣に過ぎないのだ。
記憶の断片でもない。



でも、あるいは、その事で救われているのかも知れない。



だって僕は何一つ、彼女の希望を適えさせなかったのだから。
今となっては、小さな出来事だったとしても、だ。














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